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第3回 経営者のための消費税入門 ~インボイス経過措置の縮小と「2割特例」終了への備え~

前回(第2回)では、消費税の納税義務判定と、インボイス登録や課税事業者選択によって自ら課税事業者になる方法を解説しました。今回は、そのインボイス制度に関わる2つの重要な経過措置——「免税事業者等からの仕入れに係る経過措置」と、免税事業者から課税事業者になった方向けの「2割特例」——について、令和8年度税制改正で変わった最新のスケジュールを踏まえて解説します。

これらの措置は、令和8年(2026年)10月に大きな節目を迎えました。免税事業者と取引している会社、インボイス制度を機に課税事業者になった方の双方に関わる内容ですので、現状を正確に押さえておきましょう。


ポイント① そもそもインボイスがないと仕入税額控除ができない

第1回で解説した通り、消費税の納税額は「預かった消費税」から「支払った消費税」を差し引いて計算します(仕入税額控除)。インボイス制度の下では、この仕入税額控除を受けるために、原則として取引の相手方が発行した「インボイス(適格請求書)」の保存が必要です。

インボイスを発行できるのは、税務署に登録した「適格請求書発行事業者」だけです。免税事業者や、登録していない事業者はインボイスを発行できません。そのため、これらの相手から仕入れた分については、本来は仕入税額控除ができず、その消費税相当額は自社が負担することになります。


ポイント② 【重要改正】免税事業者からの仕入れの控除割合が段階的に縮小

とはいえ、インボイス制度の開始によって免税事業者との取引が急に不利になると、経済への影響が大きくなります。そこで、免税事業者などインボイスを発行できない相手からの仕入れについても、当面は仕入税額相当額の一定割合を控除できる「経過措置」が設けられています。

この経過措置の控除割合は段階的に縮小していきますが、令和8年度税制改正により、当初の予定から引き下げ幅が緩和され、適用期間も延長されました。最新のスケジュールは次の通りです。

期間 控除できる割合
〜令和8年(2026年)9月30日 仕入税額相当額の80%
令和8年(2026年)10月1日〜令和10年9月30日 仕入税額相当額の70%
令和10年(2028年)10月1日〜令和12年9月30日 仕入税額相当額の50%
令和12年(2030年)10月1日〜令和13年9月30日 仕入税額相当額の30%
令和13年(2031年)10月1日〜 控除なし(0%)

ここで注意したいのは、令和8年10月1日から、控除割合が80%から70%に下がったという点です。当初の制度では、この時点で50%まで一気に引き下げられる予定でしたが、令和8年度税制改正によって「70%」に緩和され、あわせて経過措置全体の終了時期も令和11年9月から令和13年9月へと2年延長されました。

この経過措置で控除しきれなかった消費税は、原則として仕入れのコスト(原価)に含まれることになります。つまり、免税事業者からの仕入れや外注が多い会社ほど、控除割合が下がるにつれてコスト負担が増えていくことになります。とくに外注費の比率が高い建設業やサービス業では、将来のコスト増を早めに試算しておくことが大切です。

なお、控除割合は「いつの取引か」で判定します。商品なら引渡し日、サービスなら完了日が基準となり、発注日や支払日では判定しません。たとえば9月に発注し、10月に納品された商品は、70%控除の対象になります。


ポイント③ 【重要改正】「2割特例」は終了、個人事業者には「3割特例」へ

ここまでは、免税事業者から仕入れる「買い手側」の話でした。次に、インボイス登録によって免税事業者から課税事業者になった「売り手側」を支える「2割特例」について見ていきます。

「2割特例」は、インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった方が、消費税の納付税額を「売上で預かった消費税の2割」に抑えられる制度です。仕入や経費を細かく集計しなくても、売上さえ把握すれば納税額を計算できるため、多くの小規模事業者に活用されてきました。

この2割特例は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間をもって終了します。ここで、令和8年度税制改正により、個人と法人で取り扱いが分かれることになりました。

個人事業者 令和8年分(2026年分)の申告が2割特例の最後の適用。その後、令和9年分・令和10年分の2年間に限り、納付税額を「売上で預かった消費税の3割」とできる「3割特例」が新たに設けられた
法人 令和8年9月30日を含む課税期間で2割特例が終了。3割特例のような延長措置はなく、以降は原則課税または簡易課税で計算することになる

個人事業者向けの「3割特例」は、事前の届出は不要で、確定申告書にその適用を受ける旨を付記することで使えます。ただし、各年の基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円以下であることなどの要件があり、毎年、対象かどうかを確認する必要があります。

法人にはこの受け皿がないため、2割特例の終了後は、原則課税と簡易課税のどちらで計算するのが有利かを、あらためて検討する必要があります。この原則課税と簡易課税の選択については、次回(第4回)で詳しく解説します。


ポイント④ 2割特例・3割特例の後、簡易課税への移行がしやすくなった

2割特例や3割特例を使った事業者が、その適用が終わったあとに「簡易課税」へ移行しやすくするための措置が設けられています。令和8年度税制改正では、この措置の届出期限がさらに延長されました。

通常、簡易課税制度を選択するには、適用したい課税期間が始まる前までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。しかし、2割特例(または個人事業者の3割特例)の適用を受けた事業者については、以前から、その特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間中に届出書を提出すれば、その翌課税期間から簡易課税を適用できることとされています。これに加えて、令和8年度税制改正により、その翌課税期間が令和8年10月1日以後に終了する場合には、提出期限がその翌課税期間の確定申告期限まで延長されました。

これにより、特例の終了後に「原則課税と簡易課税のどちらが有利か」を、その期の決算数字を見てから判断できるようになりました。届出のタイミングが実質的に後ろ倒しになるため、シミュレーションの結果を踏まえて落ち着いて選択できます。


まとめ

インボイス制度では、原則としてインボイス(適格請求書)がないと仕入税額控除ができない
免税事業者からの仕入れに係る控除割合は、令和8年10月1日から80%→70%に縮小した(当初予定の50%から緩和され、終了時期も令和13年9月まで延長された)
免税事業者から課税事業者になった方向けの「2割特例」は令和8年9月末で終了。個人事業者には令和9年・10年分に「3割特例」が新設されたが、法人に延長措置はない
2割特例・3割特例の適用者は、特例終了後の翌課税期間中(一定の場合は確定申告期限まで)に届出をすれば簡易課税へ移行でき、有利判定をしてから選べる

次回(第4回)は、消費税の2つの計算方法である「原則課税」と「簡易課税」を比較し、2割特例が終わった後の事業者がどちらを選ぶべきか、その判断基準について解説します。

※本記事は掲載時点の法令・税制に基づいて作成しています。その後の税制改正等により、記載内容が現状と異なる場合があります。個別の税務判断については、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。