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第3回 経営者のための相続・事業承継 ~小規模宅地等の特例——自社に貸している土地で満たすべき要件~

同族会社を経営する方にとって、本社ビルや工場、倉庫が建っている土地は、個人の財産のなかでも大きな割合を占めることが少なくありません。とくに市街地に土地を持っている場合、路線価をもとに評価すると相続税評価額が数億円規模になることもあります。

この土地の評価額を大きく引き下げることができるのが「小規模宅地等の特例」です。ただし、土地を個人事業に使っている場合と、自社(法人)に貸し付けている場合とでは、適用される区分も要件も異なります。法人化している会社の土地に適用されるのは「特定同族会社事業用宅地等」であり、個人事業用の「特定事業用宅地等」とは別の要件を満たす必要があります。

今回は、この特定同族会社事業用宅地等の適用要件と、実務上あわせて確認しておきたい「土地の無償返還に関する届出書」との関係について解説します。


ポイント① 自社に貸している土地は「特定同族会社事業用宅地等」

小規模宅地等の特例には4つの区分があり、それぞれ限度面積と減額割合が定められています。

区分 限度面積 減額割合
特定事業用宅地等 400㎡ 80%
特定同族会社事業用宅地等 400㎡ 80%
特定居住用宅地等 330㎡ 80%
貸付事業用宅地等 200㎡ 50%

このうち、被相続人が個人事業主として営んでいた事業の用に供されていた土地は「特定事業用宅地等」に該当します。一方、被相続人が同族会社に貸し付けており、その会社の事業の用に供されていた土地は「特定同族会社事業用宅地等」に該当します。

限度面積400㎡・減額割合80%という数字は同じですが、満たすべき要件が異なります。法人成りしている会社の社長が「自社のビルが建っているから80%減額できるはず」と個人事業用の感覚で判断すると、法人特有の要件を満たしておらず、特例が適用できないという結果になりかねません。


ポイント② 特定同族会社事業用宅地等の要件

この区分の適用を受けるには、次の要件をすべて満たす必要があります。

① 法人の株式等の保有割合(同族会社の要件)

相続開始の直前において、被相続人およびその親族その他被相続人と特別の関係がある者が、その法人の発行済株式の総数または出資の総額の50%超を有していることが必要です。

外部からの出資を受け入れて持株比率が下がっている場合や、株式が親族外に分散している場合には、この要件から外れることがあります。資本政策を検討する際には、この点も確認しておく必要があります。

② 法人の事業の用に供されていること

その土地が、法人の事業の用に供されていた宅地等であることが必要です。ここでいう法人の事業からは、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業および準事業が除かれています。

つまり、自社が不動産賃貸業を営んでおり、その賃貸用物件の敷地として使っている場合には、この区分には該当しません。この場合は貸付事業用宅地等(200㎡・50%減額)として適用を検討することになります。

③ 取得者の要件(役員要件・保有継続要件)

その土地を相続または遺贈により取得した被相続人の親族が、申告期限においてその法人の役員(法人税法第2条第15号に規定する役員をいい、清算人を除きます)であることが必要です。

あわせて、その親族が相続開始時から申告期限まで引き続きその土地を保有していること、および申告期限まで引き続きその法人の事業の用に供されていることが求められます。

ここで注意したいのは、役員であることが求められるのは申告期限の時点であるという点です。相続開始時から継続して役員である必要はありませんが、逆に言えば、土地を相続した人が申告期限までに役員に就任していなければ、この区分は適用できません。

会社経営に関わっていない配偶者や、後継者以外の子が土地を単独で取得した場合には、この要件を満たせないおそれがあります。誰が土地を取得するかは、遺言や分割協議の段階で意識しておく必要があります。

なお、法人の事業内容が相続後に変更されても、引き続き事業の用に供されていれば要件は満たされます(貸付事業への変更は除きます)。この点は、被相続人の事業と同一の事業を継続することが求められる特定事業用宅地等とは異なります。

④ 建物等の所有者と貸付けの形態

小規模宅地等の特例の対象となるのは、建物または構築物の敷地の用に供されている宅地等です(農地および採草放牧地を除きます)。したがって、更地や青空駐車場のまま貸し付けている土地は、この特例の対象になりません。

そのうえで、法人の事業の用に供されていた宅地等の範囲は、措置法関係通達において次の2つに整理されています。

その法人に貸し付けられていた宅地等(土地を法人に貸し付け、法人が建物等を所有しているケース)
その法人の事業の用に供されていた建物等で、被相続人が所有していたもの、または被相続人と生計を一にしていた親族が所有していたもので、その法人に貸し付けられていたものの敷地(被相続人等が建物等を所有し、それを法人に貸し付けているケース)

いずれの場合も、その貸付けが事業に該当すること、すなわち相当の対価を得て継続的に行われていることが前提となります(この点はポイント③で解説します)。また、建物等を被相続人と生計を一にする親族が所有している場合には、その親族が建物等の敷地を被相続人から無償で借り受けていた場合に限られます。


ポイント③ 無償で貸していると適用できない

実務でとくに問題になりやすいのが、土地の貸付けが有償であるかどうかです。

特定同族会社事業用宅地等に該当するためには、被相続人等から法人への不動産の貸付けが、相当の対価を得て継続的に行われている必要があります。「自分の会社から地代を取るのは気が引ける」「会社の経費を抑えたい」といった理由で、無償あるいは固定資産税相当額程度の低額で貸している場合、税務上は使用貸借と扱われ、この特例は適用できません。

自社ビルの敷地について特例の適用を予定しているのであれば、賃貸借契約書を整備し、適正な地代の授受を継続しておくことが前提となります。この点は相続が起きてからでは対応できないため、生前に確認しておくべき事項です。


ポイント④ 「土地の無償返還に関する届出書」との関係

ここまでは、小規模宅地等の特例の要件を見てきました。これとは別に、個人の土地を同族会社に貸している場合には、その土地の評価額そのものに影響する手続きがあります。

「地代」と「権利金」は別の話

最初に用語の整理をしておきます。ポイント③で有償であることが必要と述べたのは、毎月(毎年)授受する地代のことです。これから説明する「無償返還」は、借地関係が終了したときに法人が土地を無償で返還するという意味であり、権利金をめぐる取扱いです。名称に「無償」とありますが、地代を無償にするという話ではありません。

届出書の内容

個人所有の土地に同族会社が建物を建てて使用する場合、本来は借地権の設定にあたり権利金の授受が必要になります。同族間ではこれを省略することが多く、その場合に提出するのが「土地の無償返還に関する届出書」です。

これは、将来借地関係が終了したときに、法人が土地を無償で返還することを個人と法人の連名で税務署長に届け出るものです。この届出書を提出することで、法人側で権利金の認定課税を受けずに済みます。

評価は2段階で下がる

相続税の評価においては、この届出書が提出されている土地は、自用地としての価額の80%相当額で評価されます。

そして、この80%相当額を基礎として、要件を満たせばさらに特定同族会社事業用宅地等の80%減額を適用することになります。土地の評価は次の順序で計算されます。

第1段階 無償返還届出書の提出により、自用地としての価額の80%で評価する
第2段階 上記の金額に対し、小規模宅地等の特例(400㎡まで80%減額)を適用する

なお、使用貸借により貸し付けている場合には、届出書を提出していても土地は自用地としての価額で評価されます。この点でも、有償による賃貸借としておくことが重要になります。

減額分は自社株の評価に反映される

もっとも、第1段階の20%の減額について、注意すべき点があります。

被相続人が同族会社の株式を保有している場合、その株式を純資産価額方式で評価する際に、自用地としての価額の20%相当額が借地権として法人の資産に計上されます。つまり、土地の評価が20%下がる一方で、その分が株式の評価額に反映される仕組みになっています。

したがって、届出書の提出によって家族全体の相続財産が単純に20%減るわけではありません。土地と自社株を合わせて見る必要があり、個人の財産と会社の財産を一体として把握することが欠かせません。この自社株の評価そのものについては、第5回で取り上げます。


ポイント⑤ 自宅の敷地とは併用できる

経営者の相続では、自社ビルの敷地と自宅の敷地の両方を持っているケースが一般的です。

特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等(合計400㎡)と、特定居住用宅地等(330㎡)は、それぞれの限度面積まで完全に併用できます。したがって、要件を満たせば合計730㎡まで80%減額の適用を受けられます。

一方、選択する宅地等に貸付事業用宅地等が含まれる場合には、次の算式により200㎡の枠を分け合う調整計算が必要になります。

特定事業用等宅地等の面積 × 200/400 + 特定居住用宅地等の面積 × 200/330 + 貸付事業用宅地等の面積 ≦ 200㎡

複数の宅地を所有している場合、どの土地にどの区分を適用するかによって減額される金額が変わります。単価の高い土地から優先的に適用するのが基本ですが、限度面積の調整も絡むため、実際には複数のパターンを試算して有利な選択を判断することになります。

適用には申告手続と相続人全員の同意が必要

この特例は、要件を満たせば自動的に適用されるものではありません。相続税の申告書にこの特例の適用を受けようとする旨を記載し、小規模宅地等についての課税価格の計算明細書や遺産分割協議書の写しなど、一定の書類を添付することが要件とされています(措置法第69条の4第7項)。

あわせて、特例の対象となり得る宅地等を取得した相続人等が2人以上いる場合には、どの宅地等について特例を適用するかという選択について、これらの者全員の同意が必要です(措置法施行令第69条の4第5項)。

経営者の相続では、この同意が実際に問題になります。自社ビルの敷地を相続した後継者と、自宅の敷地を相続した配偶者や他の子とで、どちらに特例を適用するかによって各人の税負担が変わるためです。限度面積の枠を超える場合には、家族全体の税額が最小になる選択と、各人の負担の公平とが一致しないこともあります。試算の結果を共有し、分割協議の段階で説明しておくことが欠かせません。


まとめ

自社に貸している土地に適用されるのは「特定同族会社事業用宅地等」であり、400㎡まで80%減額となる。個人事業用の「特定事業用宅地等」とは要件が異なる
被相続人と親族等で発行済株式等の50%超を保有していること、法人の事業(不動産貸付業等を除く)の用に供されていることが前提となる
土地を取得した親族は、申告期限においてその法人の役員であり、かつ相続開始時から申告期限まで土地を保有し、法人の事業の用に供され続けている必要がある
無償(使用貸借)による貸付けでは適用を受けられない。相当の対価による賃貸借としておくことが前提
適用には、相続税の申告書への記載と計算明細書等の添付が必要であり、対象となり得る宅地等を取得した者が2人以上いる場合には選択について全員の同意が必要となる
対象となるのは建物または構築物の敷地であり、更地や青空駐車場は該当しない。建物等を法人が所有している場合と、被相続人等が所有して法人に貸し付けている場合のいずれも対象となる
「土地の無償返還に関する届出書」は地代ではなく権利金に関する手続きである。提出している土地は自用地価額の80%で評価され、その金額にさらに小規模宅地等の特例を適用できる
ただし、その20%相当額は自社株の評価上、借地権として法人の資産に計上されるため、家族全体の財産が単純に減るわけではない
自宅の敷地(特定居住用宅地等330㎡)とは完全併用でき、合計730㎡まで適用できる

次回(第4回)は、相続が発生した後の手続きの期限について解説します。相続税の申告期限は10か月ですが、その前に被相続人の所得税・消費税の準確定申告を4か月以内に行う必要があります。また、申告期限までに遺産分割が成立しない場合には、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が使えないという問題が生じます。その対応方法とあわせてお届けします。

※本記事は掲載時点の法令・税制に基づいて作成しています。その後の税制改正等により、記載内容が現状と異なる場合があります。個別の税務判断については、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。