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第4回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~ROEを高める「財務レバレッジ」と、倒産を防ぐ「安全性分析」のジレンマ~
前回は、経営者目線の「ROA(総資産利益率)」と株主目線の「ROE(自己資本利益率)」について解説しました。投資家や株主は、単なる利益の「金額」ではなく、投下した資本に対する「パーセンテージ(効率)」を重視します。今回は、その「ROE」を劇的に引き上げる、ある種の「魔法」についてお話しします。しかし、その魔法には「会社の安全性」を犠牲にするという重い代償が伴います。 ポイント① 借金をして利益効率を高める「財務レバレッジ」の魔法 ROEは、次のように2つの要素に分解することができます。 ROE = ROA × 財務レバレッジ(総資産合計 ÷ 純資産) ここで登場する「財務レバレッジ」とは「てこ」のことです。借金(他人の資本)をてこにして少ない自己資金で大きな投資を行い、自己資本に対するリターン(ROE)を飛躍的に高める効果を「財務レバレッジ効果」と呼びます。 手持ちの自己資金が1億円あり、利回り10%が見込める賃貸マンションの投資案件があったとします。 A案:無借金で投資 B案:9億円借りて10億円投資 投資額 1億円(自己資金のみ) 10億円(自己資金1億円+借入9億円) 事業の利益(利回り10%) 1,000万円 1億円 支払利息(借入金利3%) なし 2,700万円(9億円×3%) 最終利益 1,000万円 7,300万円 ROE(自己資金1億円に対する利回り) 10% 73% 無借金のA案ではROE10%でしたが、借金をしたB案ではROEが73%にまで跳ね上がりました。事業そのものの利益率(ROA)は同じ10%でも、負債の依存率を高めて大きな投資を行えば、出資者にとっての投資利回り(ROE)は飛躍的に高まります。これが財務レバレッジの魔法です。 ポイント② 「魔法」が引き起こす逆回転——自己資本比率の悪化 「銀行の金利以上に利回りが稼げるなら、借金をして投資した方が得じゃないか!」と思うかもしれません。しかしこの魔法には決定的な弱点があります。それが借金が増えることによる「自己資本比率の悪化」という安全性の低下です。 A案の自己資本比率は100%(非常に安全)ですが、B案の自己資本比率はわずか10%(自己資金1億円÷総資産10億円)しかありません。もし経済環境が悪化して、不動産投資の利回りが10%から2%に落ち込んだらどうなるでしょうか。 A案(無借金) B案(借入9億円) 利回り低下後の利益(2%) 200万円 2,000万円 支払利息 なし 2,700万円 最終損益 200万円の黒字 ▲700万円の赤字 倒産リスク なし 資金ショートの危険 借金をして投資をするということは、事業がうまくいっている時はレバレッジが効いてリターンが高まりますが、事業が少しでも傾いた時にはそのレバレッジが「逆回転」し、一気に赤字転落・資金ショート(倒産)の危険性を高める諸刃の剣なのです。 ポイント③ 無借金経営=善とは限らない。アクセルとブレーキの最適バランスを探す 中小企業の経営において、「安全性を高める(倒産リスクを減らす)」ことと「ROEを高める(資本効率を上げる)」ことは、往々にしてトレードオフ(あちらを立てればこちらが立たず)のジレンマに陥ります。 自己資本比率を高めて安全性を追求しすぎると、投資効率(ROE)が悪化し、「資金を遊ばせていて成長しない会社」になってしまいます。 逆に、ROEの向上を求めて借金(財務レバレッジ)を増やせば、自己資本比率が低下し、不況時にたちまち倒産の危機に瀕することになります。 会社としては、無借金経営が常に望ましいわけではなく、会社の置かれた状況や環境によって、都度あるべき借入の割合を検討する必要があります。これは経営者と、その判断を数字で支える顧問税理士などの専門家が連携して取り組むべき重要な課題です。 経営分析の数字は、このアクセル(収益性)とブレーキ(安全性)の踏み具合を客観的なデータとして突きつけてくれます。自社の現在の自己資本比率とROEを見比べながら、「今のウチの会社は、もう少しアクセルを踏んで勝負に出るべきか、それともブレーキを踏んで安全性を高めるべきか」を考えてみてください。 まとめ ROEを高めるには、借入金を活用する「財務レバレッジ」という強力な方法があります。しかしそれは、不況時に倒産リスクを高める「自己資本比率の低下」と表裏一体です。会社の「稼ぐ力(収益性)」と「潰れない力(安全性)」の最適バランスを見つけることこそが、経営者の最も重要な役割のひとつです。 資本回転率・損益分岐点・CVP分析など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第3回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~会社が本当に儲かっているかを示す真の指標「ROA」と「ROE」~
P/Lの利益を「比率」で見ることでコスト体質の変化を見抜く方法をお伝えしてきました。今回は、P/L(利益)とB/S(資産・負債・純資産)の数字を組み合わせ、企業の「真の稼ぐ力」を測る指標について深掘りしていきます。 ポイント① 利益の「額」だけを追う罠——「前年超え」の落とし穴 日本企業の多くの経営者や部門責任者は、「部門損益(P/L)」だけを見ています。「前年度よりも売上を増やす、利益の金額を増やす」という「前年対比型」の目標には一生懸命に取り組みますが、「その利益を出すために、いくらの資産(お金)を会社から預かっているのか」を把握している人は驚くほど少ないのが現実です。 たとえば、「今期は営業利益が5,000万円出た!前年の3,000万円から大幅アップだ!」と喜んでいる会社があったとします。しかし、その利益を出すために銀行から多額の借金をして5億円の新工場を建て、大量の在庫を抱え込んでいたとしたらどうでしょうか。投資額が何倍にも膨れ上がっているのに利益が2,000万円しか増えていないのであれば、それは「投資効率が悪化している(商売が下手になっている)」ことを意味します。 ビジネスの基本は「リスクに見合ったリターンを得ること」です。「いくら稼いだか(利益の額)」だけでなく、「いくら投資して、その利益を稼ぎ出したか(投資に対する効率)」を見なければ、会社が本当に儲かっているのかを正しく評価することはできません。 ポイント② 誰の目線で「稼ぐ力」を測るか——ROAとROE 「投資とリターン」の関係を、誰の目線で見るかによって使う指標が変わります。 ROA(総資産利益率) 「経営者」の目線。経営者は借入金も含めた「すべての財産(総資産)」を投資として運用しています。その全財産を使って、どれだけ利益を稼いだかを示します。 ROE(自己資本利益率) 「株主」の目線。株主にとって会社の正味財産こそが自らの「投資金額」です。株主が投下した自己資本(純資産)に対して、どれだけリターン(当期純利益)を生み出したかを示します。 ここで、架空の中堅メーカー・C社の2つの事業部をROAの視点で比較してみましょう。 X事業部 Y事業部 営業利益 5,000万円 3,000万円 使っている総資産 10億円 3億円 ROA 5% 10% C社の社長はこれまで利益の「額」だけを見て、5,000万円を稼ぎ出すX事業部ばかりを高く評価し、エース級の人材と資金を投入していました。しかしROAを計算してみると事態は一変します。Y事業部の方が、少ない資産で効率よく利益を稼ぎ出している「優秀な事業部」であることがわかります。この事実に気づいた社長は、次期の中期経営計画において資金を投下する優先順位をY事業部へと切り替えるという、合理的な「次の一手」を打つことができました。 ポイント③ 株主・投資家は「額」ではなく「パーセンテージ」を要求する 多くの経営者が勘違いしていますが、投資家や株主が「売上を増やしてくれ」「利益の金額を増やしてくれ」と言うことはありません。彼らが経営者に常に求めるのは、投資に対する「パーセンテージ(利回り)」です。 社内の会議で「うちの部門は利益の額こそ少ないですが、一応黒字ですから会社に貢献していますよね?」と胸を張る管理職がいます。しかし、そのわずかな黒字を出すために莫大な資産を抱え込み、ROAが1〜2%程度しかないとしたら、資産の使い方として非常に効率が悪い状態と言わざるを得ません。 「ウチは利益が出ている」と安心する前に、「その利益を出すために、いくらの資産を使っているか」を計算する習慣を持ちましょう。利益の「額」ではなく「効率(%)」で自社を評価することが、本当に強い会社をつくる第一歩です。 まとめ ROAとROEは、P/L(利益)とB/S(資産・資本)を組み合わせた、企業の実力を測る究極の指標です。単に利益の額を追うだけでなく、「どれだけの資産を使って、その利益を稼いだか」という投資効率の視点を持つことで、経営判断の精度は格段に上がります。 財務レバレッジと安全性分析・資本回転率・CVP分析など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第2回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~P/Lは金額ではなく「比率」で見よ!利益構造の真実~
決算書の数字は「過去・他社・目標」の3つと比較して初めて「異常値」が見えてくることを前回お伝えしました。今回は、会社の成績表である損益計算書(P/L)の数字を比較する際の「極意」について解説します。 ポイント① 「売上アップ!」と喜ぶ社長の死角 建材卸売業を営むB社の社長は、決算書を見て大喜びしていました。「今期の売上は5億円だ!前期の3億円から大幅アップで過去最高だ!」しかし、経理担当者の表情は晴れません。「社長、たしかに売上は伸びましたが、営業利益は前期と同じ3,000万円のままです」 売上が3億円から5億円に2億円も増えたのに、本業の儲けである営業利益が1円も増えていない。これは、売上を増やすためにそれ以上のペースで経費(コスト)が膨らんでしまっている証拠です。 P/Lを金額(絶対額)だけで見ていると、「売上が増えて良かった」「利益が出ているから大丈夫」といった表面的な感想しか出てきません。金額だけを追う経営は、水面下で抱え始めている「コスト体質の悪化」という重大な病のサインを見落としてしまう危険性があります。 ポイント② P/Lは「金額」ではなく「比率」に置き換える 会社の本当の利益構造を知るためには、P/Lの各項目を金額ではなく、「売上高を100%としたときの比率」に置き換えて比較する必要があります。先ほどのB社の数字を比率に置き換えてみましょう。 前期(売上3億円) 当期(売上5億円) 売上高 3億円(100%) 5億円(100%) 売上原価 2.1億円(原価率70%) 3.5億円(原価率70%) 販売費及び一般管理費 6,000万円(販管費率20%) 1.2億円(販管費率24%) 営業利益 3,000万円(営業利益率10%) 3,000万円(営業利益率6%) 仕入価格である「原価率」は70%のまま変わっていませんが、給与や広告費・運賃などの「販管費率」が20%から24%へと4ポイントも悪化し、結果として営業利益率が10%から6%に急落している事実が浮き彫りになりました。 ポイント③ 利益率の悪化は「無理な商売」の警告サイン 比率の悪化(異常値)を見つけたら、「なぜそうなったのか」という原因を現場に確認します。調べてみると、B社では売上目標を達成するために通常は取引しないような遠方の顧客まで無理に営業を広げていました。その結果、売上は伸びたものの、長距離の「運送費」が急増し、さらに新規顧客を獲得するための過剰な「広告宣伝費」や「接待交際費」がかさんでいたのです。 利益率が低下しているということは、商売の効率が悪くなり、資金繰りに余裕がなくなっていることを意味します。薄利多売の戦略を意図的に取っているなら別ですが、気づかないうちに利益率が悪化しているのは非常に危険です。経営者は金額の増減に一喜一憂するのではなく、比率ベースで会社の体質を定点観測する習慣を持つことが大切です。 ポイント④ 利益率を改善するための「2つのアプローチ」 P/Lを比率で分析し利益率の悪化に気づいた場合、打つべき手は大きく2つしかありません。 ① 固定費を減らす 人件費・家賃・無駄な交際費といった固定費(売上の増減に関わらず一定にかかるコスト)そのものを削減することで利益率を改善します。B社であれば、遠方への強引な営業をやめ、過剰な広告費や交際費を見直すことがこれに当たります。 ② 付加価値(限界利益)を多く稼ぐ 売上から変動費(仕入原価など)を引いた「付加価値(限界利益)」を大きくすることです。「材料単価を引き下げて原価率を下げる」か、「商品・サービスの質を高め販売価格をアップさせる」という方法があります。安易な値引きに頼らず、顧客に価値を認めてもらい適切な価格で買ってもらう努力が必要です。 まとめ 損益計算書は、金額の羅列をただ眺めるのではなく、売上高を100とした「比率の推移」を過去と比較することで、利益構造の歪みにいち早く気づくことができます。異常に気づいたら「固定費の削減」か「付加価値の向上」のどちらに手を打つべきかを考えましょう。 ROAとROE・安全性分析・CVP分析など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第1回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~決算書をただ眺めるのはNG。「3つの比較」で異常値を見つける~
決算書は会社の「健康状態を表すカルテ」であり、経営分析は「現在地を確認するGPS」です。しかし、数字をただ眺めているだけでは、会社の本当の姿は見えてきません。今回からは、具体的にどうやって自社の異常を見つけ、未来に向けた「次の一手」を打つのかという、より実践的な経営分析のステップに入ります。 ポイント① 数字は「結論」ではなく、ただの「事実」にすぎない 「社長、今期の売上高は過去最高の5億円を達成しました!利益も1,000万円出ています!」 経理担当者からこう報告されたら、皆さんはどう応えますか。「よくやった!」と手放しで喜ぶでしょうか。しかし、数字だけを見て喜ぶのは危険です。 分析において最も大切な大前提は、「数字は結論ではない」ということです。たとえば、売上が過去最高でも、実はライバル企業はもっと高い伸び率を記録しており、市場シェアを奪われているかもしれません。あるいは、利益が1,000万円出ていても、在庫が異常に積み上がっており、来期には資金ショートを起こす「黒字倒産」の予兆が隠れているかもしれません。 つまり、決算書の数字は結論ではなく、なぜそういう数字になっているのかという原因や内訳を調べるためのスタートラインにすぎないのです。 ポイント② 異常を見つけるための基本動作「3つの比較」 ただ並んでいるだけの数字から、どうやって「異常値」を見つけ出せばよいのでしょうか。そのための基本動作が「3つの比較」です。数字というのは、他の数字と比較して初めてさまざまなことが見えてきます。 ① 過去との比較 前年同月や過去3期間分の決算書を並べて比べてみます。すると、「売上は伸びているが、実は利益率は3年連続で低下している」「交際費が急激に膨らんでいる」といった、単年度の決算書を見ているだけでは気づかない「体質の変化」が見えてきます。 ② 目標との比較 期首に立てた経営計画や年度予算と、実際の実績との比較です。どこが目標未達になっているか、あるいはどこが達成できているかを確認し、未達の場合はその原因を究明して改善策を打ちます。 ③ 他社との比較 ライバル会社や同業者平均と比べて、自社がどこで勝っていてどこで負けているかを数字で見ます。「他社の財務データなんてどうやって手に入れるの?」と疑問に思われるかもしれませんが、インターネットを使えば無料で引き出すことができます。 上場企業をベンチマークにする(EDINETの活用):同じ業界の上場企業の有価証券報告書は、金融庁の「EDINET(エディネット)」で誰でも無料で閲覧できます。業界トップ企業の人件費率・原価率を自社と比べることで、経営の改善余地が見えてきます。 公的データの活用:中小企業の業種別財務データとして実務的に使いやすいものとして、以下の2つがあります。 日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(https://www.jfc.go.jp/n/findings/shihyou_kekka_m_index.html):業種ごとに収益性・生産性などの指標値が集計されています。 東京都中小企業診断士協会 財務診断研究会(https://www.zaimu-shindan-kenkyukai.jp/中小企業の財務指標/):中小企業実態基本調査のデータを業種別に整理したExcelファイルをダウンロードできます。小売業・製造業・建設業・卸売業など業種別に確認できます。 いずれも無料で利用でき、自社の立ち位置を客観視するのに役立ちます。 ポイント③ 数字の裏にある「原因」を探り、正しく「評価」する 「3つの比較」で異常値を見つけ、その原因や内訳をつかんだら、最後に行うのが「評価」です。その数字の変化が、会社の将来という観点で見た時に良いことなのか、悪いことなのかを判断し、理由を付けて説明できて初めて「分析」と呼べます。 この「評価」を誤ると、経営は致命傷を負います。たとえば、以下のようなケースを考えてみましょう。 ある地域密着型の工務店が、資金繰りの悪化を受けて徹底的なコスト削減に乗り出しました。その一環として、長年顧客から信頼を集めてきた熟練職人を削減し、人件費を大幅に圧縮しました。直後の数ヶ月間は人件費が削減され、利益率が改善したように見えました。しかし、施工品質の低下により顧客からのクレームが増加し、長年積み上げてきた口コミや紹介による受注が激減。最終的には売上そのものが大幅に落ち込んでしまいました。 「人件費を削って利益率が改善した」という数字に対し、「利益の源泉である施工品質と信頼を破壊しているから、長期的には致命傷になる」という正しい評価を下せなかったことが、この会社の悲劇でした。 まとめ 経営分析は、「数字(異常値)を見つける」→「事実(原因)を調べる」→「自社の強みや将来に照らし合わせて評価する」というステップで進みます。数字はあくまでスタートラインです。その裏にある「なぜ?」を追い続けることが、経営者としての本当の仕事です。 P/Lの比率分析・ROAとROE・安全性分析など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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