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第9回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~「損益分岐点売上高」を計算し、赤字転落への耐久力を測る~

前回はCVP分析の土台として、コストを「変動費」と「固定費」に分け、売上高から変動費を引いた「限界利益」の重要性をお伝えしました。今回はこの限界利益という武器を使って、経営者が絶対に知っておかなければならない数字、「損益分岐点売上高」の計算方法と、自社の不況に対する耐久力を測る「安全余裕率」について解説します。


ポイント① 公式はたった1つ。「損益分岐点売上高」の求め方

売上高と総コスト(変動費+固定費)がぴったり一致し、利益がちょうどゼロになる売上高のことを「損益分岐点売上高」と呼びます。これを求める公式は非常にシンプルです。

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率

「限界利益率」とは、売上高に対して限界利益が何%あるかを示す比率です(限界利益 ÷ 売上高)。限界利益率が40%の商品であれば、「売上高の40%の金額が固定費の回収パワーとして働く」ということです。会社が毎月支払わなければならない固定費の総額を、この「回収パワー(限界利益率)」で割り算することで、固定費を全額回収するために必要な売上高が逆算できます。


ポイント② 実際に計算して、利益構造を検証してみよう

架空の中小メーカー・E社(単一商品を扱う製造業)のデータを使って実際に計算してみましょう。

商品の販売単価(売上高) 10,000円
1個あたりの材料費など(変動費) 6,000円
1個あたりの限界利益 4,000円(10,000円-6,000円)
限界利益率 40%(4,000円÷10,000円)
毎月の固定費(家賃・人件費など) 4,000,000円
損益分岐点売上高 10,000,000円(4,000,000円÷0.4)

E社は月に「1,000万円」の売上を達成した瞬間に黒字へと浮上します。検証してみると、売上高1,000万円のとき変動費は600万円(60%)、限界利益は400万円となり、固定費400万円をピッタリ全額支払えます。限界利益400万円-固定費400万円=営業利益0円。見事に損益分岐点であることが証明できました。


ポイント③ ウチの会社は不況に強いか?「安全余裕率」で測る

損益分岐点売上高が計算できたら、それを現在の実際の売上高と比べてみましょう。ここから会社の安全性(不況への耐久力)を測る「安全余裕率(経営安全率)」が導き出せます。

安全余裕率 =(現在の売上高 - 損益分岐点売上高)÷ 現在の売上高 × 100

E社の現在の売上高が「1,250万円」だったとします。

現在の売上高 1,250万円
損益分岐点売上高 1,000万円
安全余裕率 20%((1,250万円-1,000万円)÷1,250万円×100)

この「20%」は「今の売上が20%落ちても赤字にならない」という、赤字転落までの余裕度を表しています。安全余裕率が5%しかない会社は、ほんの少しの売上減であっという間に赤字に転落します。一方で20〜30%ある会社であれば、社長は焦ることなく次の一手を打つための十分な時間を稼ぐことができるのです。


ポイント④ 「固定費型」と「変動費型」のビジネスモデルを知る

安全余裕率を高める(損益分岐点を下げる)ためには、「固定費を減らす」か「限界利益率を上げる」しかありません。ビジネスモデルによってコスト構造は大きく異なります。

  固定費型(資本集約型) 変動費型(労働集約型)
代表業種 製造業・ホテル業など 卸売業・外注メインのIT業など
コスト構造 固定費が重く損益分岐点が高い 固定費が少なく損益分岐点が低い
不況時のリスク 売上減少で一気に赤字転落しやすい 赤字になりにくく安全余裕率が高い
好況時のリターン 損益分岐点超えると利益が爆発的に増える 売上増加と同時に変動費も増えるため利益は伸びにくい
リスク特性 ハイリスク・ハイリターン ローリスク・ローリターン

「ウチは固定費型だから、売上が少しでも落ちると命取りになる。常に強気の営業攻勢が必要だ」「今は経済環境が不透明だから、固定費を減らして業務を外注化し、変動費型にシフトして安全余裕率を高めよう」——CVP分析は、こうした経営の舵取りに極めて重要な示唆を与えてくれます。


まとめ

「いくら売れば黒字になるのか」「売上が何%落ちたら赤字に転落するのか」——この2つの問いに即答できる経営者の会社は、危機に直面しても強いです。毎月の決算書が出たら、「固定費 ÷ 限界利益率」で損益分岐点売上高を計算し、自社の安全余裕率を定点観測する習慣をつけてみてください。

目標利益から必要売上高を逆算する方法・大口割引注文の採否判断など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。