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第8回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~赤字と黒字の境界線を見極める!CVP分析と「限界利益」の正体~
「売上がいくらになれば黒字になるのか?」「値引きをしてでも大口注文を受けるべきか?」——経営者が日々直面するこうした悩みを、数字を使って論理的に解決するための強力なツールが「CVP分析」です。今回はその土台となるコストの分類と、真の儲けを示す「限界利益」について解説します。
ポイント① 決算書のP/Lでは「未来の利益」が予測できない
CVP分析の「CVP」とは、Cost(コスト・費用)、Volume(販売数量や売上高など)、Profit(利益)の頭文字をとったものです。この3つの関係を分析することで、「売上がこれだけ増えれば、利益はこれだけ増えるはずだ」という未来のシミュレーションが可能になります。
しかし、税務署や銀行に提出する一般的な決算書(制度会計のP/L)をそのまま使っても、このCVP分析は正しく行うことができません。なぜなら、決算書のP/Lは費用を「売上原価」と「販売費及び一般管理費」という「目的」に応じて分けているだけだからです。売上原価の中には「材料費(売上に比例して増える)」もあれば「工場の家賃や機械の減価償却費(売上がゼロでも発生する)」も混ざっています。売上の増減によってコストがどう動くかという「性質」で分けられていないため、未来の予測に使うことができないのです。
ポイント② コストを「変動費」と「固定費」に分ける(固変分解)
CVP分析を行うための絶対条件として、会社で発生するすべてのコストを「変動費」と「固定費」の2つに分類し直す作業が必要になります。これを「固変分解」と呼びます。
| 変動費 | 売上高や販売数量の増減に比例して増えたり減ったりするコストです。商品の仕入原価・直接材料費・外注費・販売手数料などが代表例です。売上がゼロなら変動費もゼロになります。 |
| 固定費 | 売上高の増減とはまったく関係なく、毎月一定額が発生するコストです。正社員の人件費・オフィスの家賃・機械設備の減価償却費・リース料などが該当します。売上がゼロであっても必ず発生します。 |
「一つひとつ変動費と固定費に分けるなんて難しそう」と身構える必要はありません。中小企業の実務においては、勘定科目の性格を見て「材料費は変動費、人件費や家賃は固定費」といった具合に一意的に決めてしまう「勘定科目法(中小企業庁方式など)」で十分役に立ちます。
ポイント③ 会社の本当の儲けを示す「限界利益」と「固定費の回収」
コストを変動費と固定費に分けたら、経営管理において最も重要な利益概念の登場です。それが「限界利益」です(管理会計の世界では「貢献利益」や「変動利益」と呼ばれることもあります)。
限界利益 = 売上高 - 変動費
具体的な例で考えてみましょう。D社は新規事業としてキッチンカーでクレープを販売することにしました。
| 販売価格(売上高) | 1個 500円 |
| 材料費・包材費(変動費) | 1個 200円 |
| 1個あたりの限界利益 | 300円(500円-200円) |
| 車両レンタル・出店料(固定費) | 1日 15,000円 |
1個売れるたびに300円の限界利益が生まれますが、これはそのまま純粋な儲け(営業利益)になるわけではありません。売上があろうとなかろうと1日に必ず発生する「固定費15,000円」を全額回収して初めて黒字になるからです。
つまり、限界利益とは「重たい固定費を回収し、さらに利益を生み出すための原資」なのです。クレープがちょうど「50個」売れたとき、限界利益の合計が15,000円(300円×50個)となり、固定費を全額回収できます。ここが赤字と黒字の境界線(損益分岐点)です。そして51個目からは、限界利益300円がそのまま丸々営業利益として手元に残っていきます。
ポイント④ 限界利益は会社が生み出した「付加価値」である
限界利益は、見方を変えれば「付加価値」そのものです。外部から買ってきた材料(変動費)に、自社のノウハウやサービスという価値を上乗せして販売した結果が限界利益です。会社はこの稼ぎ出した限界利益(付加価値)の中から、従業員に給料(固定費)を払い、家賃(固定費)を払い、最後に残ったものが営業利益となります。
売上高に対する限界利益の割合を「限界利益率」と呼びます。先ほどのクレープであれば300円÷500円=60%です。
利益を出したいと考えたとき、むやみに「売上を増やせ!」と号令をかけるだけでは不十分です。「販売価格を上げる」「材料費(変動費)を下げる」といった努力によって、この限界利益(付加価値)そのものを大きく稼ぐ視点を持たなければ、いくら売上が増えても忙しいだけで会社にお金は残らないのです。
まとめ
決算書上の「営業利益」という結果だけを見ていても、経営の次の一手は打てません。自社のコストを変動費と固定費に分け、「限界利益(売上高-変動費)」を把握すること。そして「自社の商品・サービスは、固定費の回収にどれだけ貢献しているか」という視点を持つことが、強い経営を作るための第一歩となります。
損益分岐点の求め方・目標利益から必要売上高を逆算する方法など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
