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[番外編]経営者のための経営戦略 ~「この機械の利回りは何%?」——NPVを補完する「内部利益率(IRR)」の使い方~
全7回にわたる「経営者のための経営戦略」シリーズをお読みいただき、誠にありがとうございました。本編では、数百万・数千万円の機械を買うかどうかの投資判断のツールとして「NPV(正味現在価値法)」を中心に解説しました。時間価値と税金を考慮した上で、金額ベースで投資の採算性を判定する手法です。
しかし実務の現場には、NPVと並んで頻繁に用いられるもう一つのツールが存在します。今回の番外編では、「内部利益率(IRR)」の具体的な算出方法とその弱点について解説します。
ポイント① 社長は「金額」よりも「パーセンテージ(%)」がお好き
前シリーズでは、「この新しい機械を導入すれば、最終的にNPVがプラス559万円になりますからGOサインです」という説明をしました。論理的にはこれで十分なのですが、中小企業の社長にこの説明をしても、いまいちピンとこない(腹落ちしない)ことがよくあります。
なぜなら、経営者は普段から銀行の借入金利(%)や売上高営業利益率(%)といった「率」の指標に慣れ親しんでいるためです。「金額で儲かるのも大事だけど、結局この設備投資は年利何%の利回りになるの?」というパーセンテージでの説明を好む傾向があります。NPVという金額の絶対値だけでは、投資の効率性が直感的に掴みにくいという実務上の悩みがあります。
ポイント② 投資の利回りを示す「内部利益率(IRR)」
そこで実務の現場においてNPVとセットでよく使われるのが「内部利益率法(IRR:Internal Rate of Return)」です。その設備投資プロジェクトが「実質的に何%の利回りを生み出すか」を計算する手法です。
| NPV(正味現在価値法) | 投資によって会社にいくらのキャッシュ(金額)が残るかを示す絶対基準 |
| IRR(内部利益率法) | 投資に対する収益率(パーセンテージ)を示す相対基準 |
IRRの使い方はシンプルです。「社長、この新しい機械の投資利回りは10%です。自社の資本コスト(銀行の借入金利など)が3%ですから、十分に元が取れますし、銀行の金利も余裕で払えますよ」といった具合に説明できます。金額(NPV)だけではイメージしづらかった投資の魅力が、金利(%)と比較することで、経営者の直感にダイレクトに響くようになります。
ポイント③ どうやってIRRを算出するのか?
では、IRRはどのように算出すればよいのでしょうか。管理会計の理論上、IRRは「将来得られるキャッシュフローの現在価値の合計が、初期の投資額とピッタリ等しくなる(=NPVがゼロになる)割引率」と定義されます。
オリジナル事例でシミュレーションしてみましょう。1,200万円の機械を導入し、向こう4年間、毎年320万円の正味キャッシュフローが得られる投資案があるとします。4年間でトータル1,280万円が返ってくるわけですが、時間価値を考慮した「真の利回り(IRR)」は何%になるでしょうか。
これを手計算で求めるのは非常に厄介です。なぜなら、1%・2%・3%……と様々な割引率を公式に当てはめて、現在価値の合計がちょうど1,200万円になるまで試行錯誤を繰り返さなければならないからです。
しかし、現代の実務において社長が複雑な数学を解く必要はありません。表計算ソフト(Excelなど)の「IRR関数」を使えば一瞬で答えが出ます。Excelのセルに、投資した年の「-1,200(万円)」、1〜4年目の「320(万円)」を4つ並べて入力し、「=IRR(範囲)」と関数を適用するだけです。
| 初期投資額 | ▲1,200万円 |
| 1〜4年目の年間キャッシュフロー | 各320万円 |
| IRR(Excelで算出) | 約2.6% |
「実質的な利回りが約2.6%なら、自社の借入金利と比較してどうか」という観点で、客観的な数字に基づいてスピーディーに判断できます。仮に借入金利が2%であれば投資に値すると判断できますし、借入金利が3%であれば見送りを検討すべきということになります。
ポイント④ IRRの弱点——なぜ絶対基準はNPVなのか?
こんなに便利でExcelでも簡単に計算できるIRRを、なぜ本編から外したのでしょうか。それは、IRRには理論上の弱点が2つ存在するからです。
弱点1:規模の異なる投資案の比較で矛盾が生じる
| A案 | 投資額100万円・利回り(IRR)20% |
| B案 | 投資額1,000万円・利回り(IRR)15% |
利回りだけで判断するIRRの基準に従えば「A案を採用すべき」という結論になります。しかし、会社に残る絶対的な利益金額(NPV)で計算すると、投資規模の大きいB案のほうが会社により多くのキャッシュを残し、企業価値を高めるという逆転現象が起こることがあります。利回り(%)が高いからといって、手元に残る現金が多いとは限らないのです。
弱点2:計算上、答えが複数出てしまうことがある
機械の入れ替えや途中での追加投資・撤退に伴う損失など、将来のキャッシュフローがプラスとマイナスを何度も行き来するような複雑なプロジェクトでは、計算上IRRの答えが複数出てしまう(たとえば「10%と30%」のように)という数学的な欠点があります。これでは、どちらの利回りを信じていいのかわかりません。
短い連載の中で「NPV(金額)」と「IRR(率)」を両方紹介すると、「結局どちらの数字を信じて投資を決断すればいいのか?」と読者を混乱させてしまうため、本編ではどんな場合でもブレない絶対基準である「NPV」に絞りました。
まとめ——数字の力で経営を強くする
理論上の弱点はあるものの、実務においてIRRは経営者の直感に訴えかける有力なプレゼンツールです。「まずExcelのIRR関数で投資の利回りを直感的に把握し、最終的な決断や複数の投資案の比較には絶対基準であるNPV(金額)を用いる」という使い分けが、ひとつの実務的なアプローチとして参考になるかと思います。
「自社の適正な発注・在庫量はどのくらいか」「高額な機械を買う前に、プロの視点で利回り(IRR)やNPVを正確にシミュレーションしてほしい」——こうした日々の決断に迷いや不安を感じられたら、ぜひ私たち会計の専門家にご相談ください。全22回+番外編でお届けしてきた管理会計・戦略会計の知識が、社長様の会社にキャッシュを残し、明るい未来を拓くための「羅針盤」となれば幸いです。

