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第7回 経営者のための相続・事業承継 ~事業承継税制(特例措置)——期限と、後継者の役員要件~
自社株式の評価額が高額になっている会社では、後継者への移転にあたって多額の贈与税・相続税が生じます。この負担を軽減する制度として設けられているのが、非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予制度、いわゆる事業承継税制です。
この制度には平成21年度に創設された一般措置と、平成30年度税制改正で設けられた特例措置があります。特例措置は期間を限定した措置であり、適用を受けるには定められた期限までに手続きを進める必要があります。
今回は、特例措置の内容と現在の時間軸、そして適用後に納税猶予が打ち切られる事由について解説します。期限との関係で検討の対象となるのは主に贈与による適用ですので、贈与を中心に取り上げ、適用後の継続要件は贈与・相続に共通するものとして整理します。
ポイント① 特例措置と一般措置の違い
特例措置は、一般措置における制限を緩和した内容となっています。
| 一般措置 | 特例措置 | |
| 事前の計画策定 | 不要 | 特例承継計画の提出が必要 |
| 適用期限 | 定めなし | 令和9年12月31日までの贈与・相続 |
| 対象株式数 | 発行済議決権株式総数の3分の2まで | 上限なし(全株式) |
| 相続税の猶予割合 | 対象株式の課税価格の80% | 100% |
| 贈与税の猶予割合 | 対象株式の課税価格の全額 | 全額 |
| 承継の形態 | 先代経営者1人から後継者1人 | 複数の株主から最大3人の後継者へ |
| 雇用確保要件 | 未達の場合は猶予打切り | 未達でも報告により継続可能 |
| 相続時精算課税の適用 | 推定相続人・孫への贈与 | 推定相続人・孫以外への贈与も可 |
相続税について猶予割合が80%から100%になった点と、対象株式数の上限が撤廃された点が、特例措置の中心となる違いです。贈与税については一般措置でも全額が猶予されますが、対象となる株式数に上限があるため、実質的な効果には差があります。
一方で、特例措置には一般措置にない制約もあります。特例承継計画を提出しておく必要があり、贈与・相続を行う期限も定められています。この点はポイント②で詳しく取り上げます。
また、第6回で解説したとおり、相続時精算課税は本来、推定相続人である子や孫への贈与に限って選択できる制度です。特例措置では、この範囲が拡大され、親族外の後継者へ株式を贈与する場合にも相続時精算課税を適用できます。
また、贈与税の納税猶予を受けた後に贈与者が亡くなった場合には、猶予されていた贈与税が免除され、相続税の納税猶予へ切り替えることができます。これにより、生前に議決権と株式を後継者へ移転しておくことが可能になります。
ポイント② 期限と、贈与を実行するための要件
特例措置は期間を限定した措置であり、2つの期限が定められています。
| 特例承継計画の提出期限 | 令和9年9月30日 |
| 贈与・相続の実行期限 | 令和9年12月31日 |
特例承継計画の提出期限は、令和8年度税制改正により令和8年3月31日から1年6か月延長され、令和9年9月30日となりました。一方で、贈与や相続そのものを行う期限は令和9年12月31日のまま変更されていません。
この点が実務上重要です。計画の提出期限が延びたことで時間に余裕ができたように見えますが、実行期限は据え置かれています。計画を令和9年9月末に提出した場合、実行までに残された期間は3か月程度です。
そして、贈与によって適用を受ける場合には、残された期間の長さ以上に、次に述べる要件を満たせるかどうかが問題になります。
贈与を実行するための要件
贈与税の納税猶予を受けるには、会社・先代経営者・後継者のそれぞれについて要件を満たし、あわせて担保を提供する必要があります。
| 会社 | 上場会社、中小企業者に該当しない会社、風俗営業会社、資産管理会社(一定の要件を満たすものを除きます)のいずれにも該当しないこと |
| 先代経営者 | 会社の代表権を有していたこと。贈与の直前において、同族関係者と合わせて総議決権数の50%超を保有し、かつ後継者を除いた同族関係者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと。贈与の時において代表権を有していないこと(贈与までに代表を退任する) |
| 後継者 | 贈与の直前において3年以上役員であり、かつ贈与の時において代表者であること。贈与の時において18歳以上であること。贈与の時において、同族関係者と合わせて総議決権数の50%超を保有し、かつ同族関係者の中で最も多くの議決権数を保有すること |
| 株式数 | 一定数以上の株式をまとめて贈与すること。少しずつ贈与していく方法では適用を受けられない |
| 担保 | 猶予される贈与税額および利子税の額に見合う担保を税務署に提供すること |
会社の要件にある資産管理会社については、適用後に該当した場合にも猶予が打ち切られるため、ポイント④で詳しく取り上げます。
担保については、この特例の対象となる非上場株式等の全部を担保として提供した場合には、猶予税額等に見合う担保の提供があったものとみなされます。株式のほかに不動産等を差し入れる必要はありませんが、提供の手続き自体は申告期限までに済ませておく必要があります。
先代経営者と後継者の議決権に関する要件は、通常の同族会社であれば自然に満たされます。ただし、過去に相続や贈与によって株式が親族に分散している会社では、先代経営者が筆頭株主でなくなっていることがあります。株主名簿上の議決権割合を事前に確認しておく必要があります。
実際の手続きとしては、代表の交代、株式の譲渡承認手続き、贈与契約の締結、株主名簿の書換えを行うことになります。あわせて、他の相続人との調整も必要になります。
なお、ここで述べた要件は贈与による場合のものです。相続による適用では、後継者は相続開始の直前において役員であり、相続開始から5か月以内に代表者となることが要件とされており、3年という期間の定めはありません。
「役員就任から3年」がもっとも大きな制約になる
上記のうち、実務上もっとも時間を要するのが、後継者が贈与の直前において3年以上役員であるという要件です。
後継者がまだ役員になっていない場合、いま就任しても3年を満たすのは令和11年以降となり、実行期限である令和9年12月31日までに贈与することができません。つまり、計画の提出期限にはまだ時間があっても、後継者が役員でなければ、贈与による特例措置の適用はすでに間に合わない状況です。
贈与による適用を検討するのであれば、後継者がすでに3年以上役員であるかどうかを最初に確認してください。
要件を満たしている場合は、代表の交代と役員退職金の支給、そして贈与の実行をどの時期に行うかを設計することになります。第5回で解説したとおり、退職金の支給により株価が下がった時点を捉えることもできますが、実行期限が令和9年12月31日であることを踏まえると、選べる時期は限られます。
贈与後の手続き
贈与を実行したあとは、贈与の年の10月15日から翌年1月15日までに都道府県知事へ認定申請を行い、交付された認定書の写しを添付して、贈与税の申告期限(翌年3月15日)までに申告します。期限内申告が要件とされているため、期限後申告では適用を受けられません。
なお、自社株の評価は、贈与の時点で済んでいることが要件とされているわけではありません。ただし、猶予される税額の把握や贈与する株数の判断に必要であり、認定申請が申告期限より前に行われることからも、贈与の前に評価しておくのが実務の通常です。
計画の提出と実行の順序について
中小企業庁の案内では、特例承継計画を令和9年9月30日までに申請し、令和9年12月31日までに事業承継を行うという順序で説明されています。都道府県によっては、事前に特例承継計画の確認を受けておく必要がある旨を明記しているところもあります。
認定申請の際に特例承継計画を併せて提出する取扱いもあるとされていますが、運用は都道府県により異なる可能性があります。実際に進める際は、本店所在地の都道府県の担当窓口に確認したうえで、スケジュールを組み立ててください。
ポイント③ 雇用確保要件は緩和されている
ここからは、贈与税・相続税のいずれの納税猶予にも共通する内容です。適用後に猶予を継続するための要件と、打ち切られる事由を見ていきます。
一般措置では、承継後5年間の平均で従業員数の8割を維持できなかった場合、納税猶予が打ち切られました。この要件が、制度の利用をためらう理由になっていました。
特例措置では、この取扱いが変更されています。適用後5年間の従業員数の平均が贈与・相続の時と比べて8割を下回った場合であっても、その理由を記載した報告書を提出することで、納税猶予は継続します。
報告書には認定経営革新等支援機関による所見の記載が必要です。従業員数の減少の理由が経営悪化等による場合には、あわせて認定経営革新等支援機関による指導および助言を受ける必要があります。
この報告書は、5年経過時点の年次報告書の提出に併せて都道府県へ提出します。手続きは必要ですが、要件を満たせなかったことだけを理由に猶予が取り消されることはありません。
ポイント④ 納税猶予が打ち切られる主な事由
一方で、次に該当した場合には猶予が打ち切られ、猶予されていた税額と利子税を納付することになります。
① 経営承継期間中の代表権の喪失
贈与税または相続税の申告期限の翌日から5年間を経営承継期間といい、この期間中は後継者が会社の代表者であり続ける必要があります。この間に代表権を失った場合、猶予は打ち切られます。ただし、身体障害等のやむを得ない理由による場合は例外とされています。
5年経過後は、代表者でなくなっても差し支えありません。株式を継続して保有していることが要件となります。
② 対象株式の譲渡等
猶予の対象となっている株式を譲渡または贈与した場合、その部分について猶予が打ち切られます。経営承継期間中は一部の譲渡でも全額が打ち切られ、期間経過後は譲渡した部分に対応する税額が確定します。
第8回で解説する金庫株(会社による自己株式の取得)も株式の譲渡に該当するため、この事由に当たります。納税資金対策として金庫株を検討する場合には、事業承継税制との関係を整理しておく必要があります。
③ 資産保有型会社・資産運用型会社への該当
この制度は事業を営む会社を対象とするものであり、資産の保有や運用が中心の会社は除かれます。
| 資産保有型会社 | 特定資産(有価証券、自ら使用していない不動産、現預金等)の帳簿価額の合計額が総資産の70%以上を占める会社 |
| 資産運用型会社 | 特定資産からの運用収入が総収入金額の75%以上を占める会社 |
ただし、常時使用従業員が5人以上いること、事務所等を所有または賃借していること、3年以上継続して事業を行っていることなどの要件を満たす場合には、これらに該当しないものとして扱われます。
業績が良く現預金が積み上がっている会社や、余剰資金で有価証券や不動産を取得した会社では、意図せずこの基準に触れることがあります。適用後も定期的に比率を確認しておく必要があります。
④ 会社の解散
会社が解散した場合、猶予されていた税額は納付することになります。ただし、経営環境の変化により会社の価値が低下している場合の再計算・免除の措置が設けられています。
⑤ 報告書・届出書の未提出
納税猶予を継続するには、定期的な報告が必要です。
| 経営承継期間(5年間) | 都道府県へ年次報告書を年1回、税務署へ継続届出書を年1回提出 |
| 5年経過後 | 税務署へ継続届出書を3年に1回提出 |
これらの提出を怠ると、他の要件を満たしていても納税猶予は打ち切られます。やむを得ない事情がある場合の取扱いは設けられていますが、認められる範囲は限定的です。
5年経過後は3年に1回となるため、間隔が空くことで失念しやすくなります。提出期限を管理する仕組みを作り、顧問税理士と共有しておくことが確実です。
ポイント⑤ 将来のM&Aとの関係
納税猶予の適用後に、会社の売却を検討する場面も想定されます。
経営承継期間の経過後に、経営環境の変化を示す一定の事由が生じている場合において、対象株式を譲渡したときは、譲渡の対価の額等をもとに納税額を再計算し、当初の猶予税額との差額が免除される措置が設けられています。株価が下落した状態で売却した場合、承継時の高い評価額に基づく税額をそのまま負担することにはなりません。
ただし、この措置は経営承継期間を経過した後の譲渡が対象です。5年以内に譲渡した場合には、原則として猶予税額の全額を納付することになります。
また、合併や株式交換等により会社が消滅または完全子会社となる場合についても、一定の要件のもとで猶予を継続する取扱いがあります。
将来的にM&Aの可能性がある場合、この制度の適用が制約となる場面もあります。承継の方針が固まっていない段階で適用を急ぐのではなく、5年間の継続要件を負うことの意味を確認したうえで判断することが必要です。
まとめ
| 特例措置では、対象株式数の上限が撤廃され、相続税の猶予割合が100%となる。複数の株主から最大3人の後継者への承継も可能で、親族外の後継者への贈与にも相続時精算課税を適用できる |
| 一方、特例措置には一般措置にない制約として、特例承継計画の提出と、贈与・相続の実行期限がある |
| 特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日まで延長されたが、贈与・相続の実行期限は令和9年12月31日のまま変更されていない |
| 贈与による適用には、会社・先代経営者・後継者それぞれの要件を満たし、猶予税額等に見合う担保を提供することが必要となる。先代経営者は代表権を有していたうえで贈与の時には代表権を有していないこと、後継者は贈与の直前において3年以上役員であり贈与の時に代表者であることなどが求められる。後継者がまだ役員でない場合、3年を満たすのは令和11年以降となり、実行期限までに贈与できない(相続による適用では、相続開始の直前において役員であればよく、3年の定めはない) |
| 贈与後は、贈与の年の10月15日から翌年1月15日までに都道府県知事の認定申請を行い、認定書の写しを添付して贈与税の申告期限までに申告する(期限内申告が要件) |
| 雇用確保要件を満たせなかった場合でも、認定経営革新等支援機関の所見を記載した報告書を提出すれば猶予は継続する |
| 経営承継期間(5年間)中の代表権の喪失、対象株式の譲渡、資産保有型会社等への該当、報告書・届出書の未提出が主な打切り事由となる |
| 経営承継期間の経過後に一定の事由のもとで株式を譲渡した場合には、譲渡対価等による再計算と差額の免除の措置がある。5年以内の譲渡は原則として全額納付となる |
次回(第8回)は、相続が発生した後の納税資金の確保について解説します。自社株式を会社に買い取らせる金庫株の実務と、その際のみなし配当課税の特例、そして相続税額の取得費加算の特例を取り上げます。いずれも期限や要件が定められているため、あわせて整理してお届けします。
※本記事は掲載時点の法令・税制に基づいて作成しています。その後の税制改正等により、記載内容が現状と異なる場合があります。個別の税務判断については、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。
