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第10回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~「利益は結果」ではない——目標利益から必要な売上高を逆算する~
CVP分析では、限界利益を使って「損益分岐点売上高」を求め、会社の不況への耐久力を測る方法をお伝えしました。今回は、CVP分析をさらに前進させ、経営者が描く「これだけは稼ぎたい」という目標利益から、必要な売上高を逆算する方法について解説します。
ポイント① 利益は「結果」ではなく、トップダウンで「最初に決めるもの」
多くの会社では「来期は売上〇%アップを目指そう!」という前年対比の売上目標が先行し、利益は「売上から経費を引いて最後に残った結果」として扱われがちです。 しかし、本来の管理会計における利益計画は逆でなければなりません。「来期は新しい設備投資にこれだけ必要だ」「借入金の返済にこれだけ必要だ」といった経営上の要請から、まず「最低限達成すべき目標利益」がトップダウンで決まります。なお、借入金の元本返済は費用ではなく、税引後利益と減価償却費から行います。そのため返済額から目標利益を決めるときは、「返済額-減価償却費」を税引後で稼ぐ必要があると考え、税金分と支払利息を上乗せした額を目標営業利益とします(事業計画書シリーズ第5回でも解説しています)。 そして、その目標利益を達成するためにはいくらの売上高が必要で、そのためにどれだけの費用が許容されるのかを逆算して求めるのです。利益は結果ではなく、経営者の意志として最初に決めるべきものです。
ポイント② 目標とする「利益額」から売上高を逆算する
「目標利益」を達成するための売上高を求める公式は、損益分岐点の公式を少し応用するだけです。固定費を全額回収した上でさらに利益を残したい場合は、回収すべき対象(分子)に目標利益を上乗せするだけです。
| 目標達成点売上高 | (固定費 + 目標営業利益)÷ 限界利益率 |
前回のE社(販売単価10,000円・変動費6,000円・限界利益率40%・固定費400万円)は、現在の売上高が1,250万円で、営業利益は100万円です。社長が「来期は営業利益を倍の200万円にしたい!」と目標を立てた場合を計算してみましょう。
| 固定費 | 4,000,000円 |
| 目標営業利益 | 2,000,000円 |
| 限界利益率 | 40%(0.4) |
| 目標達成点売上高 | 15,000,000円((4,000,000円+2,000,000円)÷0.4) |
売上高1,500万円を達成すれば、目標利益200万円を稼ぎ出せることが逆算できます。検証すると、1,500万円の40%である600万円が限界利益となり、固定費400万円を差し引くとぴったり200万円の営業利益が残ります。現在の売上高1,250万円から、250万円(20%)の上積みが必要だということです。
ポイント③ 目標とする「利益率」から売上高を逆算する
「金額ではなく、『売上高営業利益率10%』というパーセンテージを目標にしたい」という経営者もいるでしょう。これもCVPの公式を応用すれば逆算できます。
| 目標達成点売上高 | 固定費 ÷(限界利益率 - 目標とする売上高営業利益率) |
| 固定費 | 4,000,000円 |
| 限界利益率 | 0.4 |
| 目標売上高営業利益率 | 0.1(10%) |
| 目標達成点売上高 | 約13,333,333円(4,000,000円÷(0.4-0.1)) |
売上高が約1,333万円になれば、営業利益率は10%に到達します(1,333万円の40%の約533万円が限界利益。固定費400万円を引くと約133万円の営業利益となり、133万円÷1,333万円で見事10%になります)。ちなみに、現在のE社の営業利益率は8%(100万円÷1,250万円)です。
ポイント④ 最終的な目標「ROA」から売上目標を導き出す
「売上高営業利益率10%」という目標は、そもそもどのようにして決められたのでしょうか。ここが前半の経営分析とCVP分析が見事にドッキングする瞬間です。 第3回・第5回で学んだROAのデュポン・システムを思い出してください(ここでは、ROAを営業利益で計算しています)。
| ROA | 売上高営業利益率 × 総資本回転率 |
E社の社長は「当社の事業の総合的な投資効率として、ROA12%は絶対に死守しなければならない」という経営の根本目標を持っていたとします。そして、現在の総資本回転率が「1.2回」であるとわかっています。
| 目標ROA | 12%(0.12) |
| 総資本回転率 | 1.2回 |
| 目標売上高営業利益率 | 10%(0.12÷1.2) |
「ROA12%の達成」という経営トップの意志から「売上高営業利益率10%」という目標が導き出され、それがCVP分析の公式に当てはめられることで「売上高約1,333万円の達成」という現場の具体的な販売目標へと、一本の線で見事につながりました。これが数字に裏打ちされた経営計画の基本的な考え方です。
ポイント⑤ 逆算から「次の一手」の経営戦略が生まれる
ポイント②の「利益200万円」は社長の希望額でしたが、ポイント④でROAから導いた「利益率10%」は、会社として最低限確保すべき水準です。ここでは、この利益率10%をE社の来期目標とします。 逆算された目標売上高(約1,333万円)を現在の売上高1,250万円と比べると、必要な上積みは約83万円、率にして7%弱です。社長は現場の生産能力や市場の動向と照らし合わせます。「7%弱なら、既存顧客へのリピート提案を強化すれば届きそうだ。ただ、市場が飽和していて売上増が見込めないなら、売上1,250万円のままで利益率10%(営業利益125万円)を達成する方法を考えなければならないな」 売上を伸ばさずに目標を達成する道も、CVP分析を使えば具体的に計算できます。
| 限界利益率を上げる | 必要な限界利益は525万円(営業利益125万円+固定費400万円)。値上げや仕入コストの削減で、限界利益率を40%から42%に引き上げる |
| 固定費を減らす | 限界利益は500万円のまま。固定費を400万円から375万円へ、25万円削減する |
このように、CVP分析を使って目標から逆算することで、「売上を伸ばすか、限界利益率を上げるか、固定費を下げるか」という経営判断を、具体的な数字の裏付けをもって比較できるようになります。
まとめ
「利益は結果として出るもの」ではなく、「経営の意志として最初に決めるもの」です。必要な利益額や利益率から、CVP分析を使って目標売上高を逆算する習慣を持ちましょう。そして、逆算した目標と現状とのギャップを、売上・限界利益率・固定費のどれで埋めるのかを数字で比べること——これこそが、数字に裏打ちされた論理的な経営計画の第一歩です。 大口割引注文の採否判断・自製か外注かの意思決定など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
※本記事は掲載時点の法令・税制に基づいて作成しています。その後の税制改正等により、記載内容が現状と異なる場合があります。個別の税務判断については、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。
【2026年10月7日 更新】E社の例示を前回(第9回)の数字と整合するよう見直し、目標と現状のギャップを埋める方法について、記載内容を確認し、一部修正・追記しました。

