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第13回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~「予算管理」の実践:月次予算の作り方と「差異分析」の活用~
CVP分析や差額収支分析を用いた「意思決定」について学んできました。今回は視点を少し変えて、決定した経営計画を組織全体で実行しコントロールするための強力なツールである「予算管理」の実践について解説します。
ポイント① 予算がないのは「ゴールのわからないマラソン」
「今年1年間でいくら売上を上げ、いくら費用を使い、結果としていくらの利益を出すのか」を具体的な数字の計画に落とし込んだものが「企業予算」です。
予算制度を持たない会社は、いわば「ゴールのわからないマラソン」に参加しているようなものです。目標とするゴール(予算)を計測・共有できなければ、日々の業務を正しい方向へ導くことはできません。予算は、経営における「PDCAサイクル(計画・実行・確認・対策)」の出発点(Plan)となる極めて重要な役割を担っています。
ポイント② 予算編成はトップと現場の「キャッチボール」
予算を作る際、「トップダウン式」と「ボトムアップ式」のどちらが良いかという議論がよく起こります。
| トップダウン式 | 社長が一方的に目標を押しつける形。現場の不満が高まり、予算が無視される傾向がある。 |
| ボトムアップ式 | 現場の各部門に作らせた予算をただ足し合わせる形。達成しやすい低い目標になりがちで、全社的な経営方針と矛盾しやすい。 |
優れた予算編成は、この両者の折衷案で行われます。経営トップが「経営戦略と全社的な目標利益」を提示し、それをもとに現場の各部門が具体的な予算案を作成する。そして、トップと現場が議論を重ねてすり合わせていくプロセスは「キャッチボール」と呼ばれ、日本の多くの優れた企業で実践されています。
ポイント③ 「月次予算」の正しい作り方と順序
予算作成において陥りがちな間違いが、「売上目標を先に決めて、そこから経費と利益を計算する」という方法です。正しくは、以下の順番で逆算して作ります。
| ① 目標利益の決定 | 借入金の返済や設備投資に必要な「絶対に稼ぐべき目標利益」をトップダウンで決める |
| ② 限界利益率の予測 | 販売計画をもとに、自社の商品・サービスが平均してどれくらいの限界利益率を稼げるかを予測する |
| ③ 固定費予算の見積り | 人件費・家賃・広告費など、毎月発生する固定費の予算を見積もる |
| ④ 必要売上高の逆算 | (固定費予算+目標利益)÷ 限界利益率 = 必要売上高 |
| ⑤ 変動費予算の決定 | 必要売上高から逆算して、仕入や材料費などの変動費予算を決定する |
経営の意志である「目標利益」を起点に、CVP分析を活用して月次予算を組み立てることで、数字の辻褄が合った論理的な予算が完成します。
ポイント④ 「差異分析」でズレの原因を突き止める
予算(Plan)が完成し、日々の業務(Do)がスタートしたら、毎月の月次決算で「予算と実績のズレ」を確認(Check)する必要があります。これが「差異分析」です。
たとえば、ある部品メーカーで主力製品の売上高が予算より「33万円」足りなかったとします。「売上が足りないぞ!営業は何をやっている!」と怒る前に、その原因を分析しなければなりません。売上高の差異は以下の2つに分解できます。
| 販売価格差異 | 予定より安く売ってしまった(あるいは高く売れた)ことによるズレ |
| 販売数量差異 | 予定より売れた個数が少なかった(あるいは多かった)ことによるズレ |
仮に、販売数量は予算を大きく上回っていたにもかかわらず、営業マンが値引きをしすぎたために「販売価格差異」が大幅なマイナスとなり、売上高全体が未達になっていたとします。この場合、対策(Act)として打つべき手は「もっと売れ!」とハッパをかけることではなく、「値引きの承認ルールを厳格化する」ことになります。差異分析は犯人探しのためではなく、「次にどんな有効な対策を打つべきか」を科学的に導き出すためのツールです。
ポイント⑤ 予算の罠——「ゲーミング」と人間の心理
予算管理を導入すると、必ずと言っていいほど直面する問題があります。それが「ゲーミング」です。
部門の責任者は、自分の評価を上げるため(あるいは怒られないため)に、予算編成のキャッチボールの段階で「売上予算はできるだけ低く、経費予算はできるだけ高く」見積もろうと画策します。「今年は市場環境が極めて厳しい」「競合が強力な新製品を出してくる」といった理由を並べ立てて、自分に有利な予算を獲得しようとする駆け引きが行われます。
予算管理のシステムがいかに精緻であっても、それを動かすのは人間です。数字で厳しく縛り上げるだけでなく、従業員が自ら目標に向かって挑戦したくなるような「動機づけ(モチベーション管理)」や、現場の参加を促す「参加的予算管理」がセットになって初めて、予算管理は真の力を発揮するのです。
まとめ
「予算管理」は、単なる数字の割り当てやノルマの強制ではありません。会社のビジョンを具体的な数字の計画(予算)に落とし込み、差異分析を通じて軌道修正を図る「PDCAサイクルの心臓部」です。CVP分析を用いた論理的な月次予算の作り方と、現場とのキャッチボール、人間心理に配慮した動機づけの3つが揃って初めて、予算管理は機能します。
セールスミックスの意思決定・事業撤退の判断基準など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
