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第3回 節税と融資のジレンマ ~目先の節税が融資枠(借入余力)を奪う~
賢い節税テクニックをご紹介してきましたが、節税には経営者が陥りやすい「もう一つの大きな落とし穴」が存在します。それが「融資(資金調達)への悪影響」です。 目先の税金を減らすことに夢中になるあまり、いざ事業を拡大したい時や不測の事態で資金が必要になった時に「銀行からお金が借りられない」と頭を抱える経営者は少なくありません。今回は、節税と融資の間に潜むジレンマについて解説します。 ポイント① 銀行は決算書の「どこ」を見て融資額を決めるのか 銀行が「この会社にはいくらまでならお金を貸せるか」という上限額(借入余力)を判断する際、最も重視する指標のひとつが「簡易キャッシュフロー(税引後利益+減価償却費)」と、そこから導き出される「債務償還年数」です。 銀行は安全に融資を行う目安として、「借入金の残高が、年間で生み出すキャッシュフローの10倍以内(=10年で返済できる範囲内)」であることをひとつの基準としています。これを借入余力の計算式に直すと、以下のようになります。 借入余力 =(簡易キャッシュフロー × 10)- 現在の借入金残高 つまり、会社が「新たに借りられるお金の上限」は、利益の10倍から現在の借金を引いた額になるということです。 ポイント② 衝撃の事実——90万円の節税で、2,100万円の「新たな融資枠」が消える では、税金を減らすために利益を圧縮した場合、融資枠にどのような影響が出るのでしょうか。具体的な数字で検証してみましょう。 (※わかりやすくするため、実効税率を30%、減価償却費は考慮しないものとして計算します。また、すでに銀行から「3,000万円の借入」がある会社と想定します) 決算直前、あなたの会社に「1,000万円の税引前利益」が出そうだとします。 ケースA:節税せずそのまま申告 ケースB:300万円の経費で節税 税引前利益 1,000万円 700万円(1,000万円-経費300万円) 税金(30%) 300万円 210万円(★Aより90万円の節税) 税引後利益(簡易CF) 700万円 490万円 借入上限の目安(利益の10倍) 7,000万円 4,900万円 新たな借入余力(上限-既存借入3,000万円) 4,000万円 1,900万円 ケースBでは確かに税金を90万円減らすことに成功しました。しかし利益が減ったことにより、銀行から新たに借りられる枠(借入余力)は4,000万円から1,900万円へと大きく下がっています。「90万円の節税をした代償として、2,100万円分の新たな融資枠を失うリスクがある」ということを、ぜひ頭に入れておいてください。 ※なお、実際の借入余力は業種・減価償却費の額・担保や保証の有無などによっても変動するため、一概に「利益の10倍」とはなりません。上記はあくまで「節税が融資枠に与えるインパクト」を示すための概算です。 ポイント③ 税金を払って利益を出したほうが、資金繰りは圧倒的に安定する もちろん、実際の銀行の融資判断は決算書の数字だけで決まるわけではなく、事業の将来性なども総合的に判断されます。しかし「利益の額」が極めて大きなウエイトを占めているのは紛れもない事実です。 会社が持続的に成長するための「投資資金」や、不測の事態を乗り越えるための「防衛資金」は、銀行からの融資によって確保するのが一般的です。「税金を払いたくないから」という理由だけで無理な節税を行い利益を削り続けていると、いざという時に資金調達ができず会社の首を絞めることになります。 適正に利益を出し、堂々と税金を払い、銀行からの高い評価(多額の融資枠)を得て手元に潤沢な資金を持っておくこと——それこそが、どんな環境の変化にも負けない強い会社をつくる最大の秘訣です。 まとめ 「節税」と「融資(借入余力)」はトレードオフの関係にあります。過度な節税は、会社の成長エンジンである「資金調達力」を奪ってしまいます。決算対策を行う際は、目先の税額だけでなく「自社の借入余力にどう影響するか」までをシミュレーションする視点が不可欠です。 法人化のメリット・デメリット、目指すべきキャッシュリッチ企業の姿など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第2回 「お金が出ていかない」賢い節税の実践テクニック
節税の本来の目的は「手元に資金を残すこと」であり、保険加入や不要な備品購入といった「お金が出ていく節税」はかえって資金繰りを悪化させるリスクがあります。 では、無駄なお金を使わずに税金を減らし、手元に資金を残す方法はあるのでしょうか。今回は、法人の強みを活かした「お金が出ていかない賢い節税テクニック」の代表例と、「お金は一時的に出ていくが全額貯金として残る最強の例外」、そして「必要な設備投資の資金効率を最大化する手法」をご紹介します。 ポイント① 非課税で手当を受け取る「出張旅費規程」の活用 社長が自分自身にお金を払う場合、通常は「役員報酬(給料)」として支払いますが、給料には所得税・住民税・社会保険料がかかってしまいます。 そこで有効なのが「出張旅費規程」の活用です。出張旅費規程とは、会社のために出張をした際、交通費や宿泊費の実費とは別に「出張手当(日当)」を支給する社内ルールのことです。 この出張手当の最大の魅力は、「会社側では経費(損金)として計上でき利益を圧縮できる」と同時に、「受け取る個人側(社長)にとっては非課税となり、税金も社会保険料もかからずそのまま手元に残る」という点です。会社のお金を効率的に社長個人の手元に移すことができる、活用を検討する価値のある手法と言えます。ただし、後述の【重要】でお伝えする通り、導入に際しては必ず専門家にご相談ください。 ポイント② 役員報酬の最適化と「家族への所得分散」 日本の所得税は累進課税制度を採用しているため、個人の所得が高くなるほど適用される税率が上がります。そこで検討したいのが「家族への所得分散」です。 実際に会社の業務を手伝っている配偶者や親族がいる場合、社長1人に集中している役員報酬を、その業務実態に応じて家族に分散して支給します。こうすることで一人当たりの所得が下がり低い税率が適用されるため、世帯全体での税金・社会保険料の負担を抑え、手元に多くのお金を残すことができます。 ポイント③ 必要な投資の資金効率を上げる「少額減価償却資産の特例」 第1回で「税金を減らすための不要な備品購入はNG」とお伝えしましたが、本当に事業に必要な設備投資であれば話は別です。中小企業には、一定金額未満の資産(パソコン・ソフトウェア・工具など)を購入した場合、その全額をその年度の経費として即時に計上できる特例があります(年間合計300万円まで)。 通常、資産は耐用年数に応じて数年かけて減価償却しますが、この特例を使えば購入年度に一括で経費化でき、その分だけ利益を圧縮して税金を減らすことができます。「どうせ買うものを賢いタイミングで購入する」という、資金効率の高い節税手法です。 なお、令和8年度税制改正により、対象となる資産の取得価額の上限が「30万円未満」から「40万円未満」に引き上げられております(令和8年4月1日以後に取得する資産から適用)。近年の物価上昇や設備価格の高騰を踏まえた改正であり、対象となる資産の範囲が広がることで、中小企業にとってより使いやすい制度になります。購入を検討している設備がある場合は、計画的に導入することをお勧めします。 ポイント④ 全額経費になる最強の貯金「経営セーフティ共済」 第1回で「お金が出ていく節税は危険だ」とお伝えしましたが、一つだけ例外としておすすめできるものがあります。それが、国(中小機構)が運営する「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」です。 「貯蓄型の生命保険でも手元資金を作れるのでは?」と考える方もいるかもしれません。しかし保険は、解約のタイミングによって支払った保険料より戻ってくる金額が少なくなる「元本割れ」のリスクが伴います。また、解約返戻金を受け取った際には会社の益金(収益)として計上されるため、出口で役員退職金などの損金をぶつけない限り、結局その時点で税金がかかってしまいます。さらに2019年の税制改正以降、かつてのような節税効果は極めて限定的になっています。 一方で、経営セーフティ共済の最大の魅力は、掛金(月額最大20万円、年間240万円まで)を全額経費(損金)として計上できるにもかかわらず、40カ月以上掛け続ければ自己都合で解約しても掛金が100%全額戻ってくるという点です。元本割れのリスクなく、実質的な「全額経費になる貯金」として安全に資金をストックできます。決算月に1年分(最大240万円)を前払いすることも可能なため、突発的な利益が出た際の特効薬にもなります。 さらに、万が一取引先が倒産した際には、無担保・無保証人で掛金の10倍(最高8,000万円)まで借入ができるため、いざという時の資金繰りの防波堤としても機能します。 ポイント⑤ 経営セーフティ共済の解約と「役員退職金」の合わせ技 役員退職金は、適正な金額であれば全額を法人の損金(経費)に算入できるうえ、受け取る役員側にとっても「退職所得」として税負担が極めて軽くなる、法人節税の強力な手法のひとつです。 さらに効果を高めるのが、経営セーフティ共済の解約と組み合わせる手法です。共済を解約すると掛金が全額戻ってきますが、この解約返戻金は法人の「益金(収益)」として計上されます。そのまま申告すると大きな利益が発生し、多額の税金がかかってしまいます。 そこで、解約のタイミングを役員退職金の支給時期に合わせることで、解約返戻金(益金)と役員退職金(損金)が相殺され、大幅な節税効果が生まれます。長年積み立ててきた共済を「退職金の原資」として戦略的に活用できる、非常に合理的な手法です。 ただし、役員退職金は「不相当に高額」と税務署に判断された場合、超過部分が損金否認されるリスクがあります。適正額の計算(功績倍率法など)や支給時期の設計は、必ず事前に専門家へご相談ください。 ポイント⑥ 掛金が全額所得控除になる「小規模企業共済」 個人事業主や中小企業の経営者が加入できる退職金積立制度が「小規模企業共済」です。国(中小機構)が運営する公的な制度で、経営セーフティ共済と並ぶ「手元資金を残しながら節税できる」代表的な手法です。 掛金は月額1,000円〜70,000円の範囲で設定でき、年間最大84万円が全額所得控除の対象となります。法人の経費にはなりませんが、社長個人の所得税・住民税を直接減らす効果があります。 受け取り時は退職所得または公的年金等控除が適用されるため、将来の受取時の税負担も軽くなります。経営セーフティ共済と合わせて加入することで、法人・個人の両面から節税と老後の資金準備を同時に進められる点が最大の魅力です。 【重要】導入の際は、必ず専門家に相談を 今回ご紹介した「出張旅費規程」や「所得分散」は、手元に資金を残す効果的な手法ですが、自己判断での導入は非常に危険です。 これらは税務調査において厳しくチェックされやすいテーマです。社会通念上の常識を超えた手当の設定、出張の業務実態が証明できないケース、家族に業務の実態がないのに給与を支払うケースなどは、税務署から否認され重いペナルティを受ける可能性があります。また、役員退職金の「適正額の算定」や、少額減価償却資産の特例の「適用要件」なども、非常に専門的な判断が求められます。導入を検討される際は、必ず顧問税理士などの専門家に相談し、税務リスクをクリアした合法かつ安全な仕組みを設計してください。 まとめ 法人の仕組みや公的な共済制度を正しく使いこなせば、無駄なお金を使わずに会社と個人の手元資金を増やすことができます。ただし、どの手法も「正しい運用」があってこその節税です。当事務所でも、税務リスクをしっかり管理したうえで、資金を残すためのルール作りをサポートしております。 節税と融資の関係、法人化のメリットなど、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第1回 その節税、本当に正解?節税の本来の目的は「手元に資金を残すこと」
会社に利益が出ると、どうしても「税金を減らしたい」と考えがちです。しかし、誤った節税に走ると、かえって会社の首を絞めることになりかねません。 今回は、節税の本来の目的と、「お金が出ていく節税」の落とし穴について解説します。 ポイント① 利益が出ると税金を払いたくなくなる心理 事業が軌道に乗り、利益が出始めると、「こんなに税金を持っていかれるのか」と驚き、何とかして税金を減らしたいと考えるのは経営者として自然な感情です。 しかし、節税ばかりに気を取られると、会社の生存力を高め、成長を生み出すための「資金繰り(キャッシュフロー)」という、もっと重要な視点が抜け落ちてしまいます。ここで一度立ち止まって考えてみましょう。 ポイント② 節税の本来の目的は「手元に資金を残すこと」 節税の本来の目的は何でしょうか。それは税金を減らすこと自体ではなく、「手元に使える資金(キャッシュ)をできるだけ多く残すこと」です。 たとえば、1,000万円の利益が出たとします。そのまま申告すれば約300万円の税金がかかり、手元には700万円が残ります。この700万円は、次の事業拡大のための貴重な資金になります。 しかし、「300万円も税金を取られるくらいなら」と、不要な保険や車を1,000万円分購入して利益をゼロにしたらどうなるでしょうか。確かに税金はゼロになりますが、手元のお金もゼロになってしまいます。これでは、何のための節税かわかりません。 ポイント③ 「お金が出ていく節税」の落とし穴 世の中には、生命保険の加入や不要な車の購入など、さまざまな節税手法が溢れています。しかし、こうした「お金が出ていく節税」には十分な注意が必要です。具体的な数字で考えてみましょう。 たとえば、決算直前に1,000万円の利益が見込まれたとします。 税金を払う場合 約250万円(実効税率25%と仮定)の法人税等を払っても、手元には約750万円の現金が残ります。 保険等に加入する場合 1,000万円全額を損金にできる保険(※現在は極めて限定的)に加入すると税金はゼロになりますが、保険料として1,000万円が出ていくため、手元に残る現金はゼロです。 会社の経営を安定させ、不況や不測の事態を乗り越えるための最強の防具は「手元の現金」です。節税に気を取られて現金を枯渇させてしまえば、最悪の場合、利益は出ているのに支払いができず資金ショートを起こす「黒字倒産」の危機に直面してしまいます。 まとめ 「税金を払うくらいなら経費で使ってしまおう」という考え方は、会社から体力を奪います。節税ができても資金繰りが悪化してしまっては、まったく意味がありません。「税金を払ってでも手元に現金を残す」という視点を持つことが、強い会社を作る第一歩です。 お金が出ていかない賢い節税テクニック、節税と融資の関係など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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最終回 経営者のための実践・資金調達&銀行融資ガイド ~返済が苦しくなったら逃げるな——リスケ交渉と経営改善計画書の作り方~
全5回にわたりお届けしてきた「実践・資金調達&銀行融資ガイド」も、今回がいよいよ最終回です。これまでは「いかに融資を引き出し、事業を拡大していくか」という攻めの財務戦略をお伝えしてきました。 しかし経営において、どれだけ緻密な資金繰り表を作り、複数の金融機関と良好な関係を築いていても、予期せぬ外部環境の激変によって業績が悪化し、資金繰りが苦しくなることは起こり得ます。最終回は、会社の危機を乗り越えるための「資金繰りが悪化したときの対処法(リスケジュール)と早期相談の重要性」について解説します。 ポイント① 資金ショートの危機に陥ったときのNG行動3つ 売上が急減し、数か月先に「現金が底をつく」ことが予測されたとします。このピンチにおいて、経営者が陥りがちなNG行動があります。 NG① 高金利の借入に手を出す 銀行からの追加融資が断られると、焦りから審査の甘いノンバンク等の高金利な借入に手を出してしまうケースがあります。しかし一時しのぎに過ぎず、利息が雪だるま式に膨らみ、会社の寿命を縮めるだけです。 NG② 粉飾決算で取り繕う 赤字を黒字に見せかける「粉飾」に手を染めると、翌年以降も辻褄を合わせるためにさらに大きな嘘を重ねることになり、最終的には破綻という結末を迎えます。発覚すれば銀行からの信用は完全に失われます。 NG③ 銀行から逃げる(隠す) 銀行が最も嫌うのは、業績が悪化したことそのものよりも「経営状態が隠され、ブラックボックス化すること」です。手遅れになってから発覚するより、傷が浅いうちに真実を伝える方が、銀行ははるかに柔軟に対応してくれます。 資金繰りに窮したときに経営者がすべきことはただ一つ、「一刻も早く、メインバンクに現状をありのままに報告し、相談すること」です。 ポイント② 究極の資金繰り対策「リスケ(条件変更)」の効果 銀行へ早期相談に行き、何を求めるのか。それが「リスケジュール(略してリスケ:返済条件の変更)」です。リスケとは、毎月の約定返済額を一定期間(たとえば半年〜1年程度)大幅に減額してもらったり、元金返済をストップして「利息の支払いのみ」にしてもらう交渉のことです。 たとえば毎月100万円の元本を返済している企業が、リスケによって返済額を月0円(利息のみ)に減らすことができれば、毎月100万円の現金が会社に留保されることになります。これは実質的に「毎月100万円の新たな融資を受けた」のと同じキャッシュフローの改善効果をもたらし、倒産を防ぐ命綱となります。 ポイント③ 銀行がリスケに応じる条件「経営改善計画書」 銀行は「お金がないので返済を減らしてください」という口頭のお願いだけでリスケを認めてくれるわけではありません。担当者が社内で稟議を通すための明確な根拠が必要です。その根拠となるのが「経営改善計画書」です。リスケを申し込む際、経営者は以下の3つの要素を論理的にまとめた計画書を作成し、銀行に提出しなければなりません。 ① リスケに至った理由(真の要因分析) なぜ業績が悪化し資金が不足したのかを客観的に分析する ② 経営改善計画の具体的内容 経費削減・不採算部門の撤退・売上回復の施策など、具体的にどうやって利益を出していくのかを示す ③ 条件変更後の返済額と増額の予定 いつまでに業績が回復し、いつから通常の返済額に戻せるのか(正常化への道筋)を明記する この計画書が「実現可能で説得力のあるもの」であれば、銀行は「倒産させて全額回収できなくなるより、返済を猶予して企業を再生させたほうがよい」と判断し、リスケに応じてくれます。 ポイント④ 複数行取引における「残高プロラタの原則」 第2回の記事で「複数の金融機関と付き合うメリット」をお伝えしました。しかし有事のリスケ交渉においては、複数の銀行から借り入れていることがハードルになる場合があります。 リスケを行う際の重要な原則は、「すべての借入先金融機関に対して、同時に、公平な条件でリスケを要請すること」です。これを「残高プロラタ(借入残高の比率に応じた按分)」と呼びます。 たとえば「メインのA銀行にはリスケをお願いするが、付き合いの浅いB信用金庫には波風を立てたくないから満額返済を続ける」といった不公平な返済は、A銀行が認めません。「他行も同じ条件で痛みを分かち合う(足並みを揃える)」ことが、金融機関同士が協調してリスケ支援を行うための大前提となります。 残高プロラタの例 A銀行の借入残高3,000万円・B信用金庫の借入残高2,000万円の場合、リスケ後の返済額をA銀行60%・B信用金庫40%の比率で按分する まとめ——ピンチのときこそ専門家を頼る 起業し事業を拡大していく道のりは平坦ではありません。しかし業績悪化という嵐に見舞われたときでも、銀行の論理を知り適切なタイミングで「リスケ」というカードを切ることができれば、会社は生き延び再び成長軌道に戻ることができます。 資金繰りに窮し精神的にも追い詰められた状況で、単独で銀行を納得させる「経営改善計画書」を作成し、複数の銀行とプロラタ交渉を行うのは容易ではありません。そのような時こそ、財務・税務の専門家をパートナーとして活用することが、会社を守るための有効な選択肢となります。 全5回の連載をお読みいただき、誠にありがとうございました。 ※本記事は掲載時点の法令・税制に基づいて作成しています。その後の改正等により、記載内容が現状と異なる場合があります。個別の融資・税務判断については、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。 【参考文献】本連載の執筆にあたり、以下の書籍を参考にさせていただきました。 ・『税理士必携 顧問先の銀行融資支援スキル 実装ハンドブック』(諸留誕 著/日本法令) ・『中小企業の「銀行交渉と資金繰り」完全マニュアル』(安田順・池田聡 著/日本実業出版社) ・『増補改訂版 独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(田原広一 著/幻冬舎) ・『資金繰り表作成&活用マニュアル』(篠崎啓嗣・西川佳徳 著) ・『中小企業の補助金申請支援マニュアル』(小林勇治・宮崎一紀・浅野志郎・壽義英 著/同友館) ・『なぜ倒産 23社の破綻に学ぶ失敗の法則』(日経トップリーダー 著/日経BP) ・『なぜ倒産 令和・粉飾編 破綻18社に学ぶ失敗の法則』(日経トップリーダー 著/日経BP)
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第4回 経営者のための実践・資金調達&銀行融資ガイド ~融資額を最大化する「協調融資」の仕組みと補助金に頼ってはいけない3つの理由~
これまでの連載では、融資を引き出すための「資金繰り表の作り方」から、「複数行取引によるプロパー融資へのステップアップ」、そして「決算報告のベストタイミングと信用格付けの高め方」についてお伝えしてきました。 第4回となる今回は、事業拡大のスピードをさらに上げるために融資額を最大化する「協調融資というスキーム」と、多くの経営者が勘違いして資金ショートの危機に陥りやすい「補助金・助成金のリアルな落とし穴」について解説します。 ポイント① 「1行単独」の限界を突破する「協調融資」スキーム 事業が大きく成長するタイミングでは、数千万円から時には億単位の追加資金が必要になることがあります。しかしこれを1つの金融機関に「単独で全額貸してほしい」と申し込むのは、審査のハードルを自ら極端に上げてしまう行為です。銀行員からすれば、1行で巨額の貸倒れリスクを背負い込む稟議書は社内で非常に通しにくいからです。 そこで有効なのが、複数の金融機関がリスクを分担して同時に融資を行う「協調融資」です。代表的なのが「日本政策金融公庫(政府系)」と「民間金融機関(信用金庫や地方銀行など)」が足並みを揃えて融資を行うスキームです。 例)総額5,000万円の調達が必要な場合 日本政策金融公庫から2,500万円 + A信用金庫から2,500万円を同時に借り入れる ポイント② 銀行員が稟議を通しやすくなる「公庫のお墨付き」 なぜ協調融資にすると、1行単独では通りにくい高額な融資がスムーズに通るのでしょうか。それは銀行の担当者が上司を説得するための強力な根拠になるからです。 協調融資の提案を受けた信用金庫の担当者は、稟議書にこう書くことができます。「本件は政府系金融機関である日本政策金融公庫も事業の将来性を評価し、同額の融資を決定(検討)しています。当庫単独で全額リスクを負う案件ではなく、公庫とリスクを分散できるため、安全性が高い融資です」——金融機関は常に貸し倒れを恐れています。「公庫が審査を通した案件である」という事実と「他行とリスクを分け合える」という安心感は、銀行員にとって強力な後押しとなります。銀行の「リスクを嫌う心理」を逆手に取った、理にかなった交渉術と言えます。 ポイント③ 協調融資を成功させる「同時並行」と「情報開示」 協調融資を成功させる最大のポイントは、複数の金融機関に対して「同時並行」でアプローチし、全く同じ事業計画書と資金繰り表を提出して説明することです。 「まずは公庫に申し込んで、OKが出たら信金に行こう」という時間差のやり方では、金融機関同士が連携できず、協調融資の枠組みとして機能しません。融資相談の初期段階から「今回は総額○○万円の資金が必要なため、公庫さんと○○信金さんで半額ずつの協調融資をお願いしたいと考えています」と明言することが重要です。最初から金融機関同士の足並みを揃えさせ、隠し事のないガラス張りの計画を提示することが、高額な融資を引き出すための実践的なアプローチです。 ポイント④ 「補助金で資金繰り」が危険な理由——3つの落とし穴 融資とは別に、国や自治体が実施している「補助金・助成金」を活用したいと考える経営者の方も多いでしょう。確かに「返済不要」のお金は魅力的ですが、補助金ありきで事業計画を立てたり、当面の資金繰りのアテにしたりするのは資金ショートを引き起こしかねない危険な考え方です。経営者が知っておくべき3つの落とし穴があります。 落とし穴① 完全後払い(精算払い)の仕組み 補助金は先にお金がもらえる仕組みではありません。先に自社でお金を払って設備投資等を行い、事業が完了して実績報告を終えた後から、その費用の一部が補填される仕組みです。補助金をもらうためには、まず「全額を自己資金、あるいは銀行からの『つなぎ融資』で立て替える」必要があります。もし補助金を見込んで投資をしたのに銀行からつなぎ融資が下りなければ、資金ショートのリスクが生じます。 落とし穴② 採択される保証はどこにもない 要件を満たせばもらいやすい助成金とは異なり、高額な補助金には厳しい「審査」があります。近年の大型補助金(事業再構築補助金やものづくり補助金など)では半数以上の企業が不採択になるケースもあります。「補助金が受かる前提」で進めているプロジェクトは、不採択になった際に経営に深刻な影響を与えかねません。 落とし穴③ 審査から入金まで膨大な時間がかかる 申請から審査・採択・事業の実施・完了報告・実際の入金まで、半年から長ければ1年以上の期間がかかります。目の前の資金繰りには間に合わないことがほとんどです。 補助金の位置づけ 採択されたらラッキーな「プラスアルファの資金」として考える 資金調達の主軸 まず銀行融資(協調融資)をベースに確実な資金繰り計画を固める 補助金を検討する際の注意点 資金ショートを防ぐための「つなぎ融資」の確保とセットで検討する まとめ 事業を大きく成長させるための資金調達は、補助金という不確実な手段に依存するのではなく、まずは「銀行融資(特に協調融資)」をベースに確実な資金繰り計画を固めることが重要です。補助金は「もし採択されたらプラスアルファ」という位置づけで検討し、つなぎ融資の確保とセットで考えることをお勧めします。協調融資を引き出すための事業計画書や資金繰り表の作成に不安がある場合は、財務・税務の専門家をパートナーとして活用することも有効な選択肢です。 資金繰りが悪化したときの対処法・リスケジュール(返済条件変更)の交渉術・早期相談の重要性など、実践的な銀行融資のノウハウについて、今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第3回 経営者のための実践・資金調達&銀行融資ガイド ~融資は「決算申告直後」が黄金タイミング——銀行の信用格付けを上げる決算報告の鉄則~
これまでの連載では、銀行員が稟議書を書きやすくなる「資金繰り表の作り方・見せ方」と、「複数行取引によるプロパー融資へのステップアップ」についてお伝えしてきました。第3回となる今回は、融資を極めて有利に進めるための「融資を申し込むベストなタイミング」と、銀行の内部評価(信用格付け)を引き上げる「決算報告の鉄則」について、金融機関側の論理を交えながら解説します。 ポイント① 融資のベストタイミングは「お金が不要なとき」 多くの経営者がやってしまう失敗は、「手元のお金が減ってきて支払いが厳しくなりそうだから銀行に借りに行こう」と事後相談に走ることです。しかし銀行がお金を貸す側の論理は全く逆です。銀行が最もお金を貸したいのは、「業績が好調で手元資金も潤沢にあり、すぐにはお金を必要としていない会社」です。 預金者から預かった大切なお金を貸し出す金融機関として、赤字の補填や資金ショート寸前の「後ろ向きな資金需要」に対しては極めて厳しい態度をとります。融資を申し込む最もよいタイミングは「十分な利益が出ていて、資金に余裕がある(晴れている)とき」であることを押さえておいてください。 ポイント② 稟議が最も通りやすい「決算申告直後」という黄金タイミング 一年の中で最も融資の稟議が通りやすい時期があります。それが「決算申告が終わった直後」です。 銀行が企業の返済能力を審査する際、最も信頼する公的なデータが「税務署に提出した決算書(と税務申告書)」です。黒字でしっかりと税金を納めている最新の決算書を持参すれば、銀行員は自信を持って稟議書を書くことができます。さらに決算後には「法人税等の納税」や「賞与の支払い」といった明確な資金需要が発生します。「納税資金」や「賞与資金」として融資を申し込むのは銀行にとっても資金の使い道が妥当で分かりやすいため、事業拡大に向けた手元資金を厚くする絶好のチャンスとなります。 ポイント③ 「決算報告」が銀行の信用格付けを左右する 黒字の決算書ができあがった際、「税理士から銀行に郵送しておいて」と済ませてしまう経営者がいますが、これはもったいない行為です。必ず社長自らが銀行に足を運び、「決算報告」を行ってください。 現在、多くの銀行では決算書の数字をシステムに入力し、自動的に会社の「財務格付け」を算出しています。しかし、銀行の評価は数字だけで決まるわけではありません。社長自らが銀行に出向き、「なぜ今期は利益が出たのか」「来期はどうやって売上を作っていくのか」を論理的に語ることで、システムでは測れない「経営者の資質」や「経営管理体制」といった「定性評価」がプラスに加点され、最終的な信用格付けが引き上げられます。格付けが上がれば、融資枠の拡大や金利の優遇に直結します。 財務格付け(定量評価) 決算書の数字をシステムが自動算出。簡易CF・債務償還年数・自己資本比率などが主な指標 定性評価 経営者の資質・経営管理体制・業界環境・取引先の安定性など。社長が直接説明することで加点される 最終格付け 定量+定性の総合評価。格付けが高いほど融資枠の拡大・金利優遇につながる ポイント④ 「赤字決算」のときこそ逃げずに報告する では、業績が悪化し「赤字の決算」になってしまった場合はどうすればよいでしょうか。「銀行に行きづらいから、聞かれるまで黙っておこう…」と逃げるのは最悪の対応です。銀行が最も嫌うのは、業績が悪いこと以上に「経営状況が隠され、ブラックボックス化すること」だからです。 赤字のときこそ、決算確定後すぐに社長が銀行へ赴き、以下の2点を堂々と説明してください。 ① なぜ赤字になったのか 一時的な要因(設備投資・特別損失など)なのか、構造的な問題なのかを明確に説明する ② 来期どうやって黒字化するのか 具体的な数値目標と改善計画を示す 逃げずに誠実に自社の状況を報告し、改善策を語れる経営者に対して、銀行は「この社長は信頼に足る人物だ」と評価を高めます。いざという時の支援(リスケジュールなどの返済猶予)にも柔軟に応じてもらいやすくなります。 ポイント⑤ 「定期的な試算表の提出」でガラス張りの経営をアピール 決算報告が終わった後も、銀行との強固な関係を維持するために重要なのが「定期的な試算表(月次決算書)の提出」です。決算書はあくまで「過去1年間の結果」に過ぎません。毎月あるいは四半期ごとに最新の試算表や資金繰り表を自ら進んで提出し、「ガラス張りの経営」をアピールし続けることで、銀行の担当者はあなたの会社を「安心して融資できる優良顧客」として扱いやすくなります。 格付けという観点からも、定期的な情報提供は「経営管理体制が整っている」という定性評価のプラス要因として機能します。提出を続けることで、いざ追加融資が必要になった際に「また試算表を出してもらえますか?」と言われる前に、担当者がすでに状況を把握しているという理想的な関係が生まれます。 まとめ 融資は「お金がなくなってから」お願いするのではなく、「黒字のとき」「決算直後」に申し込むことが重要です。そして赤字のときであっても逃げずに社長自ら決算報告を行い、定期的に試算表を提出することで、銀行との間に強固な信頼関係(高い信用格付け)を築き上げましょう。決算報告の場に財務の専門家が同席することで、数字の根拠や今後の資金繰りについて客観的な補足説明が加わり、銀行からの評価がさらに高まる場合があります。 融資額を最大化する協調融資の仕組み・補助金・助成金との正しい付き合い方・資金繰りが悪化したときの対処法など、実践的な銀行融資のノウハウについて、今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第2回 経営者のための実践・資金調達&銀行融資ガイド ~「1行依存」が会社を危うくする——複数の金融機関と付き合い、プロパー融資を引き出す戦略~
前回は、銀行の担当者が稟議書を書きやすくなる「資金繰り表の作り方・見せ方」について解説しました。今回は、創業期を乗り越え事業をさらに拡大していく「創業2年目以降」の経営者が知っておくべき融資戦略、「複数の金融機関と付き合うことの重要性」についてお話しします。 ポイント① 致命的リスク「1行依存」の恐ろしさ 創業時に日本政策金融公庫や地元の銀行1行から融資を受け、そのまま1つの金融機関とだけ付き合い続けている経営者は少なくありません。しかし、事業拡大期において資金繰りを1行に依存するのは危険な状態です。 会社の命運がその1行に握られてしまうため、支店長が代わって融資方針が厳しくなったり、業績が少し悪化しただけで突然資金調達の道が絶たれてしまうリスクがあります。また、1行に依存していると金利などの融資条件の交渉においても銀行間で競争原理が働かないため、銀行側の言い値を受け入れるしかなくなります。複数の金融機関と日常的に付き合い、借入先を分散させておくことが、不測の事態に備えた「盤石な財務基盤」をつくるためのリスクヘッジになります。 ポイント② 金融機関の「特徴」を理解し、自社に合ったパートナーを選ぶ 複数の金融機関を開拓するためには、それぞれの特性を理解した上で自社の規模に合った相手を選ぶことが重要です。 メガバンク 主に大企業・中堅企業をターゲットとしており、大ロットでの融資を行う傾向があります。創業間もない小規模な企業が単独で融資を引き出すにはハードルが高いのが現実です。 地方銀行 地元の県内を中心に展開し、中堅・中小企業を主な取引先としています。一定の業績や実績が求められます。 信用金庫・信用組合 地域に密着した協同組織であり、中小企業を支援するという文化・思想を持っています。小規模な企業にも小ロットの融資を行い、関係が良好なら親身に相談に乗ってくれる心強いパートナーです。 創業2年目以降の企業が新たに取引を開拓すべきは、自社の実態に寄り添ってくれる「信用金庫・信用組合」や「地方銀行」です。 ポイント③ 「保証協会付融資」から「プロパー融資」へのステップアップ 新たに民間金融機関から融資を受ける場合、最初は「信用保証協会」が保証をつける「保証協会付融資」からスタートするのが一般的です。これは万が一企業が返済できなくなった場合に保証協会が肩代わりしてくれるため、銀行側がリスクを負わずに融資できる仕組みです。 しかし、保証協会の無担保保証枠には「原則8,000万円」という上限があります。そのため、事業をさらに拡大し続けるには、保証協会を介さず銀行が自らのリスクで直接お金を貸し出す「プロパー融資」を引き出せるようになる必要があります。保証協会付融資を通じてしっかりと返済実績を積み上げ、地域金融機関からの信用を獲得していくことが、プロパー融資へとつながる重要なステップです。 ステップ1 日本政策金融公庫の創業融資で返済実績を作る ステップ2 信用金庫・地方銀行で保証協会付融資を受け、返済実績を積む ステップ3 返済実績と財務内容の改善をもとに、プロパー融資へ移行する ポイント④ 複数行取引が「稟議の突破力」を生む 複数の銀行と付き合うことは、第1回で解説した銀行員の「稟議書」を書くプロセスにおいても有効に機能します。 追加融資をお願いする際、「実はA信用金庫さんも当社の業績を評価してくれて、前向きに検討してくれていまして…」と担当者に伝えてみてください。銀行員は「優良な融資先を他行に取られるわけにはいかない」と考えます。この健全な競争原理が働くことで、担当者は上司に対して「他行に取られる前に、当行で全額融資すべきです」と、稟議を通すための強力な根拠を手に入れることができるのです。 ポイント⑤ 信用金庫との関係を深める「口座活用術」 信用金庫との信頼関係を効率的に築くための実践的なアプローチをご紹介します。日本政策金融公庫などからまとまった融資を受ける際、その振込先(着金口座)を信用金庫で新たに開設した法人口座にするという方法です。 これにより、信用金庫の担当者は自行の口座で以下の「優良な実績」を間近で確認できるようになります。 ① 資金の安定性 まとまった余裕資金が着金し、残高が安定して推移している ② 返済の確実性 公庫への返済が毎月遅れなく行われている ③ 売上の実績 事業の売上が定期的に入金されている この実績の積み重ねが、将来その信用金庫からプロパー融資を引き出す際の強力な根拠となります。単に「融資をお願いする相手」としてではなく、「自社の財務状況をリアルタイムで見てもらえるパートナー」として信用金庫と関係を築くことが、長期的な資金調達力の向上につながります。 まとめ 事業を拡大し盤石な財務基盤をつくるためには、1行依存から脱却し、地方銀行や信用金庫など「複数の金融機関」とパイプを築くことが重要です。保証協会付融資で実績を作り、最終的にはプロパー融資を引き出せる関係性を目指しましょう。どの金融機関にアプローチすべきか迷われた際は、財務・税務の専門家に相談することも有効な選択肢のひとつです。 銀行の信用を勝ち取る決算報告のタイミング・融資申請のベストタイミング・協調融資の活用法など、実践的な銀行融資のノウハウについて、今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第1回 経営者のための実践・資金調達&銀行融資ガイド ~「1行依存」が会社を危うくする——複数の金融機関と付き合い、プロパー融資を引き出す戦略~
前シリーズ「起業・会社設立ガイド」では、資金繰り表の重要性や月商の3〜6か月分の現預金確保について解説しました。今回からの新シリーズでは、そこからさらに一歩踏み込み、「銀行側の論理を理解した上で、どう交渉し、どう融資を引き出すか」という実践的なノウハウをお届けします。 第1回となる今回は、融資交渉の土台となる「資金繰り表」について、作り方・銀行への見せ方・説明の仕方まで具体的に解説します。 ポイント① 銀行員が稟議書に書く「3つの数字」を理解する 融資交渉を有利に進めるためには、まず銀行員が社内でどのように融資を通すかを理解する必要があります。担当者は支店長などの上司を説得するための「稟議書」を書きますが、その中で必ず確認される数字が主に3つあります。 ① 簡易キャッシュフロー 税引後利益+減価償却費。銀行が「年間でいくら返済できるか」を判断する最重要指標。無駄遣い節税で利益を圧縮するとここが小さくなり、融資が通りにくくなります。 ② 借入金残高÷簡易CF(債務償還年数) 現在の借入金をすべて返済するのに何年かかるかを示す指標。一般的に10年以内が目安とされます。 ③ 自己資本比率 総資産に占める純資産の割合。高いほど財務の健全性が高いと評価されます。 この3つの数字が良好であれば、担当者は自信を持って稟議書を書けます。逆に言えば、融資交渉の前にこの3つの数字を把握し、改善できるものは改善しておくことが重要です。 ポイント② 銀行に提出する資金繰り表の「必須フォーマット」 資金繰り表とは「未来のお金の出入りを月次で管理する表」です。決算書が「過去の結果」を示すのに対し、資金繰り表は「これから何が起きるか」を示します。ここで重要なのが、「ただ入出金を書く」のではなく、銀行員が読みやすいように3つの収支に分けて記載することです。 【経常収支(本業の収支)】 売上入金 -(仕入支払+人件費+家賃+税金などの諸経費) 【設備収支(投資の収支)】 設備売却などによる収入 - 設備購入による支出 【財務収支(借入と返済)】 新規借入金 - 借入金返済(元金) ここで仕入や家賃などの経費と「借入金返済」を同じ項目に混ぜてはいけません。本業の儲けを示す「経常収支」と、借入・返済を示す「財務収支」を明確に分けることで、銀行員は「この会社は本業のキャッシュでしっかり返済できているか」を一目で判断できるようになります。収支を混在させてしまうと、銀行員がわざわざ計算し直さなければならず、稟議書が書きにくくなってしまいます。 また、特に重要なのが「売掛金の回収サイト(入金までの日数)」と「買掛金の支払サイト」を正確に反映させることです。たとえば「売上は翌月末入金、仕入は当月末払い」というビジネスモデルであれば、売上が伸びるほど支払いが入金を先行する構造になります。この実態を正確に表に落とし込むことで、銀行員は「この社長は資金の流れを正確に把握している」と評価します。 ポイント③ 銀行員が「見たい数字」を前面に出す見せ方 資金繰り表を作成したら、次は「どう見せるか」が重要です。銀行員が稟議書を書く際に確認したいのは主に以下の3点です。これらが一目でわかるように表を整理することがポイントです。 資金ショートの有無 月末残高が一度もマイナスにならないことを示す。もしマイナスになる月があれば、その月の前に融資を受けることで解消できることを説明する 返済原資の裏付け 「経常収支(本業の収支)」のプラスの範囲内で「財務収支(借入の返済)」が十分に賄えている状態を示す。本業で稼いだキャッシュで返済できていることが一目でわかるように整理する 最低残高の水準 最も資金が少なくなる月でも、月商の1か月分以上の現預金が確保されていることを示す 銀行員は膨大な数の稟議書を処理しています。「探さなくてもわかる」資料を作ることが、担当者の負担を減らし、融資をスムーズに通す近道です。 ポイント④ 「増加運転資金」の融資申請は数字で説明する 事業拡大期に必要となる「増加運転資金(売上増加に伴って必要になる追加の運転資金)」の融資申請は、資金繰り表なしでは説明が困難です。銀行員が納得する説明の組み立て方は以下の通りです。 ① 現状の確認 現在の月商・売掛金残高・買掛金残高・在庫残高を示す ② 拡大後の予測 6か月後・1年後の月商予測と、それに伴って増加する売掛金・買掛金・在庫の金額を試算する ③ 必要資金の算出 ②-①の差額が「増加運転資金」として必要な融資額となることを示す ④ 返済計画 売上が予測通り伸びた場合の簡易キャッシュフローをもとに、無理のない返済スケジュールを提示する この流れで説明できれば、銀行員は「なぜいくら必要なのか」を論理的に理解でき、稟議書に落とし込みやすくなります。 まとめ 融資交渉において資金繰り表は「提出すれば良い」ものではなく、「銀行員が稟議書を書きやすいように設計された説得ツール」として機能させることが重要です。銀行側が何を確認したいのかを理解した上で、必要な数字を正確かつわかりやすく示すことが、融資をスムーズに引き出す実践的なアプローチです。 複数の金融機関との付き合い方・銀行の信用を勝ち取る決算報告のタイミング・協調融資の活用法など、実践的な銀行融資のノウハウについて、今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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最終回 経営者のための起業・会社設立ガイド ~会社が潰れる理由は「借金」ではなく「現金不足」——起業1年目の資金管理チェックリスト~
これまで全5回にわたり、個人事業主と法人の違いから、会社設立の手順・設立後の税務手続き・創業融資の活用法・赤字を活かした税務戦略まで、起業家が知っておくべき「お金と経営のリアル」を解説してきました。 本シリーズの最終回となる今回は、起業という船出を果たした経営者に待ち受ける「厳しい現実」と、会社を生き残らせるための「お金の管理の基本(チェックリスト)」をお伝えします。 ポイント① 最新データが示す「休廃業・解散7万件」の過酷なリアル 起業して会社を設立することは、あくまでスタートラインに過ぎません。国が発表している最新の統計データを見ると、スモールビジネスのリアルな実態が浮かび上がってきます。 最新の『2025年版 中小企業白書』によると、企業活動が停止する「休廃業・解散」の件数は近年減少傾向にあったものの、2023年に増加に転じ、2024年には「約7万件(69,019件)」にまで急増しています。そしてこの休廃業・解散に追い込まれた企業の「9割超」を一貫して小規模事業者が占めているという厳しい事実があります。起業直後の会社は、常にこの「9割」の枠に入るリスクと隣り合わせなのです。 ポイント② 「黒字廃業」の時代は終わり、「赤字廃業」が過半数へ さらに注目すべきは、企業が市場から退場していく「理由」の変化です。過去には「利益は出ているが、経営者が高齢化し後継者がいないから会社を畳む」というケースが多く見られました。しかし現在、その状況は一変しています。 最新データによれば、小規模事業者においては「赤字」の状態で休廃業・解散に至る割合が2023年に半数を超え、2024年も「赤字での退場」が過半数(50.4%)を占める事態となっています。物価や原材料費の高騰・人手不足による人件費の上昇など、経営環境が激変する中、スモールビジネスが市場から退場する最大の要因は「利益が出ず、資金(キャッシュ)が尽きてしまうこと」へとシフトしています。 会社が倒産・廃業する理由は「借金があるから」ではありません。「手元の現金がショートして、支払いができなくなるから」です。だからこそ、起業直後から徹底した資金繰りの管理が必要です。 ポイント③ 資金ショートを防ぐ「お金の管理」3つの基本 不本意な赤字廃業を防ぐためには、日々の売上を追うのと同じくらい「資金(キャッシュ)の管理」が重要です。 「どんぶり勘定」を捨て、資金繰り表を作る 会社にお金が残らない大きな原因は、「売上代金の回収(入金)」よりも「仕入や経費の支払い」が先行してしまうタイミングのズレにあります。会計上の利益が出ていても手元の現金が不足して「黒字倒産」してしまうのはこのためです。過去の結果である試算表を見るだけでなく、未来のお金の出入りを管理する「資金繰り表」の作成が重要です。 「半年先の現金残高」を予測し、安全水準をキープする 常に資金繰り表をアップデートし、数か月先の手元資金を予測します。会社を安全に存続させるための現預金の目安は、最低でも「月商の1か月分」、できれば「月商の3か月分〜6か月分」の確保が望ましいとされています。数か月先に資金がショートする予測が出た場合は、資金に余裕がある時点で早めに金融機関に相談することが重要です。 「税金を払うくらいなら…」の無駄遣い節税をしない 第5回でも触れましたが、不要な高級車を買うなどの「無駄遣い節税」は手元の現金を大きく減らすだけでなく、銀行からの信用(返済能力の評価)を落とし、いざという時の追加融資が受けにくくなる原因になります。 ポイント④ 起業1年目を生き残る経営管理チェックリスト 起業1年目、社長が毎月必ずチェックすべき実践的な管理項目をまとめました。資金ショートの危機は、これらの基本を怠ったところから始まります。現状、いくつクリアできているか確認してみてください。 【請求・回収】 請求書の発行と入金確認を毎月必ず行っているか(回収漏れや遅れはないか) 【支払管理】 翌月・翌々月の大きな支払い(税金・社会保険料・年払いのシステム料など)の金額と時期を把握しているか 【消費税の積み立て】 消費税の免税期間が終了した後に備え、売上に含まれる消費税相当額を毎月別口座に積み立てているか 【公私混同の排除】 個人の生活費と会社の事業資金が明確に分離されているか(社長自身が役員報酬の範囲内で生活できているか) 【残高予測】 常に半年先の「月末の現金残高」を予測し、月商の数か月分の余力を保てているか 【残高の振り返り】 毎月末に「通帳の預金残高」を確認し、先月からの増減額と「なぜ増えたのか/減ったのか」の理由を説明できるか 【借入金管理】 銀行からの借入がある場合、借入ごとの返済予定表を作成し、日々の資金繰り表と連動させて管理しているか 【月次目標との対比】 売上・粗利・経費について月次の目標値を設定し、実績との差異(差額)を毎月確認・分析しているか 【記帳と試算表】 日々の取引(売上・仕入・経費など)を正しく帳簿に記帳し、定期的に試算表をチェックしているか 【経費の妥当性】 経費として支払ったものについて、「なぜこの費用が会社の事業に必要なのか」を税務署や銀行に対して論理的に説明できるか 【保険の確認】 業務上のリスクに備えた賠償責任保険など、事業に必要な保険に加入しているか 【コスト削減】 無駄な経費を削減するため、電子契約やクラウド会計など、ITを活用した業務効率化を図っているか 【専門家との定期面談】 顧問税理士など専門家と定期的に面談し、試算表をもとに資金繰りや税務の状況を確認しているか おわりに——税理士を「財務のパートナー」に 全6回にわたりお届けしてきた「起業・会社設立ガイド」、いかがでしたでしょうか。会社を立ち上げること自体は、手続きさえ踏めば誰にでもできます。しかし、その会社を生存させ成長させていくためには、情熱やアイディアだけでなく「冷徹な数字(財務・税務)の管理」が欠かせません。 社長の最も重要な仕事は、自社のサービスを磨き売上を作ることです。慣れない資金繰り表の作成や期限厳守の複雑な税務手続きに追われて本業がおろそかになっては、本末転倒です。だからこそ、起業のスタートラインから税理士を単なる「過去の領収書を計算する人」ではなく、「自社の未来のキャッシュを守る財務のパートナー」として活用することをお勧めします。 ※本記事は掲載時点の法令・税制に基づいて作成しています。その後の税制改正等により、記載内容が現状と異なる場合があります。個別の税務判断については、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。 【参考文献】本連載の執筆にあたり、以下の書籍・資料を参考にさせていただきました。 ・『中小企業白書 2025年版』(中小企業庁/日経印刷株式会社) ・『なぜ倒産 23社の破綻に学ぶ失敗の法則』(日経トップリーダー編集部 著/株式会社日経BP) ・『なぜ倒産 令和・粉飾編 破綻18社に学ぶ失敗の法則』(日経トップリーダー 著/株式会社日経BP) ・『成功に導く!創業支援マニュアル 改訂版』(森隆夫 著/ビジネス教育出版社) ・『改訂新版 融資を引き出す創業計画書 つくり方・活かし方』(エッサム 著・西内孝文 監修/株式会社あさ出版) ・『増補改訂版 独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(田原広一 著/株式会社幻冬舎メディアコンサルティング) ・『中小企業の「銀行交渉と資金繰り」完全マニュアル』(安田順・池田聡 著/日本実業出版社) ・『税理士必携 顧問先の銀行融資支援スキル 実装ハンドブック』(諸留誕 著/日本法令) ・『資金繰り表作成&活用マニュアル』(篠崎啓嗣・西川佳徳 著) ・『〈図解〉「ひとり社長」の賢い節税 元国税が教えるお金の残し方』(杉田健吾 著/明日香出版社)
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第5回 経営者のための起業・会社設立ガイド ~創業期の赤字を「節税チケット」に変える——青色申告と黒字化後の税務戦略~
創業直後は、売上が伸びるよりも先に家賃・設備費・人件費などのコストが先行し、業績が「赤字の谷」に落ち込むのが一般的です。通帳の残高が減っていくのを見て、不安な夜を過ごす起業家も少なくありません。 しかし、税務の世界においては「創業期の赤字=悪」と悲観する必要はありません。法人の税務ルールを正しく理解し活用すれば、この創業期の赤字を、将来会社が黒字になったときに使える「節税チケット」としてストックしておくことができるのです。今回は、起業家が知っておくべき「赤字の賢い使い方」から、陥りがちな「無駄遣い節税の罠」、そして黒字化後に会社のお金を守るための税務戦略まで解説します。 ポイント① 「青色申告の繰越欠損金」の絶大な威力 法人を設立して事業を行う大きなメリットのひとつが、「青色申告による赤字(欠損金)の繰越控除」です。個人の青色申告でも赤字を翌年以降に繰り越すことはできますが、その期間は「3年間」に限定されています。一方、法人の青色申告であれば、赤字を「最長10年間」繰り越すことができます。 具体的な数字で見てみましょう。創業からの3年間、多額の先行投資を行った結果、毎年赤字が続き「合計1,000万円の赤字」を積み上げたとします。しかし4年目以降、ついに事業が軌道に乗り「年間1,000万円の黒字(利益)」を出しました。 青色申告なしの場合 黒字1,000万円に対して法人税等(約30%)=約300万円の納税が発生 青色申告ありの場合 過去の赤字1,000万円と黒字1,000万円を相殺→法人税を大幅に減らすことが可能 第3回の記事で「青色申告の承認申請書の期限を1日でも過ぎると大損する」とお伝えしたのは、まさにこの「10年間使える節税チケット」を失ってしまうからです。 ポイント② 「無駄遣い節税」の罠と融資への悪影響 事業が軌道に乗り、過去の赤字も使い切って本格的に利益が出始めると、多くの経営者が「税金を払いたくない」という思いに駆られます。ここで注意すべきなのが、「税金で持っていかれるくらいなら高級車を買おう」といった、不必要な支出を伴う節税です。 「100万円を節税するために300万円の無駄な経費を使う」ということは、税金が減る以上に手元のキャッシュを大きく減らす行為です。さらに、融資への悪影響も見逃せません。金融機関が融資を審査する際の返済能力(簡易キャッシュフロー)は「税引後利益 + 減価償却費」で計算されます。無駄な経費を使って利益を圧縮してしまうと、この簡易キャッシュフローが小さくなり、将来の事業拡大に必要な追加融資が受けにくくなってしまいます。 「法人税は、自社の信用力を高め、銀行から融資を引き出して事業を拡大するための『必要経費』である」というマインドチェンジが、長期的な経営においては重要です。 ポイント③ 黒字化が見えたら「課税の繰り延べ」で資金を守る 無駄遣いをせずに手元のキャッシュを守るための有効な戦略が、お金をストックしながら経費にできる「課税の繰り延べ」です。 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)の活用 取引先の倒産に備えるための国の共済制度ですが、支払った掛け金(最大月20万円・年間240万円まで)を全額「経費」として計上できるという節税効果があります。40か月以上掛け続ければ、解約した際に掛け金が100%戻ってきます。実質的に「会社に貯金をしながら利益を圧縮(節税)できる」という有効な手段です。 設備投資時の「特別償却」 事業拡大のために機械や設備を購入した際、要件を満たして「特別償却」という制度を使えば、初年度に通常の減価償却費に加えて多額の金額を「より早く、より多く」経費に算入することができます。設備投資を行った年度の目先の税負担を小さくして資金繰りを安定させることができます。 ポイント④ 「決算月の変更」という戦略 法人のみが使える節税・資金繰り対策として「決算月の変更」があります。個人事業主の決算月は「12月」と法律で決まっていますが、法人の場合はいつでも自由に決算月を設定・変更できます。 たとえば、毎年特定の月に大きな売上が立つビジネスの場合、その月を決算月に設定してしまうと、予想外の利益が出ても節税対策を打つ余裕がなくなります。そこで「一番売上が大きい月を、事業年度の『期首(最初の月)』になるように決算月を変更する」という方法があります。これにより、大きな利益が出たとしても決算まで最長11か月の猶予ができ、人材採用や設備投資など事業成長のための計画的な投資をじっくりと行うことができます。 ポイント⑤ 「役員報酬」の最適化と小規模企業共済 社長個人の税金も加味したトータルの税負担を減らす戦略もあります。個人事業主は事業の利益すべてに高い累進課税がかかりますが、法人の場合は利益を「会社に残す利益」と「社長個人の給与(役員報酬)」に分散できます。役員報酬には「給与所得控除」という非課税枠があるため、法人税と所得税のバランスを見て最適な報酬額を設定することで、トータルの税率を下げることができます。 あわせて、社長個人として「小規模企業共済」への加入も検討する価値があります。毎月最大7万円(年間84万円)を積み立てることができ、積み立てた全額が社長個人の所得から控除されるため、個人の所得税・住民税を抑えながら将来の資金を形成できる経営者向けの制度です。 まとめ 創業期の赤字を10年間のチケットとして使い、黒字化後は「無駄遣い」を避けて銀行の信用を確保しつつ、「課税の繰り延べ」や「決算月の変更」で賢くキャッシュを守る——これらはすべて、会社に最大限の資金を残すための「戦略」です。税理士を単なる「過去の領収書を計算する人」ではなく、「未来のキャッシュを守る財務のパートナー」として活用することをお勧めします。 起業1年目の経営管理の基本・会社を生き残らせるためのお金の管理・廃業を防ぐためのチェックリストなど、起業・会社設立に関する実践的なテーマについて、今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第4回 経営者のための起業・会社設立ガイド ~融資を受ける最大のチャンスは「創業前・創業直後」——創業融資の活用法と審査をクリアする3つのポイント~
会社設立の手続きが完了し、いよいよ事業がスタート。そこで多くの起業家が直面する最大の壁が「資金繰り」です。今回は、起業家が知っておくべき「お金の集め方」の基本と、金融機関から最も融資を引き出しやすい「最大のチャンスは創業前・創業直後にある」という逆説的な事実について解説します。 ポイント① 致命的な誤解「困ってから借りればいい」 起業家の多くは、「まずは自己資金だけで小さく始めて、売上が上がって軌道に乗ってから銀行にお金を借りよう」と考えがちです。しかし、この「困ってから借りればいい」という考え方こそが、会社を倒産危機に追い込む要因になり得ます。 事業をスタートすると、売上が入金されるよりも先に、仕入代金・家賃・人件費などの支払いが次々と発生します。創業直後は売上の伸びに対してコストが先行し、「赤字の谷」に落ち込むのが一般的です。手元の資金が底をつきそうになってから慌てて銀行に駆け込む起業家は少なくありませんが、「売上が上がらない赤字の会社」「手元にお金がない会社」という実績ができてしまうと、金融機関から融資を受けるハードルは極めて高くなります。資金調達においては、「雨が降る前に、晴れのうちに傘を借りる」という考え方が重要です。 ポイント② 逆転の発想——融資の最大のチャンスは「創業前・創業直後」 一方で、「創業前(または創業直後)」は事情が全く異なります。この時点ではまだ事業の「過去の業績(決算書)」がないため、過去の数字に縛られることがありません。融資担当者は、「創業計画書の妥当性」と経営者の「経験値」「自己資金」というポジティブな要素で審査をしてくれます。 厳しい業績の足かせがない創業時こそが、有利な条件でまとまった資金を調達できるチャンスと言えます。創業融資で得た余裕資金は、事業が軌道に乗るまでの「時間を買う」ための命綱になります。 ポイント③ 創業融資の2大主要先——「日本政策金融公庫」と「制度融資」 実績のない起業家はどこからお金を借りればよいのでしょうか。メガバンクなどの大手都市銀行は、基本的には創業間もない小規模な会社を相手にしてくれません。起業家が頼るべき主な選択肢は以下の2つです。 日本政策金融公庫の創業融資 政府が100%出資する公的な金融機関で、小規模事業者や起業家の支援を主要な目的としています。代表的な「新規開業・スタートアップ支援資金」は、原則として「無担保・無保証人(社長個人の連帯保証が不要)」で利用できるという、起業家にとってリスクの低い制度です(※旧「新創業融資制度」は2024年3月末に廃止され、現制度に統合されています)。 地方自治体の「制度融資」 都道府県や市区町村といった自治体と、信用保証協会、指定金融機関の三者が協調して行う公的な融資制度です。自治体によっては支払う利息や保証料の一部を補助してくれる手厚い制度を設けている場合もあり、実質的に低い負担で資金調達が可能です。 ポイント④ 審査をクリアするカギは「自己資金×経験値×事業計画書」 公的な創業融資を引き出すためには、審査をクリアする必要があります。審査において金融機関が重視する主なポイントは以下の通りです。 自己資金の準備(見せ金・タンス預金はNG) 自己資金は「事業に対する本気度」と「計画性」の証明です。融資額の目安としては、創業資金総額の10分の1以上の自己資金が要件とされますが、実務上は3分の1程度あると審査に有利です。ここで注意すべきなのが「見せ金」です。審査の直前に知人から一時的に借りて口座に入れても、通帳の不自然な入金履歴からすぐに見破られ、致命的なマイナス評価となります。また、銀行に預けずに手元に置いている「タンス預金」も、出所が証明できないため自己資金としては認められません。毎月コツコツと自身の口座に貯蓄してきた通帳の記録こそが、最大の信用となります。 経営者の経験とノウハウ これから始める事業について、過去にどれだけの経験やノウハウを積んできたかが問われます。その業界の経験が全くない場合は説得力が低下するため、最低でも半年〜1年程度の実務経験を積んでおくことが望ましいとされています。 「客観的根拠」のある事業計画書 「誰に、何を、どのように売り、どれだけの利益を出すのか」を紙に落とし込んだものが創業計画書です。融資担当者が最も注視するのは「売上予測の根拠」です。単なる希望的観測ではなく、客観的なデータや自身の経験に基づいた納得感のある数字の組み立てが求められます。 ポイント⑤ 公庫の融資は「信用金庫」の口座に着金させる 最後に、専門家ならではの実践的なポイントをお伝えします。日本政策金融公庫から融資を受けることに成功した場合、そのお金を振り込んでもらう先の口座をどこにするかが重要です。 公庫からの借入金は、地域密着型の「信用金庫」や「信用組合」で新たに法人口座を開設し、そこに着金させることをお勧めします。信用金庫等は小規模な企業を大切にしてくれます。そこに公庫からのまとまった融資額が着金し、事業の売上が入金され、公庫への返済が毎月確実に行われているという「優良な実績」を、信用金庫の担当者に間近で見てもらうのです。この実績を積んでおくことで、創業から数年後に事業拡大のための追加資金が必要になった際、その信用金庫からスムーズに融資を引き出しやすくなるという、将来に向けた布石になります。 まとめ 資金が枯渇して手遅れになる前に、実績という足かせが少ない「創業前・創業直後」のチャンスを活かして創業融資を検討することをお勧めします。ご自身での申請に不安がある場合は、税理士などの財務・税務の専門家をパートナーとして活用することで、より有利な条件での資金調達につながる場合があります。 黒字化までの税務戦略・赤字の繰越と青色申告の活用法・起業1年目の経営管理など、起業・会社設立に関する実践的なテーマについて、今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第3回 経営者のための起業・会社設立ガイド ~「青色申告の申請書」を出し忘れると何が起きるか——設立直後の必須手続きを解説~
法務局での設立登記が完了し、待ちに待った「登記事項証明書(登記簿謄本)」を手にした瞬間、多くの起業家が「これで無事に会社が設立できた」とホッと胸を撫で下ろします。しかし、経営者としての真の戦いはまさにここから始まります。会社を設立した直後には、税務署・都道府県税事務所・年金事務所・労働基準監督署などに対して、山のような届出を「期限内」に行わなければなりません。 今回は、単なる手続きマニュアルではなく、これらの届出がいかに会社の財務に直結しているかについてお話しします。役所への届出は、「提出期限を1日でも過ぎると、取り返しのつかない損失を生む」という非常に恐ろしい性質を持っています。 ポイント① 期限を数日過ぎただけで数百万円の損?ある起業家の失敗例 税務手続きの恐ろしさを知っていただくために、ある起業家のリアルな失敗例をご紹介しましょう。 A社長は念願の株式会社を設立し、初年度から事業拡大に奔走していました。店舗の改装や備品の購入・広告宣伝費など多額の先行投資を行った結果、設立1期目の決算は「500万円の赤字」となりました。しかし2期目、A社長の頑張りが実を結び「500万円の黒字」を出しました。 A社長はこう考えていました。「1期目の赤字が500万円で、2期目の黒字が500万円だから、相殺して利益はトントン(ゼロ)だ。今期の税金は最低限で済むだろう」 ところが、決算申告の際に突きつけられた現実は過酷なものでした。過去の赤字との相殺は認められず、2期目の黒字500万円に対して約150万円もの法人税等を丸々支払うことになってしまったのです。 原因はたった一つ。会社設立直後に提出すべき「青色申告の承認申請書」の提出期限を過ぎてしまっていたからです。 ポイント② なぜ「知らなかった」では済まされないのか 法人の場合、「青色申告」の承認を受けていれば、その事業年度に出た赤字(欠損金)を翌期以降、最長「10年間」繰り越すことができます。A社長も青色申告さえしていれば、1期目の赤字を2期目の黒字にぶつけて税金を大幅に減らすことができたはずでした。 しかし、この「青色申告の承認申請書」には厳格な期限が設けられています。設立初年度から青色申告の適用を受けるためには、原則として「設立の日から3か月を経過した日と第1期事業年度終了の日のいずれか早い日の前日まで」に税務署へ提出しなければなりません。A社長は設立直後のバタバタでこの手続きを後回しにしてしまい、提出が期限から「たった数日」遅れてしまっていました。 税務署のルールは絶対です。「忙しかったから」「知らなかったから」という言い訳は一切通用しません。たった1日でも提出が遅れれば、その事業年度は問答無用で「白色申告」扱いとなり、赤字の繰越などの節税メリットをすべて失ってしまいます。 ポイント③ 消費税と源泉税の手続きも「資金繰り」に直結する 青色申告以外にも、期限厳守の重要な届出があります。 消費税課税事業者選択届出書 設立初年度は原則として消費税の納税義務が免除されますが、免税事業者のままだと「消費税の還付」を受けることができません。創業期に多額の設備投資を行った場合、この届出書を提出してあえて「課税事業者」を選択することで、支払った消費税の還付を受けられるケースがあります。設立初年度の場合は「その事業年度の末日(決算日)」が提出期限となりますが、決算間際になって慌てないよう、設立時の他の届出と一緒に提出しておくことをお勧めします。期限を1日でも過ぎると適用が認められず、数百万円単位の消費税を取り戻すチャンスを逃してしまいます。 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 給料から天引きした源泉所得税は、原則として「翌月10日」までに毎月納付しなければなりません。しかし、給与の支給人員が常時10人未満の小規模事業者の場合、この申請書を提出すれば、毎月の納付を「年2回(7月10日と1月20日)」にまとめることができます。毎月の事務負担が軽くなるだけでなく、手元の現金を長くとどめておけるため、資金繰りの面でも創業期には有効な制度です。 ポイント④ 「社長1人でも加入義務」社会保険の手続きも待ったなし 税務だけでなく、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の手続きも非常に重要です。「うちはまだ社長1人だから社会保険は入らなくていいだろう」と考える起業家が多くいますが、株式会社や合同会社などの法人は、たとえ社長1人のみであっても社会保険の加入が法律で義務付けられています。 手続きを先延ばしにして未加入のまま放置していると、年金事務所等の調査が入った際、「最大2年間遡って保険料を徴収される」だけでなく、悪質な場合は10%の追徴金まで課される重いペナルティが存在します。創業期に過去2年分の社会保険料を一括請求されれば、資金繰りに深刻な影響を与えかねません。加入手続きは「設立から5日以内」と非常にタイトなため、早急な対応が求められます。 ポイント⑤ 設立直後にやるべき届出と提出期限 税務署や役所は「この書類を出したほうが得ですよ」と親切に教えてはくれません。経営者自身が期限を管理し、自らアクションを起こす必要があります。 提出先 主な届出書類 提出期限の目安 税務署 法人設立届出書 設立から2か月以内 税務署 青色申告の承認申請書 設立の日から3か月を経過した日と第1期事業年度終了の日のいずれか早い日の前日まで(※最優先) 税務署 給与支払事務所等の開設届出書 開設から1か月以内 税務署 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 随時(早めの提出を推奨) 都道府県・市区町村 事業開始等申告書(法人設立届出書) 自治体により期限が異なるため、設立後速やかに確認・提出すること 年金事務所 新規適用届・被保険者資格取得届 設立から5日以内 労働基準監督署・ハローワーク 労働保険関係成立届・雇用保険適用事業所設置届 従業員雇用後、速やかに まとめ 会社設立後の手続きは、単なる「お役所への事務作業」ではありません。青色申告の期限遅れが数百万円の損失を生んだように、「会社のキャッシュを守るための最初の防衛線」です。設立直後の起業家は、営業活動やサービス開発など「売上を作る仕事」に全力を注ぐべきであり、期限厳守の複雑な書類作成に追われていては本業に支障をきたしてしまいます。創業の段階から税務や労務の専門家を財務のパートナーとして活用することが、手続き漏れによるリスクを防ぐための有効な選択肢のひとつです。 創業融資の活用法・赤字の使い方と青色申告の戦略・起業1年目の経営管理など、起業・会社設立に関する具体的な手続きについて、今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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