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第2回 経営者のための相続・事業承継 ~養子縁組で相続税は減るのか——基礎控除の仕組みと二次相続への備え~
相続税の負担を抑える方法を考えるとき、多くの方が最初に思いつくのが「法定相続人の数を増やして基礎控除を大きくする」という発想です。とくに、孫を養子にして世代を一つ飛ばす方法は、一見すると合理的に見えます。
しかし、税法上、法定相続人の数に算入できる養子の数には制限があり、孫を養子にした場合には税額の加算という別の負担も生じます。さらに、目先の相続税を抑えることばかりに目を向けると、その次の相続で家族全体の負担がかえって重くなることがあります。
今回は、相続税の計算の土台となる基礎控除のルールと、養子縁組をめぐる注意点、そして一次相続と二次相続を通算して考えることの重要性について解説します。
ポイント① 基礎控除は法定相続人の数で決まる
相続税の計算では、遺産の総額から基礎控除額を差し引きます。遺産の総額が基礎控除額以下であれば、相続税の申告も納税も必要ありません。
| 基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 |
法定相続人が1人増えるごとに、基礎控除額は600万円増えます。なお、ここでいう法定相続人の数は、相続の放棄をした人がいる場合でも、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数によります(相続税法第15条第2項)。放棄によって基礎控除額が減ることはありません。
影響はそれだけではありません。相続税の総額は、課税遺産総額を各人の法定相続分で取得したものと仮定して、それぞれに税率を適用したうえで合計する仕組みになっています。相続人の数が多いほど、1人あたりの仮の取得金額が小さくなり、適用される累進税率の区分も下がります。そのため、基礎控除の拡大と税率区分の低下という二重の効果によって、相続税の総額が抑えられることになります。
この仕組みがあるため、法定相続人の数を意図的に増やそうとする動きが生じます。そこで税法には、次に見るような制限が設けられています。
ポイント② 法定相続人の数に算入できる養子の数には制限がある
養子縁組は民法上、人数の制限なく行うことができます。しかし相続税の計算においては、法定相続人の数に算入できる養子の数が次のように制限されています。
| 被相続人に実子がいる場合 | 養子は1人まで |
| 被相続人に実子がいない場合 | 養子は2人まで |
この制限は、基礎控除額の計算だけでなく、死亡保険金・死亡退職金の非課税限度額(第1回で解説した「500万円 × 法定相続人の数」)や、相続税の総額の計算にも共通して適用されます。
実子とみなされる養子
ただし、次に該当する養子は実子とみなされ、上記の人数制限の対象外となります。
| 特別養子縁組により被相続人の養子となった者 |
| 被相続人の配偶者の実子で、被相続人の養子となった者(いわゆる連れ子養子) |
| 被相続人と配偶者の結婚前に特別養子縁組により配偶者の養子となっていた者で、結婚後に被相続人の養子となった者 |
| 被相続人の実子、養子、直系卑属が既に死亡している場合などに、その者に代わって相続人となった直系卑属(代襲相続人) |
形式基準を満たしていても否認されることがある
人数制限の範囲内であれば必ず認められるわけではない点にも注意が必要です。相続税法第63条は、養子の数を法定相続人の数に算入することが相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、その原因となる養子の数を法定相続人の数に算入しないで相続税の計算をすることができる旨を定めています。
養子縁組を検討する際は、人数の形式的な要件だけでなく、縁組の実態や目的も含めて確認しておく必要があります。
ポイント③ 孫を養子にすると相続税額が2割加算される
後継者である子の子(孫)を養子にすることで、財産の移転を一世代分省略しようと考える経営者は少なくありません。子から孫への移転にかかる相続税を一度飛ばせるという発想です。
しかし、ここには税額の加算という負担が伴います。相続税法第18条は、相続または遺贈により財産を取得した者が、被相続人の一親等の血族および配偶者以外の者である場合には、その者の相続税額にその2割に相当する金額を加算すると定めています。
孫は被相続人にとって二親等の血族です。養子縁組をすれば民法上は子としての身分を得ますが、被相続人の直系卑属で養子となった者は、この2割加算の対象とされています。ただし、代襲相続人となっている孫(親である実子が既に亡くなっているため相続人となった孫)は、加算の対象から除かれます。
金額への影響
2割加算は、各人の算出相続税額に対して行います。孫養子について、加算前の税額が1,000万円と計算された場合を考えます。
| 代襲相続人である孫の場合 | 1,000万円(加算なし) |
| 実子が健在で、単に養子となった孫の場合 | 1,200万円(2割加算あり) |
一世代分の移転を省略できることによる将来の税負担の軽減と、今回の相続で生じる200万円の負担増を比較して判断する必要があります。財産の規模や次の世代の状況によって結論は変わるため、数値による検証が欠かせません。
ポイント④ 一次相続と二次相続を通算して考える
実務でよく見られるのが、先に亡くなった配偶者の相続(一次相続)の税額を抑えることに集中した結果、残された配偶者の相続(二次相続)で子の負担が大きくなってしまうケースです。
配偶者については、取得した財産が1億6,000万円または配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額までであれば、相続税がかからないという税額軽減が設けられています。この制度を使えば、一次相続で配偶者にすべての財産を取得させることにより、納税額をゼロにすることも可能です。
しかし、二次相続では次の3つの事情が重なります。
| 配偶者が亡くなっているため、配偶者の税額軽減は使えない |
| 相続人が1人減るため、基礎控除額が600万円縮小する |
| 一次相続で配偶者に集中させた財産がそのまま課税対象となり、相続人1人あたりの取得金額が大きくなるため、適用される税率区分も上がる |
数値による比較
父の遺産2億円、相続人は母と子2人の計3人とします。母固有の財産はなく、相次相続控除などは考慮しない前提で計算します。
一次相続の相続税の総額は、基礎控除4,800万円(3,000万円+600万円×3人)を差し引いた1億5,200万円を法定相続分で按分して計算し、2,700万円となります。
パターンA 母が全額(2億円)を取得した場合
| 一次相続 | 配偶者の税額軽減により0円 |
| 二次相続 | 遺産2億円-基礎控除4,200万円=1億5,800万円。子2人の法定相続分は各7,900万円。各人の税額は7,900万円×30%-700万円=1,670万円。合計3,340万円 |
| 通算 | 3,340万円 |
パターンB 母が1億円、子2人が各5,000万円を取得した場合
| 一次相続 | 相続税の総額2,700万円のうち、母の負担分は税額軽減により0円。子2人の合計は1,350万円 |
| 二次相続 | 遺産1億円-基礎控除4,200万円=5,800万円。子2人の法定相続分は各2,900万円。各人の税額は2,900万円×15%-50万円=385万円。合計770万円 |
| 通算 | 1,350万円+770万円=2,120万円 |
この前提では、パターンAのほうが通算で1,220万円多く納めることになります。一次相続の納税をゼロにしたことが、結果として家族全体の負担を増やしています。
なお、この試算では母固有の財産をゼロとしていますが、実際には母自身が現預金や不動産を持っていることが多く、その分だけ二次相続の課税対象は大きくなります。差はさらに広がる方向に働きます。
一方で、二次相続までの期間が長ければ母の生活資金として財産が費消されることもあり、また一次相続から10年以内に二次相続が発生した場合には相次相続控除が適用されます。どのような分割が有利かは前提の置き方で変わるため、実際の財産構成と家族の状況に基づいた試算が必要です。
ポイント⑤ 経営者の場合は自社株の集中も同時に考える
経営者の相続では、税額の多寡だけで分割を決めることはできません。後継者に経営権を集中させるという課題を同時に解決する必要があるためです。
自社株式を配偶者に一時的に取得させると、二次相続の際に改めて分割協議が必要になります。その時点で相続人の意見が分かれれば、株式が分散し、議決権の確保が困難になるおそれがあります。一次相続の段階で後継者に集中させておくほうが、経営の安定という観点からは望ましい場合が多くなります。
他方で、後継者に自社株を集中させれば、その分だけ後継者の納税額は大きくなります。納税資金をどう確保するか、他の相続人との公平をどう図るかという問題が生じます。この点は第8回(納税資金対策)と第9回(遺留分対策)で改めて取り上げます。
母の年齢や健康状態、会社の株価の見通し、後継者以外の相続人の意向を踏まえ、一次相続と二次相続を通した税額と資金繰りの両面から分割案を組み立てることが、同族会社の承継では欠かせません。
まとめ
| 基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算する。相続人が増えると基礎控除が増えるだけでなく、適用される税率区分も下がる |
| 法定相続人の数に算入できる養子は、実子がいる場合は1人、いない場合は2人まで。特別養子や連れ子養子などは実子とみなされる。また、相続税の負担を不当に減少させると認められる場合には、算入が否認されることがある |
| 孫を養子にした場合、代襲相続人である場合を除き、相続税額が2割加算される。世代を飛ばす効果と加算による負担増を比較して判断する |
| 一次相続で配偶者の税額軽減を使い切ると、二次相続で基礎控除の縮小と税率区分の上昇により負担が重くなることがある。一次・二次を通算した税額で分割案を検討する |
| 経営者の場合は、税額に加えて後継者への自社株の集中という観点も同時に考慮する必要がある |
次回(第3回)は、自社ビルや工場の敷地の評価を大きく引き下げることができる「小規模宅地等の特例」について解説します。同族会社に貸している土地に適用される特定同族会社事業用宅地等は、個人事業用の特定事業用宅地等とは要件が異なります。適用にあたって満たすべき要件を整理してお届けします。
※本記事は掲載時点の法令・税制に基づいて作成しています。その後の税制改正等により、記載内容が現状と異なる場合があります。個別の税務判断については、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。

