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第7回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~「結果」だけでなく「原因」を管理する。未来を創る「BSC」~

ROA・ROE・資本回転率・EBITDAなど、P/LやB/Sを使った数字の分析手法をお伝えしてきました。これらはいずれも、会社の実力や異常値を客観的に測る不可欠な指標です。しかし、実はこれら「財務の数字」だけをいくら厳しく追いかけても、会社の未来を良くすることはできません。

今回は、決算書の数字が持つ「限界」を知り、未来の業績をコントロールするための強力な経営ツール「BSC(バランスト・スコアカード)」について解説します。


ポイント① 財務指標は「過去の結果(遅行指標)」にすぎない

「来期は売上を10%上げろ!」「営業利益率を改善しろ!」——経営会議でよく聞かれる社長の号令です。しかし、現場の社員に向かってこのように叫んでも、業績はそう簡単には上がりません。

なぜなら、売上高・利益・ROA・EBITDAといった財務指標は、すべて「過去に行われた経営活動の最終的な結果」を表すものだからです。経営管理の世界では、こうした結果の数字を「遅行指標(遅れて現れる指標)」と呼びます。

スポーツに例えれば、決算書は「スコアボード」です。スコアボードの得点だけを睨みつけて「もっと点を取れ!」と怒鳴っても試合には勝てません。得点を取るためには「素振りの回数を増やす」「エラーをなくす」といった具体的な「現場のプレー(原因)」を改善する必要があります。財務という「結果」を良くするためには、その原因となる「現場の具体的な行動」を管理しなければならないのです。


ポイント② 未来を創る「BSC(バランスト・スコアカード)」の4つの視点

財務の結果を導き出す「原因」を管理するために1990年代にアメリカで開発され、今や世界中の企業で導入されているのが「BSC(バランスト・スコアカード)」です。BSCでは、会社を「財務」だけでなく、財務を良くするための「原因」となる3つの視点を加え、合計4つの視点でバランスよく管理します。

① 学習と成長の視点 従業員のスキルアップ・ITシステムの導入・モチベーションの向上など、会社の基礎体力を高めイノベーションを生み出すための視点。すべての出発点となる最も根源的な原因。
② 内部プロセスの視点 業務の効率化・不良品やミスの削減・納期の短縮など、現場のオペレーションをどれだけ優れたものにするかという視点。
③ 顧客の視点 内部プロセスを改善した結果として得られる、顧客満足度の向上・クレームの減少・リピート率のアップ・新規顧客の獲得といった視点。
④ 財務の視点 上記3つの結果として最終的に現れる、売上高の増加・コスト削減・ROAの向上・キャッシュフローの改善といった財務成果(結果指標)。

ポイント③ 「原因と結果」のストーリーで未来をデザインする

BSCが優れている最大のポイントは、4つの視点が「原因と結果(因果関係)」のストーリーとして一本の線で繋がっていることです。たとえば、経営分析によって「利益率が低下している」という異常値(結果)を見つけたとします。この改善策をBSCのストーリーに落とし込むと以下のようになります。

① 学習と成長 従業員にITツールの研修を受けさせ、スキルを向上させる
 
② 内部プロセス 発注業務・在庫管理がシステム化され、業務効率が上がり発注ミスが減る
 
③ 顧客 ミスがなくなり納期が短縮されることで、顧客の信頼度が高まりリピート率がアップ
 
④ 財務 売上が安定し、残業代・在庫ロスが減ることで、営業利益率が向上する

経営者は「利益を上げろ」という結果(財務)だけを現場に求めるのではなく、「来月までにこのIT研修を全員受講しよう(学習と成長)」「今期の不良品率を〇%以下に下げよう(内部プロセス)」といった、現場の社員が自らの努力でコントロールできる具体的な「原因(先行指標)」を目標として設定してあげる必要があります。


ポイント④ 失敗する企業の罠——「単なるKPIの羅列」になっていないか

日本の中小企業でもBSCを導入しようとして失敗するケースが多々あります。その最大の原因は「4つの視点のストーリーが繋がっていないこと」です。経営者が各部門の要望を聞きすぎた結果、以下のような関連性のない目標をバラバラに詰め込んでしまうのです。

  • 財務の目標:「とにかく売上10%アップ」
  • 顧客の目標:「新規顧客の獲得」
  • 内部プロセスの目標:「残業代の削減(コストダウン)」
  • 学習と成長の目標:「資格取得者の増加」

これでは「新規顧客を獲得するために忙しいのに、残業は減らせと言われ、さらに資格の勉強までしろというのか」と現場は混乱し疲弊してしまいます。

BSCは「あれもこれもやるためのチェックリスト」ではありません。経営者が自社の強みと弱みを見極め、「これをやれば、必ず財務の成果に繋がるはずだ」という研ぎ澄まされた一本のストーリー(戦略の仮説)を提示するためのツールなのです。


まとめ

決算書の財務指標は、経営の「現在地を確認する精度の高いGPS」です。しかし、未来の目的地へたどり着くためには、BSCのような「原因と結果のストーリー」を描き、現場を動かす運転技術が必要です。過去の数字を正しく分析して現在地を知り、未来への論理的なストーリーを描く——この両輪が揃ってこそ、環境の変化に負けない強い経営が実現します。

CVP分析・損益分岐点など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。