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第14回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~セールスミックスの意思決定——制約条件下で利益を最大化する「攻め」の決断~

これまで学んできたCVP分析(限界利益の考え方)の総決算として、今回は「複数の自社製品のうち、どれを優先して生産・販売すれば、会社全体の利益が最大化するのか?」という「セールスミックス(プロダクト・ミックス)の意思決定」について解説します。


ポイント① 「利益率の高い商品を優先して売れ!」は正しいか?

中堅の印刷会社(K社)の経営会議での出来事です。K社では、自社の印刷機を使って2種類の印刷物を受注・製造しています。それぞれの1件あたりの価格とコスト構造は以下の通りでした。

  製品A(高級カタログ印刷) 製品B(チラシ・フライヤー印刷)
販売価格(1ロットあたり) 1,000,000円 800,000円
変動費(1ロットあたり) 500,000円 600,000円
限界利益(1ロットあたり) 500,000円 200,000円
限界利益率 50% 25%

K社の社長は、営業部長と工場長にこうゲキを飛ばしました。「うちの稼ぎ頭は、1ロット(1,000部単位)受注すれば50万円も限界利益が出て、利益率も50%と圧倒的に高い『製品A』だ。利益率の低い製品Bはそこそこにして、これからは全社を挙げて製品Aを優先的に受注して作れ!」

さて、この社長の判断は「経営として当然の指示だ」と思われるでしょうか?


ポイント② ビジネスに潜む「ボトルネック(制約条件)」を見逃すな

結論から言えば、社長のこの指示は会社に多大な「機会損失(儲けそこない)」をもたらす危険な判断です。

もし工場に無限の生産能力があり、市場にも無限の需要があるのなら、「1件あたりの限界利益」や「限界利益率」が高い製品Aを優先して作るのが正解です。しかし、現実のビジネスには必ず「これ以上はどうにもならない」という「制約条件(ボトルネック)」が存在します。

K社の印刷物は、特殊な高精度印刷機を使って製造されますが、工場内の印刷機5台合計で年間20,000時間(1台あたり年間4,000時間)しか稼働できないという制約条件がありました。さらに、1ロットの印刷物を製造するために必要な機械の作業時間は以下の通りです。

製品Aの製造に必要な時間(1ロットあたり) 10時間
製品Bの製造に必要な時間(1ロットあたり) 2時間

ポイント③ 直感が裏切られる!「制約条件1単位あたり」の限界利益

視点を変えて、「制約条件(機械の稼働時間)1時間あたり、いくらの限界利益を稼ぎ出しているか」を計算してみましょう。

  製品A 製品B
1ロットあたりの限界利益 500,000円 200,000円
製造に必要な時間 10時間 2時間
1時間あたりの限界利益 50,000円 100,000円

製品Aは1ロットあたりの利益額こそ大きいものの、作るのに時間がかかりすぎます。逆に製品Bは1ロットあたりの利益は少ないですが、短い時間で次々と生産できます。結果として「機械を1時間動かしたときに会社に入ってくる限界利益」は、利益率の低い製品Bの方が2倍多いのです。

年間20,000時間をそれぞれの製品に全振りした場合の限界利益総額を比較すると、その差は歴然です。

製品Aを優先した場合 2,000ロット生産 × 500,000円 = 10億円
製品Bを優先した場合 10,000ロット生産 × 200,000円 = 20億円

社長は「利益率の高いAを売れ」と指示しましたが、制約条件の下で真に会社の利益を最大化させる正解は、「Aの受注を絞ってでも、製品Bを全力で作って売る」ことだったのです。


ポイント④ 制約条件の種類によって「使うべき指標」は変わる

「機械の稼働時間」が制約となっているケースをご紹介しましたが、ビジネスの制約条件はそれだけではありません。制約条件が何であるかによって、経営者が使うべき判断指標は明確に変わります。

消費者の購買金額(予算)に限界がある場合 売上高に対する利益の割合である「限界利益率」が高い製品を優先する
消費者の購買数量や自社の生産数量に限界がある場合 「1個あたりの限界利益の額」が大きい製品を優先する
機械の稼働時間や労働時間に限界がある場合 「時間単位あたりの限界利益の額」が最も大きい製品を優先する
制約条件がない場合(理論上) 「限界利益の額」全体を最大化することを考える

経営者は「とにかく利益率の高いものを売れ!」と一律に指示するのではなく、「いま、自社のビジネスにおいて最も深刻な制約条件(ボトルネック)は何か?」を見極め、それに合わせた適切な指標を選択しなければなりません。


ポイント⑤ ボトルネックを解消し、全体最適を目指す

製品Bの生産に集中し、年間20,000時間の稼働時間を使い切ってしまった場合、それ以上売上を伸ばすことはできないのでしょうか。ここで登場するのが「外注」や「設備投資」の視点です。

製品Bの需要がまだ市場にあるのなら、ボトルネックとなっている「印刷機の稼働時間」を解消するために、新たな機械を購入したり一部の工程を外部業者に外注したりして、制約条件そのものを突破(生産能力の拡張)することを検討すべきです。「制約条件を見極めて利益を最大化するパズルを解くこと」と「制約条件そのものを投資によって解消すること」——この両輪を回すことが企業の力強い成長につながります。


まとめ

「限られた経営資源を使って、どの製品を優先して売るか」というセールスミックスの意思決定においては、表面的な「利益率」や「1件あたりの利益額」に騙されてはいけません。自社の最大のボトルネック(制約条件)が何かを正しく見極め、その制約条件のもとで最も効率よく限界利益を稼ぎ出す指標を選択することが、利益最大化への有効なアプローチです。

事業撤退の判断基準など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。