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第1回 経営者のための法人税入門 ~法人税の基本構造と「利益」と「所得」がズレる理由~
会社を設立して事業を本格化させると、避けては通れないのが「法人税」の申告と納税です。個人事業主の確定申告とは税金の計算方法や仕組みが大きく異なるため、新米経営者やこれから起業を考えている方にとっては難解に感じられることも多いのではないでしょうか。
この連載(全4回)では、会社の税金の全体像をわかりやすく解説していきます。第1回となる今回は、法人税の計算や税率といった基本構造から、決算書の「利益」と税務上の「所得」がなぜズレるのか、その調整の仕組みについて確認していきましょう。
ポイント① 法人税は「利益」ではなく「所得」に課税される
法人税は、会社の各事業年度の「所得の金額」を課税標準として課される国税です。個人事業主の所得税では、所得の性質に応じて10種類の「所得区分」に分けて計算しますが、法人税ではそのような区分は行わず、法人の経済活動から得られたすべての儲けを1本の式で計算します。
基本となるのが、以下の所得計算の式です。
| 所得の金額 = 益金の額 - 損金の額 |
法人税の税率構造
法人の所得にかけられる税率は、個人の所得税(所得が増えるほど段階的に税率が上がる超過累進税率、最大45%)とは異なり、原則として一律の「比例税率」が採用されています。
現在の原則的な基本税率は23.2%です。ただし、日本の会社の多くを占める資本金1億円以下の中小法人等には、税負担を軽減する特例が用意されています(資本金5億円以上の大法人に100%支配されている子会社などは除きます)。
なお、この連載では「中小法人等」「中小企業者等」という似た言葉がたびたび登場しますが、根拠となる法律によって範囲が微妙に異なります。詳しくは第3回で整理して解説します。
| 年間所得のうち800万円以下の部分 | 15%(軽減税率) |
| 年間所得のうち800万円を超える部分 | 23.2%(原則税率) |
この軽減税率は、資本金1億円以下の中小法人等にのみ認められた優遇措置です。
余談になりますが、法人化(法人成り)が税負担面で有利かどうかは、法人税の税率だけでなく、所得税・住民税・社会保険料なども含めた総合的な比較が必要になるため、個別の状況に応じた検討が欠かせません。
ポイント② なぜ「利益」と「所得」はズレるのか——別表調整の仕組み
会社の決算書上の「利益(収益-費用)」と、税務上の「所得(益金-損金)」は、必ずしも一致しません。この点は、法人税を初めて意識する経営者がつまずきやすいポイントです。
法人税法第22条第4項は、益金・損金の額について「別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする」と定めています。つまり原則としては、企業会計上の収益・費用の計算をそのまま利用してよいということです。この考え方を「公正処理基準」と呼びます。
ただし、あくまで「原則として」であり、法人税法や租税特別措置法にはこの原則に対する例外——「別段の定め」——が数多く設けられています。会計上は費用として認識していても、税務上は損金として認めない(または認める時期・上限が異なる)項目があるということです。そのため実務では、決算書上の利益を出発点として、これらの「別段の定め」に基づく加算・減算の調整(申告調整)を確定申告書の別表四で行うことで、正しい「所得」を算定します。この作業を一般に「別表調整」と呼んでいます。
別表調整には、大きく分けて2つの区分があります。
| 留保 | 税務上の資産・負債と会計上の資産・負債にズレが生じるものとして扱われ、そのズレは別表五(一)で記録・管理され、将来のいずれかの事業年度で解消(認容)される調整 |
| 社外流出 | 調整した金額が会社の外に出ていくものとして扱われ、翌期以降には影響を残さない調整 |
同じ「加算」であっても、この2つでは翌期以降への影響がまったく異なります。この区分は次回以降でたびたび登場するため、ここで押さえておきましょう。
別表調整の対象となる代表的な項目には、次のようなものがあります。いずれも今後の記事で順次取り上げていく予定です。
| 役員報酬 | 定期同額給与・事前確定届出給与などの要件を満たさない支給は損金不算入となる |
| 使用人賞与(決算賞与) | 未払のまま損金算入するには、通知・支給時期・損金経理に関する一定の要件を満たす必要がある |
| 交際費 | 中小企業者等でも損金算入できる金額に上限が設けられている |
| 減価償却費 | 税法で定められた償却限度額を超える部分は損金不算入となる |
| 貸倒損失・貸倒引当金 | 取引先の倒産等による損失は、税務上の要件を満たすタイミングでなければ損金にできない |
| 寄附金 | 会計上は全額費用でも、税務上は所得や資本金の額に応じた損金算入限度額がある |
これらはいずれも「会計上は費用として処理されるが、税務上は無条件には損金にならない」という共通点を持っています。
ポイント③ 「損金」に算入するための基本的な考え方
別表調整の話に入る前提として、そもそも損金にはどのような分類があるのかを押さえておきましょう。法人税法上、損金に算入できるものは大きく3つに分類され、それぞれの帰属時期(どの事業年度の損金にするか)についてルールが設けられています。
| 分類 | 具体例 | 帰属の基本ルール |
| ①売上原価 | 商品の仕入高、製品の製造原価など | 費用収益対応の原則(収益に対応する年度) |
| ②販売費・一般管理費 | 旅費交通費、広告宣伝費、給与、家賃など | 債務確定基準(支払義務・金額が期末までに確定した年度) |
| ③損失の額 | 災害による損失、盗難被害、除却損など | 損失発生時の費用化 |
実務上とくに問題になりやすいのが、②「販売費・一般管理費」における「債務確定基準」です。まだ実際に支払っておらず、期末までに支払義務が確定していない見積もりの費用については、課税の公平性を保ち、恣意的な所得操作を防ぐ観点から、原則として損金の額から除外されます。
税法上「債務が確定している(損金にできる)」と判断されるには、期末までに以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
| 1 | 債務が成立していること |
| 2 | 具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること |
| 3 | その金額を合理的に算定できること |
たとえば、会計上「将来の従業員の退職金や賞与のために」と見積もりで計上する「退職給付引当金」や「賞与引当金」などは、この3要件(とくに債務の成立や金額の確定)を満たさないため、法人税法上は貸倒引当金など一部の例外を除き、原則として損金に算入できません。これも、会計上の費用と税務上の損金がズレる典型例のひとつです。
なお、設備投資を行った際の「減価償却」も、税法で定められた償却限度額の範囲でしか損金にできないという点で、別表調整が生じる代表的な項目です。償却方法の選択や償却限度額超過の扱いについては第2回で、中小企業者等の少額減価償却資産の特例については、第3回で欠損金や中小企業向けの税制優遇とあわせて取り上げます。
まとめ
| 法人税は決算書の「利益」ではなく、税務上の「所得(益金-損金)」に課される |
| 資本金1億円以下の中小法人は、年間所得800万円以下の部分について15%の軽減税率が使える |
| 法人税法第22条第4項の「公正処理基準」により、原則として企業会計の収益・費用計算がそのまま利用できるが、法令上の「別段の定め」がある項目は申告調整(別表調整)が必要になる |
| 減価償却・役員報酬・交際費・貸倒損失・寄附金などは、いずれも別表調整の対象となりやすい代表的な項目 |
| 販売費・一般管理費の損金算入には、期末までに支払義務や金額が確定しているという「債務確定基準」を満たす必要がある |
次回は、これらの中でもとくに税務調査で指摘されやすい項目を中心に、別表調整の実務を詳しく確認していきます。

