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第5回 経営者のための会計入門 ~戦略会計の実践——未来の「投資」と「撤退」を決断する~
これまでの管理会計が「1年以内」の業績管理だとすれば、「戦略会計」は数年〜10年先を見据え、企業の基本構造を左右する「未来の意思決定」のための会計です。会計の中でも一歩踏み込んだテーマですが、中長期の経営判断を誤らないために、ぜひ押さえておいてください。
ポイント① 「時間価値」の概念を取り入れる——投資の判断
戦略会計の最大の特徴は、会計に「時間」の概念を持ち込むことです。たとえば、新しい機械を1,000万円で導入すべきか否かを判断する場面を考えてみましょう。
会計の世界では「今の100万円」と「数年後の100万円」は価値が異なります。なぜなら、今の100万円を事業に投資すれば運用益を生み出せるからです。そのため、将来得られると予測されるキャッシュフローをそのまま足し合わせるのではなく、金利や期待利回り(資本コスト)を考慮して「現在の価値(割引現在価値:DCF法)」に引き直して計算しなければなりません。
将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いた合計額から初期投資額を差し引いたものを「正味現在価値(NPV)」と呼びます。このNPVがプラスであれば投資を実行し、マイナスであれば見送るという厳密な採算判定を行うのが戦略会計です。
ポイント② 最も苦渋を伴う「撤退の判断」
投資以上に難しく、かつ重要なのが「事業からの撤退・縮小の判断」です。赤字事業を「長年の愛着があるから」「いつか回復するはずだ」と漫然と続けることは、企業全体のキャッシュを奪い続けます。
撤退の判断には、時間軸の異なる2つの物差しがあります。
ひとつは、短期的な目安となる「限界利益」です。売上高から変動費(材料費・外注費など売上に比例して増減する費用)を引いた限界利益がマイナスに転じる地点を「事業閉鎖点」と呼びます。限界利益がマイナスということは、商品を作れば作るほど赤字が増える状態であり、原則として生産・販売の中止を検討すべき段階です。さらに実務では、限界利益はプラスでも、その事業のためだけに現金で支払っている固定費(専任スタッフの給与や専用設備のリース料など)を賄えなくなれば、その事業は会社のキャッシュを減らしているため、撤退を真剣に検討すべきサインになります(「経営者のための経営分析実践[応用編]」最終回で解説した「キャッシュフロー分岐点」です)。
もうひとつが、戦略会計本来の物差しである「将来のキャッシュフロー」です。事業そのものから撤退するかどうかは、事業を続けた場合と撤退した場合のそれぞれについて、将来のキャッシュフローを現在価値に引き直して比較し、どちらが会社により多くのキャッシュを残すかで判断します(「経営者のための経営戦略」シリーズ最終回で詳しく解説しています)。
感情を切り離し、数字の裏付けを持って投資と撤退を決断するのが戦略会計の役割です。
ポイント③ 管理会計と戦略会計の「スケールの違い」を意識する
管理会計と戦略会計の最大の違いは、扱う時間軸とスケールです。
| 管理会計 | 戦略会計 | |
| 時間軸 | 1年以内(短期) | 3〜10年先(中長期) |
| 主なテーマ | 予算管理・資金繰り・KPI管理 | 設備投資・新規事業・事業撤退・M&A |
| 特徴 | 日常的な経営管理 | 時間価値・現在価値の概念を活用 |
両者を使い分けることで、日々の経営管理と中長期の意思決定の両方をカバーできます。
まとめ
戦略会計は、感覚や経験則だけに頼らず、数字の裏付けを持って中長期の経営判断を下すためのツールです。NPVによる投資判断と、限界利益とキャッシュフロー分岐点を入口とし、最終的には将来のキャッシュフローで行う撤退判断——この2つを押さえることが、戦略会計の基本です。
3つの会計を一体で活かす方法・自社の会計力チェックリストなど、引き続き今後の記事で取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
※本記事は掲載時点の法令・税制に基づいて作成しています。その後の税制改正等により、記載内容が現状と異なる場合があります。個別の税務判断については、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。
【2026年10月7日 更新】事業からの撤退を判断する際の考え方について、記載内容を確認し、一部修正しました。

