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第12回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~「自製か外注か」の意思決定と「埋没原価」の罠~

前回は、大口の割引注文を受けるべきかどうかについて、固定費を除外して考える「差額収支分析」を使って判断する方法をお伝えしました。今回はその応用編として、「部品やサービスを自社で作るべきか、それとも外部業者に委託(外注)すべきか」という意思決定について解説します。ここにも、経営者の判断を狂わせる「埋没原価(サンクコスト)」という恐ろしい罠が潜んでいます。


ポイント① 外注費の方が安い! すぐに切り替えるべき?

中堅の食品加工メーカー(H社)の製造会議での出来事です。H社では、自社製品に使用する「専用充填ノズル」を自社工場で製造(自製)しています。経理部が計算した、専用充填ノズル1個あたりの自製コストは以下の通りでした。

変動費(材料費・パートの賃金など) 2,000円
固定費(工場の家賃・機械の減価償却費の割り当て分) 1,500円
総コスト(自製単価) 3,500円

そんな中、購買部の担当者が外部の部品メーカーから魅力的な提案を持ち込んできました。「社長、同じ品質の専用充填ノズルを外部業者なら『1個3,200円』で納品してくれるそうです!」

これを聞いた社長は色めき立ちました。「ウチで作ると3,500円かかるのに、外注すれば3,200円で済むのか。1個あたり300円のコストダウンになるぞ。よし、来月から自社製造をやめて、すべて外注に切り替えよう!」

さて、社長のこの判断は正しいでしょうか。


ポイント② 過去の投資に引きずられるな——「埋没原価」とは

結論から言うと、このまま外注に切り替えると、H社はコストダウンどころか逆に大きく損をしてしまいます。

社長は「自製総コスト3,500円」と「外注費3,200円」を単純に比較してしまいました。しかし、意思決定の際には総コストの中に含まれる「固定費」の存在に注意しなければなりません。

専用充填ノズルを外注に切り替えて自社製造をやめたとしても、工場全体の家賃や、すでに購入してしまった機械の減価償却費といった固定費(1個あたり1,500円分)が、明日から急にゼロになるわけではありません。自社で作ろうが外注しようが、会社として支払い続けなければならないのです。

このように、「A案とB案、どちらの選択肢を選んでも金額が変わらない(すでに発生が確定しており後戻りできない)コスト」のことを、管理会計の世界では「埋没原価(サンクコスト)」と呼びます。意思決定において、この埋没原価を判断材料に入れてしまうと、必ず判断を誤ります。


ポイント③ 差額収支分析で正しく判断する

前回の「差額収支分析」を使って、外注に切り替えた場合の「キャッシュの増減(差額)」だけを正しくシミュレーションしてみましょう。

  A案:外注に切り替える B案:自製を続ける 差額(A-B)
外注費の発生 -3,200円 0円 -3,200円
変動費の削減(材料費など) 0円 -2,000円 +2,000円
固定費の変化(埋没原価) 変わらず 変わらず 0円
キャッシュへの影響   -1,200円(外注の方が損)

外注に切り替えることで節約できるのは変動費の2,000円だけです。そのために3,200円の外注費を払うのですから、差し引きすると「1個あたり1,200円も会社のキャッシュが余計に出ていく」という全く逆の事実が浮かび上がります。表面的な総コストの数字に騙されず、埋没原価を除外して「差額」だけを見ることで、「現在の状況では自社で作り続けた方が得である」という正しい判断を下すことができます。


ポイント④ 「回避できる固定費」がある場合は要注意

ただし、例外もあります。もし専用充填ノズルを自製するため「だけ」に、専用の製造機械を月額50万円でリース契約していたとしたらどうでしょうか。外注に切り替えるのと同時にこのリース契約を即座に解約できるのであれば、この月額50万円は埋没原価ではなく「外注化によって削減できるコスト(回避可能原価)」として、差額収支分析のプラス要因に含めて計算しなければなりません。

固定費だからといってすべてが埋没原価になるわけではなく、「その意思決定によって本当に増減するキャッシュはどれか」を見極めることが重要です。


ポイント⑤ 戦略的アウトソーシングと「コア・コンピタンス」

ここまでは数字(コスト)の面からお話ししましたが、経営者の意思決定は数字だけで終わってはいけません。

仮に、数字のシミュレーションで「外注の方が圧倒的に安い」という結果が出たとしても、その部品が自社の競争力の源泉である「コア・コンピタンス(他社には真似できない中核的な強み)」であるならば、安易にアウトソーシングしてはいけません。自社の強みを外部に依存してしまうと、社内に技術やノウハウが蓄積されなくなり、将来的に致命的な痛手を負うリスクがあるからです。

逆に、他社と差別化にならない汎用的な部品や作業であれば、コストダウンのために積極的にアウトソーシングを活用すべきです。そして、外注化によって浮いた社内のリソースを自社の強みである製品開発など、より付加価値の高い活動に集中させる——これが単なるコスト削減を超えた「戦略的アウトソーシング」の真の姿です。


まとめ

「自製か外注か」を迷ったときは、自製コストの中に意思決定とは無関係な「埋没原価」が含まれていないかを必ずチェックし、未来のキャッシュの動き(差額)だけで損得を計算しましょう。そして、コストの損得だけでなく、自社の「コア・コンピタンス」を守り育てるという長期的な戦略視点を持つことが、強い企業を作るための条件です。

予算管理と差異分析・セールスミックスの意思決定・事業撤退の判断基準など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。