お知らせ NEWS
第2回 経営者のための消費税入門 ~課税事業者になるのはどんなとき?判定ルールと選択のパターン~
前回(第1回)は、消費税の基本的な仕組みと、不課税・非課税・免税という取引区分について解説しました。今回は、そもそも自社に消費税を納める義務があるのかどうかを判定する「納税義務判定」について確認していきます。
消費税には、一定規模以下の事業者の納税義務を免除する「事業者免税点制度」があります。自社が納税義務を負う「課税事業者」なのか、免除される「免税事業者」なのかは、いくつかの基準を順番に確認して判定します。起業したての方や、売上が1,000万円前後で推移している事業者の方はとくに重要な内容です。
ポイント① 原則は「2年前の売上高」で決まる——基準期間
消費税の納税義務は、まず「基準期間」の課税売上高で判定するのが原則です。基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば、その年(その事業年度)は原則として免税事業者となり、消費税の納税義務が免除されます。
| 基準期間とは | 個人事業主:その年の「前々年」/法人:その事業年度の「前々事業年度」 |
| 判定の基準 | 基準期間の課税売上高が1,000万円を超えているかどうか |
ポイントは、判定に使うのが「2年前」の売上高だということです。今期の売上がいくら大きくても、原則として2年前の実績で今期の納税義務が決まります。逆に言えば、当期に大きく売り上げても、その分の消費税を納めるのは原則として2年後の課税期間から、ということになります。
なお、判定に使う「課税売上高」は、第1回で解説した課税取引と免税取引(輸出)の売上の合計です。非課税売上や不課税の収入は含みません。
ポイント② 落とし穴になりやすい「特定期間」
基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、それだけで安心はできません。急成長している事業者を対象に、より直近の期間で判定し直す「特定期間」というルールがあるためです。
| 特定期間とは | 個人事業主:その年の「前年1月1日から6月30日まで」/法人:原則として「前事業年度開始の日以後6か月間」 |
この特定期間における「課税売上高」と「支払った給与等の額」の両方が1,000万円を超えた場合に、基準期間の売上が1,000万円以下であっても、その期から課税事業者となります。
ここで実務上重要なのが、この判定は課税売上高と給与等支払額のどちらの基準で行うかを、事業者が選べるという点です。たとえば特定期間の課税売上高が1,000万円を超えていても、支払った給与等の額が1,000万円以下であれば、給与等支払額のほうを基準に選ぶことで、免税事業者のままでいることができます。急成長したスタートアップでも、まだ人件費が少額であれば、この判定でカバーできる場合があるということです。
ポイント③ 新設法人には「2年間の免税」が使えないことも
新しく設立した法人には、そもそも「前々事業年度」が存在しないため、設立第1期・第2期は基準期間がなく、原則として免税事業者となります。しかし、これには重要な例外があり、次のいずれかに該当する場合は、設立当初から課税事業者となります。
| 新設法人(資本金1,000万円以上) | 事業年度開始の日の資本金または出資金の額が1,000万円以上の場合、設立第1期から課税事業者となる |
| 特定新規設立法人 | 資本金1,000万円未満でも、課税売上高が5億円を超えるような大規模な企業グループ(親会社など)に株式の50%超を保有されて設立された法人は、設立当初から課税事業者となる |
「新設法人は最初の2年間は消費税が免税」という説明を耳にすることがありますが、上記のように資本金や出資関係によっては当初から課税事業者となるため、設立時の資本金の額を決める際には、消費税の観点からの検討も欠かせません。
ポイント④ インボイス登録をすると、判定に関係なく課税事業者になる
ここまで見てきた基準期間・特定期間・新設法人の判定は、あくまで「事業者免税点制度」に基づくものです。しかし、これらの判定で免税事業者に該当する場合でも、あえて課税事業者を選ぶケースが、インボイス制度の開始以降は増えています。
インボイス(適格請求書)を発行するには、「適格請求書発行事業者」として登録する必要があり、登録すると、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても課税事業者となります。つまり、納税義務判定とは別のルートで、課税事業者になる道があるということです。
登録すべきかどうかは、自社の取引先の性質によって考え方が変わります。
| 主な取引先が事業者(BtoB)の場合 | 取引先は、自社が支払う消費税について仕入税額控除を受けるためにインボイスを必要とする。インボイスを発行できないと取引先の税負担が増えるため、取引の継続や価格交渉に影響することがあり、登録が求められやすい |
| 主な取引先が一般消費者(BtoC)の場合 | 消費者は仕入税額控除を行わないため、インボイスを必要としない。この場合、免税事業者のままでいるという選択肢も十分に検討できる |
インボイス登録には、次回(第3回)で解説する「2割特例」や経過措置も密接に関わってきます。免税事業者が登録すべきかどうかは、目先の取引だけでなく、こうした特例も踏まえて総合的に判断する必要があります。
ポイント⑤ 還付を受けるために「あえて課税事業者を選ぶ」
インボイス登録とは別に、免税事業者が「消費税課税事業者選択届出書」を提出して、自ら課税事業者になる方法もあります。免税事業者は納税義務がない代わりに、仕入れや経費で支払った消費税の還付を受けることもできません。そこで、あえて課税事業者になることで、還付を受けられるようにするという選択です。
具体的には、次のようなケースで検討されます。
| 多額の設備投資を予定している場合 | 店舗や事務所の取得、高額な機械の導入などで支払う消費税が、売上で預かる消費税を上回る場合、課税事業者を選ぶことで差額の還付を受けられる |
| 輸出売上が中心の場合 | 輸出は免税売上(消費税0%)のため預かる消費税が発生しない一方、国内での仕入れには消費税がかかる。課税事業者を選ぶことで、その仕入れ分の還付を受けられる |
ただし、この選択には注意点があります。「消費税課税事業者選択届出書」を提出すると、原則として2年間は免税事業者に戻ることができません。設備投資をした年は還付を受けられても、その翌年は通常どおり納税義務が生じるため、2年間トータルで有利になるかを見極める必要があります。また、この届出書には提出期限(原則として適用を受けたい課税期間の初日の前日まで)があり、これを過ぎると還付を受けたい年に間に合わなくなります。届出のタイミングは非常に重要で、この点は第5回で詳しく解説します。
まとめ
| 消費税の納税義務は、原則として「基準期間(2年前)」の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかで判定する |
| 基準期間が1,000万円以下でも、「特定期間」の課税売上高と給与等支払額の両方が1,000万円を超えると課税事業者になる(どちらの基準で判定するかは選べる) |
| 新設法人でも、資本金1,000万円以上の場合や、大規模な企業グループに支配されて設立された場合(特定新規設立法人)は、設立当初から課税事業者となる |
| インボイス(適格請求書発行事業者)に登録すると、上記の判定にかかわらず課税事業者となる。登録の要否は取引先がBtoBかBtoCかで考え方が変わる |
| 設備投資や輸出などで還付を受けたい場合は、「課税事業者選択届出書」を提出してあえて課税事業者になる方法もある(原則2年間は免税に戻れない点に注意) |
次回(第3回)は、2026年10月にひとつの節目を迎えるインボイス制度の経過措置と、免税事業者から課税事業者になった人向けの「2割特例」について、最新のスケジュールを踏まえて解説します。
※本記事は掲載時点の法令・税制に基づいて作成しています。その後の税制改正等により、記載内容が現状と異なる場合があります。個別の税務判断については、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。

