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最終回  経営者のための起業・会社設立ガイド ~会社が潰れる理由は「借金」ではなく「現金不足」——起業1年目の資金管理チェックリスト~

これまで全5回にわたり、個人事業主と法人の違いから、会社設立の手順・設立後の税務手続き・創業融資の活用法・赤字を活かした税務戦略まで、起業家が知っておくべき「お金と経営のリアル」を解説してきました。

本シリーズの最終回となる今回は、起業という船出を果たした経営者に待ち受ける「厳しい現実」と、会社を生き残らせるための「お金の管理の基本(チェックリスト)」をお伝えします。


ポイント① 最新データが示す「休廃業・解散7万件」の過酷なリアル

起業して会社を設立することは、あくまでスタートラインに過ぎません。国が発表している最新の統計データを見ると、スモールビジネスのリアルな実態が浮かび上がってきます。

最新の『2025年版 中小企業白書』によると、企業活動が停止する「休廃業・解散」の件数は近年減少傾向にあったものの、2023年に増加に転じ、2024年には「約7万件(69,019件)」にまで急増しています。そしてこの休廃業・解散に追い込まれた企業の「9割超」を一貫して小規模事業者が占めているという厳しい事実があります。起業直後の会社は、常にこの「9割」の枠に入るリスクと隣り合わせなのです。


ポイント② 「黒字廃業」の時代は終わり、「赤字廃業」が過半数へ

さらに注目すべきは、企業が市場から退場していく「理由」の変化です。過去には「利益は出ているが、経営者が高齢化し後継者がいないから会社を畳む」というケースが多く見られました。しかし現在、その状況は一変しています。

最新データによれば、小規模事業者においては「赤字」の状態で休廃業・解散に至る割合が2023年に半数を超え、2024年も「赤字での退場」が過半数(50.4%)を占める事態となっています。物価や原材料費の高騰・人手不足による人件費の上昇など、経営環境が激変する中、スモールビジネスが市場から退場する最大の要因は「利益が出ず、資金(キャッシュ)が尽きてしまうこと」へとシフトしています。

会社が倒産・廃業する理由は「借金があるから」ではありません。「手元の現金がショートして、支払いができなくなるから」です。だからこそ、起業直後から徹底した資金繰りの管理が必要です。


ポイント③ 資金ショートを防ぐ「お金の管理」3つの基本

不本意な赤字廃業を防ぐためには、日々の売上を追うのと同じくらい「資金(キャッシュ)の管理」が重要です。

「どんぶり勘定」を捨て、資金繰り表を作る

会社にお金が残らない大きな原因は、「売上代金の回収(入金)」よりも「仕入や経費の支払い」が先行してしまうタイミングのズレにあります。会計上の利益が出ていても手元の現金が不足して「黒字倒産」してしまうのはこのためです。過去の結果である試算表を見るだけでなく、未来のお金の出入りを管理する「資金繰り表」の作成が重要です。

「半年先の現金残高」を予測し、安全水準をキープする

常に資金繰り表をアップデートし、数か月先の手元資金を予測します。会社を安全に存続させるための現預金の目安は、最低でも「月商の1か月分」、できれば「月商の3か月分〜6か月分」の確保が望ましいとされています。数か月先に資金がショートする予測が出た場合は、資金に余裕がある時点で早めに金融機関に相談することが重要です。

「税金を払うくらいなら…」の無駄遣い節税をしない

第5回でも触れましたが、不要な高級車を買うなどの「無駄遣い節税」は手元の現金を大きく減らすだけでなく、銀行からの信用(返済能力の評価)を落とし、いざという時の追加融資が受けにくくなる原因になります。


ポイント④ 起業1年目を生き残る経営管理チェックリスト

起業1年目、社長が毎月必ずチェックすべき実践的な管理項目をまとめました。資金ショートの危機は、これらの基本を怠ったところから始まります。現状、いくつクリアできているか確認してみてください。

【請求・回収】 請求書の発行と入金確認を毎月必ず行っているか(回収漏れや遅れはないか)
【支払管理】 翌月・翌々月の大きな支払い(税金・社会保険料・年払いのシステム料など)の金額と時期を把握しているか
【消費税の積み立て】 消費税の免税期間が終了した後に備え、売上に含まれる消費税相当額を毎月別口座に積み立てているか
【公私混同の排除】 個人の生活費と会社の事業資金が明確に分離されているか(社長自身が役員報酬の範囲内で生活できているか)
【残高予測】 常に半年先の「月末の現金残高」を予測し、月商の数か月分の余力を保てているか
【残高の振り返り】 毎月末に「通帳の預金残高」を確認し、先月からの増減額と「なぜ増えたのか/減ったのか」の理由を説明できるか
【借入金管理】 銀行からの借入がある場合、借入ごとの返済予定表を作成し、日々の資金繰り表と連動させて管理しているか
【月次目標との対比】 売上・粗利・経費について月次の目標値を設定し、実績との差異(差額)を毎月確認・分析しているか
【記帳と試算表】 日々の取引(売上・仕入・経費など)を正しく帳簿に記帳し、定期的に試算表をチェックしているか
【経費の妥当性】 経費として支払ったものについて、「なぜこの費用が会社の事業に必要なのか」を税務署や銀行に対して論理的に説明できるか
【保険の確認】 業務上のリスクに備えた賠償責任保険など、事業に必要な保険に加入しているか
【コスト削減】 無駄な経費を削減するため、電子契約やクラウド会計など、ITを活用した業務効率化を図っているか
【専門家との定期面談】 顧問税理士など専門家と定期的に面談し、試算表をもとに資金繰りや税務の状況を確認しているか

おわりに——税理士を「財務のパートナー」に

全6回にわたりお届けしてきた「起業・会社設立ガイド」、いかがでしたでしょうか。会社を立ち上げること自体は、手続きさえ踏めば誰にでもできます。しかし、その会社を生存させ成長させていくためには、情熱やアイディアだけでなく「冷徹な数字(財務・税務)の管理」が欠かせません。

社長の最も重要な仕事は、自社のサービスを磨き売上を作ることです。慣れない資金繰り表の作成や期限厳守の複雑な税務手続きに追われて本業がおろそかになっては、本末転倒です。だからこそ、起業のスタートラインから税理士を単なる「過去の領収書を計算する人」ではなく、「自社の未来のキャッシュを守る財務のパートナー」として活用することをお勧めします。


※本記事は掲載時点の法令・税制に基づいて作成しています。その後の税制改正等により、記載内容が現状と異なる場合があります。個別の税務判断については、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。

【参考文献】本連載の執筆にあたり、以下の書籍・資料を参考にさせていただきました。

・『中小企業白書 2025年版』(中小企業庁/日経印刷株式会社)
・『なぜ倒産 23社の破綻に学ぶ失敗の法則』(日経トップリーダー編集部 著/株式会社日経BP)
・『なぜ倒産 令和・粉飾編 破綻18社に学ぶ失敗の法則』(日経トップリーダー 著/株式会社日経BP)
・『成功に導く!創業支援マニュアル 改訂版』(森隆夫 著/ビジネス教育出版社)
・『改訂新版 融資を引き出す創業計画書 つくり方・活かし方』(エッサム 著・西内孝文 監修/株式会社あさ出版)
・『増補改訂版 独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(田原広一 著/株式会社幻冬舎メディアコンサルティング)
・『中小企業の「銀行交渉と資金繰り」完全マニュアル』(安田順・池田聡 著/日本実業出版社)
・『税理士必携 顧問先の銀行融資支援スキル 実装ハンドブック』(諸留誕 著/日本法令)
・『資金繰り表作成&活用マニュアル』(篠崎啓嗣・西川佳徳 著)
・『〈図解〉「ひとり社長」の賢い節税 元国税が教えるお金の残し方』(杉田健吾 著/明日香出版社)