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第5回 経営者のための起業・会社設立ガイド ~創業期の赤字を「節税チケット」に変える——青色申告と黒字化後の税務戦略~
創業直後は、売上が伸びるよりも先に家賃・設備費・人件費などのコストが先行し、業績が「赤字の谷」に落ち込むのが一般的です。通帳の残高が減っていくのを見て、不安な夜を過ごす起業家も少なくありません。
しかし、税務の世界においては「創業期の赤字=悪」と悲観する必要はありません。法人の税務ルールを正しく理解し活用すれば、この創業期の赤字を、将来会社が黒字になったときに使える「節税チケット」としてストックしておくことができるのです。今回は、起業家が知っておくべき「赤字の賢い使い方」から、陥りがちな「無駄遣い節税の罠」、そして黒字化後に会社のお金を守るための税務戦略まで解説します。
ポイント① 「青色申告の繰越欠損金」の絶大な威力
法人を設立して事業を行う大きなメリットのひとつが、「青色申告による赤字(欠損金)の繰越控除」です。個人の青色申告でも赤字を翌年以降に繰り越すことはできますが、その期間は「3年間」に限定されています。一方、法人の青色申告であれば、赤字を「最長10年間」繰り越すことができます。
具体的な数字で見てみましょう。創業からの3年間、多額の先行投資を行った結果、毎年赤字が続き「合計1,000万円の赤字」を積み上げたとします。しかし4年目以降、ついに事業が軌道に乗り「年間1,000万円の黒字(利益)」を出しました。
| 青色申告なしの場合 | 黒字1,000万円に対して法人税等(約30%)=約300万円の納税が発生 |
| 青色申告ありの場合 | 過去の赤字1,000万円と黒字1,000万円を相殺→法人税を大幅に減らすことが可能 |
第3回の記事で「青色申告の承認申請書の期限を1日でも過ぎると大損する」とお伝えしたのは、まさにこの「10年間使える節税チケット」を失ってしまうからです。
ポイント② 「無駄遣い節税」の罠と融資への悪影響
事業が軌道に乗り、過去の赤字も使い切って本格的に利益が出始めると、多くの経営者が「税金を払いたくない」という思いに駆られます。ここで注意すべきなのが、「税金で持っていかれるくらいなら高級車を買おう」といった、不必要な支出を伴う節税です。
「100万円を節税するために300万円の無駄な経費を使う」ということは、税金が減る以上に手元のキャッシュを大きく減らす行為です。さらに、融資への悪影響も見逃せません。金融機関が融資を審査する際の返済能力(簡易キャッシュフロー)は「税引後利益 + 減価償却費」で計算されます。無駄な経費を使って利益を圧縮してしまうと、この簡易キャッシュフローが小さくなり、将来の事業拡大に必要な追加融資が受けにくくなってしまいます。
「法人税は、自社の信用力を高め、銀行から融資を引き出して事業を拡大するための『必要経費』である」というマインドチェンジが、長期的な経営においては重要です。
ポイント③ 黒字化が見えたら「課税の繰り延べ」で資金を守る
無駄遣いをせずに手元のキャッシュを守るための有効な戦略が、お金をストックしながら経費にできる「課税の繰り延べ」です。
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)の活用
取引先の倒産に備えるための国の共済制度ですが、支払った掛け金(最大月20万円・年間240万円まで)を全額「経費」として計上できるという節税効果があります。40か月以上掛け続ければ、解約した際に掛け金が100%戻ってきます。実質的に「会社に貯金をしながら利益を圧縮(節税)できる」という有効な手段です。
設備投資時の「特別償却」
事業拡大のために機械や設備を購入した際、要件を満たして「特別償却」という制度を使えば、初年度に通常の減価償却費に加えて多額の金額を「より早く、より多く」経費に算入することができます。設備投資を行った年度の目先の税負担を小さくして資金繰りを安定させることができます。
ポイント④ 「決算月の変更」という戦略
法人のみが使える節税・資金繰り対策として「決算月の変更」があります。個人事業主の決算月は「12月」と法律で決まっていますが、法人の場合はいつでも自由に決算月を設定・変更できます。
たとえば、毎年特定の月に大きな売上が立つビジネスの場合、その月を決算月に設定してしまうと、予想外の利益が出ても節税対策を打つ余裕がなくなります。そこで「一番売上が大きい月を、事業年度の『期首(最初の月)』になるように決算月を変更する」という方法があります。これにより、大きな利益が出たとしても決算まで最長11か月の猶予ができ、人材採用や設備投資など事業成長のための計画的な投資をじっくりと行うことができます。
ポイント⑤ 「役員報酬」の最適化と小規模企業共済
社長個人の税金も加味したトータルの税負担を減らす戦略もあります。個人事業主は事業の利益すべてに高い累進課税がかかりますが、法人の場合は利益を「会社に残す利益」と「社長個人の給与(役員報酬)」に分散できます。役員報酬には「給与所得控除」という非課税枠があるため、法人税と所得税のバランスを見て最適な報酬額を設定することで、トータルの税率を下げることができます。
あわせて、社長個人として「小規模企業共済」への加入も検討する価値があります。毎月最大7万円(年間84万円)を積み立てることができ、積み立てた全額が社長個人の所得から控除されるため、個人の所得税・住民税を抑えながら将来の資金を形成できる経営者向けの制度です。
まとめ
創業期の赤字を10年間のチケットとして使い、黒字化後は「無駄遣い」を避けて銀行の信用を確保しつつ、「課税の繰り延べ」や「決算月の変更」で賢くキャッシュを守る——これらはすべて、会社に最大限の資金を残すための「戦略」です。税理士を単なる「過去の領収書を計算する人」ではなく、「未来のキャッシュを守る財務のパートナー」として活用することをお勧めします。
起業1年目の経営管理の基本・会社を生き残らせるためのお金の管理・廃業を防ぐためのチェックリストなど、起業・会社設立に関する実践的なテーマについて、今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
