お知らせ NEWS

第1回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~決算書をただ眺めるのはNG。「3つの比較」で異常値を見つける~

決算書は会社の「健康状態を表すカルテ」であり、経営分析は「現在地を確認するGPS」です。しかし、数字をただ眺めているだけでは、会社の本当の姿は見えてきません。今回からは、具体的にどうやって自社の異常を見つけ、未来に向けた「次の一手」を打つのかという、より実践的な経営分析のステップに入ります。


ポイント① 数字は「結論」ではなく、ただの「事実」にすぎない

「社長、今期の売上高は過去最高の5億円を達成しました!利益も1,000万円出ています!」

経理担当者からこう報告されたら、皆さんはどう応えますか。「よくやった!」と手放しで喜ぶでしょうか。しかし、数字だけを見て喜ぶのは危険です。

分析において最も大切な大前提は、「数字は結論ではない」ということです。たとえば、売上が過去最高でも、実はライバル企業はもっと高い伸び率を記録しており、市場シェアを奪われているかもしれません。あるいは、利益が1,000万円出ていても、在庫が異常に積み上がっており、来期には資金ショートを起こす「黒字倒産」の予兆が隠れているかもしれません。

つまり、決算書の数字は結論ではなく、なぜそういう数字になっているのかという原因や内訳を調べるためのスタートラインにすぎないのです。


ポイント② 異常を見つけるための基本動作「3つの比較」

ただ並んでいるだけの数字から、どうやって「異常値」を見つけ出せばよいのでしょうか。そのための基本動作が「3つの比較」です。数字というのは、他の数字と比較して初めてさまざまなことが見えてきます。

① 過去との比較

前年同月や過去3期間分の決算書を並べて比べてみます。すると、「売上は伸びているが、実は利益率は3年連続で低下している」「交際費が急激に膨らんでいる」といった、単年度の決算書を見ているだけでは気づかない「体質の変化」が見えてきます。

② 目標との比較

期首に立てた経営計画や年度予算と、実際の実績との比較です。どこが目標未達になっているか、あるいはどこが達成できているかを確認し、未達の場合はその原因を究明して改善策を打ちます。

③ 他社との比較

ライバル会社や同業者平均と比べて、自社がどこで勝っていてどこで負けているかを数字で見ます。「他社の財務データなんてどうやって手に入れるの?」と疑問に思われるかもしれませんが、インターネットを使えば無料で引き出すことができます。

  • 上場企業をベンチマークにする(EDINETの活用):同じ業界の上場企業の有価証券報告書は、金融庁の「EDINET(エディネット)」で誰でも無料で閲覧できます。業界トップ企業の人件費率・原価率を自社と比べることで、経営の改善余地が見えてきます。
  • 公的データの活用:中小企業の業種別財務データとして実務的に使いやすいものとして、以下の2つがあります。
    • 日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(https://www.jfc.go.jp/n/findings/shihyou_kekka_m_index.html):業種ごとに収益性・生産性などの指標値が集計されています。
    • 東京都中小企業診断士協会 財務診断研究会(https://www.zaimu-shindan-kenkyukai.jp/中小企業の財務指標/):中小企業実態基本調査のデータを業種別に整理したExcelファイルをダウンロードできます。小売業・製造業・建設業・卸売業など業種別に確認できます。

    いずれも無料で利用でき、自社の立ち位置を客観視するのに役立ちます。


ポイント③ 数字の裏にある「原因」を探り、正しく「評価」する

「3つの比較」で異常値を見つけ、その原因や内訳をつかんだら、最後に行うのが「評価」です。その数字の変化が、会社の将来という観点で見た時に良いことなのか、悪いことなのかを判断し、理由を付けて説明できて初めて「分析」と呼べます。

この「評価」を誤ると、経営は致命傷を負います。たとえば、以下のようなケースを考えてみましょう。

ある地域密着型の工務店が、資金繰りの悪化を受けて徹底的なコスト削減に乗り出しました。その一環として、長年顧客から信頼を集めてきた熟練職人を削減し、人件費を大幅に圧縮しました。直後の数ヶ月間は人件費が削減され、利益率が改善したように見えました。しかし、施工品質の低下により顧客からのクレームが増加し、長年積み上げてきた口コミや紹介による受注が激減。最終的には売上そのものが大幅に落ち込んでしまいました。

「人件費を削って利益率が改善した」という数字に対し、「利益の源泉である施工品質と信頼を破壊しているから、長期的には致命傷になる」という正しい評価を下せなかったことが、この会社の悲劇でした。


まとめ

経営分析は、「数字(異常値)を見つける」→「事実(原因)を調べる」→「自社の強みや将来に照らし合わせて評価する」というステップで進みます。数字はあくまでスタートラインです。その裏にある「なぜ?」を追い続けることが、経営者としての本当の仕事です。

P/Lの比率分析・ROAとROE・安全性分析など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。