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第6回 経営者のための経営戦略 ~リースか購入か、使い続けるか——「埋没原価」を断ち切る設備導入の決断~

前回は、新規事業が立ち上がった直後に多くの現金を必要とする「正味営業運転資金」の影響について解説しました。機械を買うお金だけでなく、売掛金や在庫に縛り付けられる運転資金までを考慮しなければ、黒字でも資金繰りに行き詰まるおそれがあります。

今回は中小企業の社長が日常的に直面する「悩ましい選択」について考えてみましょう。事業に必要な機械や営業車を導入するとき、社長は常に2つの選択肢の間で悩み続けることになります。「銀行から借金をして『購入』するべきか、それとも『リース』にするべきか?」


ポイント① 社長を悩ませる「感情的」なメリット・デメリット

多くの社長は、この選択を以下のような「感覚」で決めてしまっています。

リースの印象 頭金がいらず毎月のリース料を経費で落とせるから資金繰りがラク。しかし総支払額で見ると手数料(金利相当分)が上乗せされて損をした気分になる
借入購入の印象 最終的に自社の持ち物(資産)になるから得な気がする。しかし借入枠を使い切ると、いざというときの運転資金が借りられなくなるかもしれない

営業マンのセールストークや、こうした「なんとなくの感情」で決断を下すのは、戦略会計においてはご法度です。リースが得か購入が得かは、「どちらが最終的に手元により多くのキャッシュを残してくれるか」という観点から、ドライに比較しなければなりません。


ポイント② 2つの案を「同じテーブル」に乗せ、共通項目を捨てる

どちらが得かを判定するためには、両者の条件をNPVを計算するためのワークシートという「同じテーブル」に乗せる必要があります。リースか購入かを比較する際、どちらの案を選んでも共通して発生する売上高や材料費・人件費などは、計算から切り捨てて構いません。どちらを選んでも同じ結果になる収支は、意思決定に影響を与えない「無関連原価(判断に関係しない収支)」だからです。

純粋に、リースと借入購入で「違いが生じる部分」だけを抜き出します。

借入購入案 【出ていくお金】毎年の元本返済と支払利息
【節税効果】減価償却費と支払利息が費用になることで法人税が安くなる
リース案 【出ていくお金】毎年のリース料
【節税効果】リース料が費用になることで法人税が安くなる

これら「出ていくお金」と「節税によるキャッシュ増」を毎年相殺し、その年の「正味キャッシュフロー」を算出します。


ポイント③ 「総支払額」の比較だけでは判断できない

たとえば、耐用年数5年の機械を導入するとします。借入購入案は金利3%で5,000万円を借り入れて5年間で元金均等返済し、リース案は毎年のリース料が1,100万円(5年間で総額5,500万円)だとします。借入購入案の支払総額は、元本5,000万円に利息約450万円を加えた約5,450万円です。単純な支払総額だけを比べれば、「リース案のほうが約50万円多く払うから、借入購入のほうが得だ」と判断してしまいそうになります。

しかし、緻密なワークシートを作って「タックス・シールドによる節税効果」と「時間価値による現在価値の目減り」をすべて計算に組み込むと、結果が変わることがあります。借入購入案(元金均等返済)では、利息が残高に応じて減っていくため、毎年の支払額は初年度ほど多くなります。また、定率法で償却すれば節税効果も前倒しで得られます。一方でリース案は、毎年ほぼ同額のリース料を支払い、その分の節税効果も毎年均等に得られます。どちらが有利かは、借入金利とリース料に含まれる金利相当分の水準、毎年の支払いのタイミング、固定資産税や保険料がリース料に含まれているかどうかなどによって変わります。表面上の支払総額の差がわずかな場合には、現在価値に引き直すと結果が逆転することも、実務では起こり得ます。直感に反する結果が出ることがあるからこそ、丁寧な試算が重要なのです。


ポイント④ 第3の選択肢「古い機械を使い続ける(取替投資)」

リースか購入かの比較方法が分かったところで、実はその前段階として、もう一つの重要な選択肢があります。それは「そもそも新しい機械を導入せず、今ある古い機械を修理しながら使い続ける(現状維持)」という選択です。新しい機械に入れ替えるか、古い機械を使い続けるか——これを管理会計では「取替投資」の意思決定と呼びます。

この「現状維持案」も、リース案や借入購入案と全く同じワークシートに乗せて、未来のキャッシュフローの現在価値を比較することができます。


ポイント⑤ 古い機械の「帳簿価額」は判断に含めない(埋没原価)

この取替投資を検討する際、社長の決断を最も鈍らせるのが古い機械に対する未練です。「この古い機械は、まだ帳簿上に未償却残高(帳簿価額)が1,000万円も残っている。今ここで新しい機械に取り替えて処分してしまったら、除却損が出て大赤字になってしまう。もったいないから壊れるまで使い続けよう」——。

しかし、ここで戦略会計の重要な考え方が登場します。過去に支出してしまったお金や、過去の取引の計算結果にすぎない「古い機械の帳簿価額」は、これからの意思決定には関係のない「埋没原価(サンクコスト)」です。現状維持を選ぼうが新機種に取り替えようが、将来の現金流出には無関係な過去の数字です。

さらに、会計上の「除却損」はお金が出ていかない費用です。利益を圧縮して法人税を安くする(タックス・シールドを生む)効果すら持っています。古い機械の帳簿価額そのものは比較計算から切り捨てます。ただし、帳簿価額が将来の法人税に与える影響は、これから実際に生じるキャッシュの差なので比較に含めます。取り替えれば除却損による法人税の減少が今期に生じ、使い続ければ残りの減価償却費による法人税の減少が今後数年に分かれて生じる、という違いです。一方で、古い機械を売却できる場合の売却収入は、取替案を選んだときに実際に入ってくる現金なので、比較に含めます。そのうえで、「現状維持案と取替案が未来にもたらすキャッシュフローの差額」だけを比較することが、正しい判断の出発点となります。


まとめ

「リースか、購入か」、そして「新しい機械に取り替えるか、古い機械を使い続けるか」——こうした選択は、手数料の多寡や「帳簿上の未償却残高がもったいない」といった感情論で決めるものではありません。「資金の出入り」と「タックス・シールド(節税効果)」を丁寧に予測し、過去の「埋没原価」を切り捨て、すべてを「時間価値(現在価値)」で比較する——この思考法が、戦略会計における論理的な決断の土台となります。

次回(第7回・最終回)は、経営者にとって特に重い決断である「不採算事業からの撤退」を取り上げます。前シリーズで学んだ「戦術的撤退」と今回の「戦略的撤退」の違いを明らかにし、経営者の心を縛り付ける「もったいない」という感情——すなわち「埋没原価(サンクコスト)」を断ち切る勇気について解説します。引き続きご覧いただけますと幸いです。

※本記事は掲載時点の法令・税制に基づいて作成しています。その後の税制改正等により、記載内容が現状と異なる場合があります。個別の税務判断については、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。

【2026年10月7日 更新】借入購入とリースの比較における消費税の記載について、記載内容を確認し、一部修正しました。