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第5回 経営者のための相続・事業承継 ~自社株の評価はどう決まるか——取引相場のない株式の計算構造~

「うちは上場していないから、株式の価値といっても資本金の額くらいだろう」と考えている経営者は少なくありません。しかし、業績が安定して内部留保が積み上がっている会社や、含み益のある不動産を保有している会社では、自社株式の相続税評価額が想定を大きく超えていることがあります。

自社株式は容易に売却できない資産であるにもかかわらず、相続が発生すれば評価額に応じた相続税が課されます。まずは自社の株価がどのように計算されるのかを把握しておくことが、事業承継の出発点になります。

今回は、取引相場のない株式の評価の基本構造と、評価額が高額になっている場合の対応の考え方について解説します。


ポイント① 誰が取得するかで評価方式が変わる

取引相場のない株式の評価で最初に押さえるべきは、同じ会社の株式であっても、取得する人によって評価方式が異なるという点です。

同族株主等(経営権を有する株主) 原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式・その併用)
同族株主等以外の株主 特例的評価方式(配当還元方式)

会社を支配する立場にある株主は、会社の財産や収益力を反映した原則的評価方式により評価されます。一方、経営に関与せず配当を受け取る立場にとどまる株主は、配当実績のみに着目した配当還元方式によって評価され、株価は大幅に低くなります。

ここで注意が必要なのは、株主区分の判定が議決権割合によって細かく定められている点です。保有割合が少なければ当然に配当還元方式になるというものではなく、同族グループ全体の議決権割合や、本人の議決権割合などによって判定されます。自社の株主構成がどの区分に当たるのかは、個別に確認する必要があります。

また、評価額が低くなることだけを理由に株式を分散させると、後継者の議決権割合が下がり、将来の買戻しも容易ではなくなります。相続や贈与によって株式がさらに次の世代へ広がっていくことも考えられます。自社株は後継者に集中させることが原則であり、この点は第9回で改めて取り上げます。


ポイント② 会社規模によって計算方法が変わる

原則的評価方式では、会社を大会社・中会社・小会社に区分し、それぞれ評価方法が定められています。区分は、従業員数、総資産価額、取引金額(売上高)により、業種ごとの基準に当てはめて判定します。従業員数が70人以上の会社は、他の要素にかかわらず大会社となります。

大会社 類似業種比準方式(純資産価額方式との選択可)
中会社 併用方式(L=0.90/0.75/0.60)(純資産価額方式との選択可)
小会社 純資産価額方式(L=0.50の併用方式との選択可)

Lは類似業種比準価額の適用割合です。大会社は類似業種比準価額のみで評価するためL=1.00に相当し、中会社は0.90から0.60、小会社は0.50となります。つまり規模が大きいほどLは高くなります。利益が出ていて内部留保が厚い会社では、類似業種比準方式のほうが純資産価額方式より低い評価額になることが多いため、Lの割合が大きいほど株価は下がる傾向があります。

ただし、どちらが低くなるかは会社の状況によって異なります。たとえば、含み損を抱えている会社では純資産価額が低く算定されることがあり、逆に業種平均と比べて収益力が高い会社では、類似業種比準価額のほうが高くなることもあります。まずは両方式で試算し、自社がどの位置にあるかを確認することが必要です。

なお、ここで述べた会社規模による区分は、通常の会社に適用されるものです。会社の状況が一定の要件に当たる場合には、会社規模にかかわらず別の評価方法が適用されることもあります。該当するかどうかは決算内容の確認が必要になるため、株価の試算にあたっては顧問税理士に確認してください。


ポイント③ 類似業種比準方式の計算構造

類似業種比準方式は、同業種の上場会社の平均株価を基礎として、配当・利益・簿価純資産の3つの要素を比較して評価する方法です。

1株当たりの比準価額 = 類似業種の株価(A) × {(b/B + c/C + d/D)÷ 3} × 斟酌率

b・c・dは評価会社の1株当たりの配当金額・利益金額・簿価純資産価額、B・C・Dは類似業種の同じ指標です。配当・利益・簿価純資産の3要素は同じ比重で扱われます。

斟酌率は、上場会社と比べた場合の規模や経営基盤の違いを考慮して評価額を調整するもので、大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5とされています。規模が小さいほど低く、その分だけ比準価額は下がります。

なお、3つの要素はいずれも直前期などの決算数値に基づくため、評価額は毎期変動します。自社の株価を把握するには、直近の決算を前提とした試算が必要になります。


ポイント④ 純資産価額方式と法人税額等相当額の控除

純資産価額方式は、会社の資産を相続税評価額により評価し直したうえで負債を差し引き、会社の財産価値に着目して1株当たりの価額を求める方法です。

この計算では、資産の相続税評価額の合計額が帳簿価額の合計額を上回る場合、その差額(評価差額)に対する法人税額等に相当する金額を控除できます。控除割合は38%です。防衛特別法人税の創設に伴って従来の37%から改められ、令和8年4月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した株式等の評価に適用されます。

たとえば、帳簿価額2,000万円の土地の相続税評価額が1億2,000万円である場合、評価差額1億円に38%を乗じた3,800万円を、純資産価額の計算上控除することになります。

ただし、課税時期前3年以内に取得または新築した土地や建物については、例外が設けられています。

通常、土地は路線価、建物は固定資産税評価額をもとに評価します。これらは実際の売買価格より低く設定されているため、相続税の計算上の価額は、その不動産を買った金額よりも小さくなるのが一般的です。会社で不動産を購入すれば、その差の分だけ純資産価額が下がることになります。

しかし、取得から3年以内のものについては、この方法によらず、実際に売買される価格に相当する金額(通常の取引価額)で評価します。買った金額とほぼ同じ金額で評価されるため、帳簿価額との差が生じません。結果として、評価差額をもとに計算する法人税額等相当額の控除も働きにくくなります。

相続が近い時期に不動産を取得して評価額を引き下げるという対応を想定して設けられた規定です。


ポイント⑤ 評価額への対応と留意点

自社株の評価額が高額になっている場合、何らかの対応を検討することになります。その際に押さえておきたいのは、評価額を引き下げること自体が目的ではないという点です。目的は、後継者が議決権を確保したうえで、無理のない税負担で株式を引き継げる状態をつくることにあります。評価額が下がっても、そのために株式が分散したり、事業上の合理性を欠く取引を行ったりすれば、承継そのものが難しくなります。

この順序で考えると、一般的に紹介される引下げ策の多くは、実際には勧められるものではありません。ここでは、承継の実務で取り上げる価値のある手法を1つと、あわせて押さえておきたい事項を2つ整理します。

① 役員退職金の支給(生前の退任時)

先代経営者が代表を退き、役員を退任するタイミングで役員退職金を支給する方法です。支給額は会社の損金に算入され、利益と純資産が減少するため、自社株の評価額が下がります。

対策として重要なのは、支給の時期を自ら選べるという点です。株価が下がった時点を捉えて、後継者への贈与や譲渡を実行することができます。この点については第6回で改めて取り上げます。

ただし、この手法の意義は株価の引下げだけではありません。退職所得は、退職所得控除を差し引いたうえで、その残額の2分の1が課税対象となり(役員等で勤続年数5年以下の場合を除きます)、他の所得と分離して課税されます。役員報酬として毎月受け取る場合と比べて個人の税負担が大きく軽くなるため、会社に蓄積された資金を個人へ移す手段としては、税務上もっとも効率のよい方法といえます。

自社株の評価額が下がる一方で個人の財産は増えますが、後継者が子などの相続人である場合には、その資金を後継者の納税資金として活用できます。会社と個人を通じて考えれば、合理性のある手法です。

ただし、役員や従業員への承継(MBO・EBO)や第三者への譲渡を想定している場合は、前提が変わります。退職金として個人に移った資金は後継者の納税資金にはならず、相続人が相続する財産が増えることになります。この場合は、株価の引下げによる効果と、個人財産の増加による影響を分けて考える必要があります。

実行にあたっては、不相当に高額な部分が損金に算入されない点に注意が必要で、功績倍率法などによる金額の妥当性の検証が欠かせません。また、多額の現預金が流出するため資金繰りへの影響を確認する必要があります。加えて、支給によって利益がゼロになると、会社規模によらない評価方法が適用される場合があり、かえって評価額が上がることもあります。

一方、死亡によって支給される死亡退職金は、これとは別の扱いになります。支給により株価が下がるのは支給後の期であり、相続開始時点の自社株の評価には反映されないため、株価対策としては機能しません。死亡退職金の意義は、第1回で解説した非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)と、遺族の納税資金の確保にあります。

② 確認しておきたい事項——会社規模区分の判定

手法を検討する前に、現状の評価が正しく行われているかを確認しておく必要があります。会社規模の判定を改めて行うと、実際には中会社に該当するにもかかわらず小会社として計算していたというケースもあります。従業員数の数え方や取引金額の集計方法を含め、区分の判定を正確に行うことが出発点になります。

なお、評価引下げのみを目的として組織再編や人員増を行うことは、事業上の合理性を欠く場合には否認のリスクを伴います。会社規模は事業の実態に応じて決まるものであり、評価のために動かす対象ではありません。

③ 対策全般に共通する留意点——総則6項

財産評価基本通達の総則6項は、通達の定めにより評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する旨を定めています。

近年、この規定を適用して通達評価額を否認した事例が相続税の分野で複数生じています。租税負担の軽減のみを目的とした不自然な行為は、形式的に通達に沿っていても否認される可能性があります。事業上の必要性と合理性を説明できることが、対策の前提となります。


まとめ

取引相場のない株式は、同族株主等が取得する場合は原則的評価方式、それ以外の株主が取得する場合は配当還元方式により評価される
原則的評価方式では、会社規模(大・中・小)に応じて類似業種比準方式と純資産価額方式の適用割合が変わる。ただし会社の状況により、会社規模によらない評価方法が適用される場合もある
類似業種比準方式では、配当・利益・簿価純資産の3要素が同じ比重で扱われるため、利益だけを圧縮しても引下げの効果は限られる
純資産価額方式では評価差額に対する法人税額等相当額を控除できる。控除割合は令和8年4月1日以後の取得分から38%(従来は37%)となっている。なお、課税時期前3年以内に取得した土地建物等は通常の取引価額で評価する
生前の退任時に支給する役員退職金は、自社株の評価額を下げるとともに、支給の時期を選べるため、株価が下がった時点で後継者へ移転できる。退職所得課税の優遇により、会社の資金を個人へ移す手段としても効率がよい
ただし、個人に移った資金が後継者の納税資金となるのは後継者が相続人である場合に限られる。また、不相当に高額な部分が損金に算入されない点や、資金繰りへの影響の確認が必要になる
死亡退職金は、支給による株価の低下が相続開始時の評価に反映されないため株価対策にはならない。非課税枠と遺族の納税資金の確保が意義となる
評価額への対応は、事業上の合理性を欠くと総則6項により否認されるおそれがある。一般に紹介される引下げ策の多くは、株式の分散や合理性のない取引を伴うため勧められない

次回(第6回)は、自社株を後継者へ移転する際の入口となる生前贈与について解説します。令和6年から、暦年課税では相続財産に加算される期間が3年から7年へ段階的に延長されており、相続時精算課税には年110万円の基礎控除が新設されました。両制度の違いと、自社株の移転にあたってどちらを選ぶかの判断基準をお届けします。

※本記事は掲載時点の法令・税制に基づいて作成しています。その後の税制改正等により、記載内容が現状と異なる場合があります。個別の税務判断については、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。