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最終回 経営者のための会計入門 ~3つの会計を一体で活かす——自社の弱点がわかる会計チェックリスト~
全6回にわたり、財務会計・管理会計・戦略会計の役割と実践について解説してきました。最後に、これらの会計が実際の経営でどのように一体となって機能するのかを整理し、自社の現状を振り返るためのチェックリストをご用意しました。 ポイント① 3つの会計を「一体」で回す経営の仕組み 財務会計・管理会計・戦略会計は、それぞれが独立したものではなく、相互に連動して機能します。 財務会計 過去の実績を正確に記録し、外部への説明責任を果たす 管理会計 財務会計のデータを加工・活用し、現在の資金とKPIを管理する 戦略会計 管理会計の分析をベースに、中長期の投資・撤退を決断する 月次決算で現状を素早く把握し(財務)、資金と行動をコントロールし(管理)、中長期の投資と撤退を決断する(戦略)——この3つを一体で回す仕組みを作ることこそが、経営者の本来の役割であり、アカウンタビリティ(説明責任)を果たすということです。 ポイント② 自社の「会計力」チェックリスト 貴社では、以下の項目のうちいくつ当てはまるでしょうか? 決算は税理士任せで、年1回、税金を払う時にしか数字を見ていない → 過去を記録する「財務会計」の基本活用が不足 月次決算は出ているが、翌月末になってから数字の報告を受けている → 軌道修正の要である「財務会計のスピード」が不足 PLは黒字だが、いつも口座の現金残高にヒヤヒヤしている → 未来の現金を予測する「管理会計(資金繰り)」が不足 売上目標はあるが、それを達成するための具体的な行動指標(KPI)がない → 業績をコントロールする「管理会計(業績管理・BSC)」が不足 新規事業・設備投資の採算や不採算事業の撤退基準を、明確な数字で評価できていない → 中長期の未来を決断する「戦略会計」が不足 チェックがついた項目は、自社の経営管理における「伸びしろ」です。 ポイント③ 未来を共に創るパートナーとしての税理士 会計は、過去の税金を計算するためだけの面倒な作業ではありません。月次決算・資金繰り・KPI管理・戦略的投資判断——これらを一体で回す仕組みを持つことで、会社はどんな環境の変化にも動じない強さを身につけることができます。 私たち税理士事務所は、単なる「過去の数字の集計係」ではありません。経営者がこれらの仕組みを構築し、未来に向けた経営判断を下すためのサポートを行う「経営のパートナー」でありたいと考えています。自社の会計管理に課題を感じられた方、さらに一段上の経営を目指したい方は、ぜひ一度、当事務所へご相談ください。 ※本記事は掲載時点の法令・会計基準に基づいて作成しています。その後の改正等により、記載内容が現状と異なる場合があります。個別の会計・税務判断については、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。 【参考文献】本連載の執筆にあたり、以下の書籍を参考にさせていただきました。 ・『[決定版]ほんとうにわかる管理会計&戦略会計』(高田直芳 著/PHP研究所) ・『世界のプロが学ぶ会計の教科書』(吉成英紀 著/日本経済新聞出版) ・『この1冊ですべてわかる 会計の基本』(岩谷誠治 著/日本実業出版社) ・『この1冊ですべてわかる 管理会計の基本』(千賀秀信 著/日本実業出版社) ・『管理会計 第七版』(櫻井通晴 著/同文舘出版) ・『財務会計講義 第25版』(桜井久勝 著/中央経済社)
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第5回 経営者のための会計入門 ~戦略会計の実践——未来の「投資」と「撤退」を決断する~
これまでの管理会計が「1年以内」の業績管理だとすれば、「戦略会計」は数年〜10年先を見据え、企業の基本構造を左右する「未来の意思決定」のための会計です。会計の中でも一歩踏み込んだテーマですが、中長期の経営判断を誤らないために、ぜひ押さえておいてください。 ポイント① 「時間価値」の概念を取り入れる——投資の判断 戦略会計の最大の特徴は、会計に「時間」の概念を持ち込むことです。たとえば、新しい機械を1,000万円で導入すべきか否かを判断する場面を考えてみましょう。 会計の世界では「今の100万円」と「数年後の100万円」は価値が異なります。なぜなら、今の100万円を事業に投資すれば運用益を生み出せるからです。そのため、将来得られると予測されるキャッシュフローをそのまま足し合わせるのではなく、金利や期待利回り(資本コスト)を考慮して「現在の価値(割引現在価値:DCF法)」に引き直して計算しなければなりません。 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いた合計額から初期投資額を差し引いたものを「正味現在価値(NPV)」と呼びます。このNPVがプラスであれば投資を実行し、マイナスであれば見送るという厳密な採算判定を行うのが戦略会計です。 ポイント② 最も苦渋を伴う「撤退の判断」 投資以上に難しく、かつ重要なのが「事業からの撤退・縮小の判断」です。赤字事業を「長年の愛着があるから」「いつか回復するはずだ」と漫然と続けることは、企業全体のキャッシュを奪い続けます。 戦略会計では、売上高から変動費(材料費・外注費など売上に比例して増減する費用)を引いた「限界利益」に着目します。この限界利益がマイナスに転じた地点を「事業閉鎖点」と呼びます。限界利益がマイナスということは、商品を作れば作るほど赤字が増える状態であり、直ちに事業を中止しなければなりません。 感情を切り離し、数字の裏付けを持って投資と撤退を決断するのが戦略会計の役割です。 ポイント③ 管理会計と戦略会計の「スケールの違い」を意識する 管理会計と戦略会計の最大の違いは、扱う時間軸とスケールです。 管理会計 戦略会計 時間軸 1年以内(短期) 3〜10年先(中長期) 主なテーマ 予算管理・資金繰り・KPI管理 設備投資・新規事業・事業撤退・M&A 特徴 日常的な経営管理 時間価値・現在価値の概念を活用 両者を使い分けることで、日々の経営管理と中長期の意思決定の両方をカバーできます。 まとめ 戦略会計は、感覚や経験則だけに頼らず、数字の裏付けを持って中長期の経営判断を下すためのツールです。NPVによる投資判断と、限界利益・事業閉鎖点による撤退判断の2つを押さえるだけで、戦略会計の基本は十分に実践できます。 3つの会計を一体で活かす方法・自社の会計力チェックリストなど、引き続き今後の記事で取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第4回 経営者のための会計入門 ~管理会計の実践②——「4つの視点」で業績を上げるKPI管理~
資金(キャッシュ)の安全が確保できたら、次は業績を伸ばすための管理会計です。今回は、売上や利益といった「結果の数字」だけを追う経営から脱却し、業績を持続的にコントロールするための「KPI管理」について解説します。 ポイント① 「結果の数字」だけを追う経営の落とし穴 売上や利益といった財務の数字は、あくまで過去の行動の「結果(遅行指標)」に過ぎません。結果の数字だけを目標に掲げて現場に圧力をかけると、短期的な売上を作るために過度な値引きに走ったり、目先の利益を出すために社員の教育訓練費や設備のメンテナンス費を削ったりと、長期的には組織が疲弊しサービスの質が低下してしまいます。 業績を持続的にコントロールするためには、結果の数字を見るだけでなく、その結果を生み出すための「行動指標(KPI:重要業績評価指標=先行指標)」を設定し管理することが必要です。 ポイント② 「バランスト・スコアカード(BSC)」の4つの視点 財務指標だけでなく先行指標を含めて複合的に業績を管理する優れたフレームワークが「バランスト・スコアカード(BSC)」です。業績を以下の「4つの視点」からバランスよく評価します。 ① 学習と成長の視点 従業員のスキルアップ・ITの活用・モチベーション向上を図る ② 内部プロセスの視点 業務効率・サービスの品質・納期の短縮などを改善する ③ 顧客の視点 業務改善により顧客の満足度やリピート率を高める ④ 財務の視点 その結果として売上・利益・キャッシュフローが向上する 「従業員が成長する(学習と成長)→業務が改善される(内部プロセス)→顧客が満足する(顧客)→利益が出る(財務)」という因果関係のストーリーを描くことが重要です。 ポイント③ 中小企業でのBSC活用——シンプルに始めることが大切 BSCは大企業向けの難しいフレームワークに見えるかもしれませんが、中小企業では「各視点に1〜2個のKPIを設定する」だけでも十分な効果があります。 たとえば、「新規顧客の訪問件数(学習と成長)」「クレーム件数(内部プロセス)」「リピート率(顧客)」「営業利益率(財務)」というシンプルな4指標を毎月追うだけで、結果の数字だけを見ていた経営から大きく前進できます。それぞれの段階で具体的な数値目標を設定し、社員の行動を未来の成果へと導くことこそが、強い組織を作る管理会計の極意です。 まとめ 業績を持続的に伸ばすためには、財務指標(遅行指標)と行動指標(先行指標)をセットで管理する習慣が不可欠です。BSCの4つの視点を意識しながら、自社に合ったシンプルなKPIから始めてみてください。 戦略会計の実践・3つの会計の総括など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第3回 経営者のための会計入門 ~管理会計の実践①——「黒字倒産」を防ぐ資金繰り表の読み方~
「売上も順調に伸びているし、利益もしっかり出ている。それなのになぜ現金がないのか?」——これは多くの中小企業経営者が抱える悩みです。今回は、管理会計の実践第一弾として、企業の血液とも言える「資金繰り(キャッシュフロー)」の管理について解説します。 ポイント① 利益とキャッシュはなぜズレるのか 会計上の「利益」と手元の「キャッシュ(現金)」の動きは一致しません。財務会計の損益計算書(PL)は「発生主義」というルールに基づいて計算されます。たとえば、商品を引き渡した時点で「売上(利益)」が計上されますが、実際の代金が銀行に振り込まれるのは数ヶ月先ということがよくあります。 このタイムラグの間に、仕入代金・外注費・人件費などの支払いが先行して到来すれば、帳簿上は黒字でも手元の資金がショートし、最悪の場合は「黒字倒産」に陥ります。極端に言えば、利益は会計ルールの見積もりが混ざった「意見」に過ぎませんが、キャッシュの増減は誰が計算しても同じ「絶対的な事実」なのです。 ポイント② 減価償却費という「非資金費用」の存在 利益とキャッシュのズレを生むもうひとつの大きな要因が「減価償却費」です。設備投資をした際、支払った現金は過去に出ていっているにもかかわらず、会計上は数年に分けて費用(減価償却費)として計上されます。 つまり、減価償却費は「PL上の利益を減らすが、実際には現金の流出を伴わない費用(非資金費用)」です。こうした会計特有のズレを理解しなければ、手元の資金を正しく把握することはできません。 ポイント③ 資金繰り表でキャッシュの動きを可視化する 黒字倒産を防ぐための最重要ツールが「資金繰り表」です。これは過去のPLの分析ではなく、「来月・再来月・半年後に、現金がいくら入ってきて、いくら出ていくのか」を月別に予測し管理するための表です。 月次決算の数字をもとに資金繰り表を毎月更新することで、資金ショートの危険を数ヶ月前に察知し、余裕を持って対策を打つことが可能になります。企業の存続を支える命綱は、利益ではなくキャッシュです。 まとめ PLの黒字に安心せず、「キャッシュの動きを別途管理する習慣」を持つことが、黒字倒産を防ぐ最大の防衛策です。資金繰り表は財務会計のデータを活用して作成できるため、特別な準備は必要ありません。まずは3ヶ月先までのキャッシュの動きを予測することから始めてみてください。 KPI管理・戦略会計の実践など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第2回 経営者のための会計入門 ~財務会計を経営に活かす——月次決算の着地点は「スピード」~
年1回の決算書を税務申告のためだけに使っている経営者は少なくありません。しかし、会計が経営の羅針盤であるならば、それを1年に1回しか見ないというのは、目隠しをして航海しているのと同じです。1年分の数字をまとめて見て「今年は赤字だった」「資金が足りない」と気づいても、軌道修正できるタイミングを逃してしまうリスクがあります。 今回は、財務会計のデータを経営に活かすための第一歩として、「月次決算」の目的と実践について解説します。 ポイント① 月次決算の本当の目的は「異常値の早期発見」 月次決算の最大の目的は、単に毎月の数字を正しく集計することではありません。真の目的は、「実績と計画のズレ(異常値)を早期に発見し、次の一手を打つこと」にあります。 経営はPDCA(計画・実行・評価・改善)のサイクルを回すことですが、月次決算はその「C(評価)」の要となります。月次で数字を確認することで、問題が小さいうちに手を打てる体制が整います。 ポイント② 月次決算の着地点は「正確性よりスピード」 月次決算において重要なのは、「正確性よりもスピード」です。1円単位の正確さを求めて翌月末まで数字が出ないよりも、多少の見積もりを含んででも「翌月の10日」には大まかな業績を把握し、異常値があればすぐに対策を打てる状態にすることの方がはるかに重要です。 経営の異常値を早期に発見し次の一手を打つためには、多少の正確性を犠牲にしてでも早く数字を締める習慣が必要なのです。 ポイント③ 「どんぶり勘定」からの脱却——部門別・製品別の可視化 スピーディーな月次決算であっても、全社の原価を売上高の比率などで大雑把に割り振るような「どんぶり勘定」では意味が半減します。会社全体の利益はわかっても、「どの製品・どの部門が儲かっているのか、あるいは足を引っ張っているのか」という実態がブラックボックス化してしまうからです。 部門別・製品別の実態を迅速に可視化し、異常値を特定できる月次決算があって初めて、資金繰り管理や業績管理といった管理会計の歯車が回り始めます。 まとめ 月次決算は「毎月数字を集計する作業」ではなく、経営のPDCAを回すための「評価」の仕組みです。スピードと部門別の可視化を意識した月次決算を習慣化することで、会社の現状把握と意思決定のスピードが格段に上がります。 資金繰り表の読み方・KPI管理・戦略会計の実践など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第1回 経営者のための会計入門 ~財務会計・管理会計・戦略会計、3つの違いとは?~
自社の会計や決算を「税理士に申告を任せているだけ」になっていませんか?「数字は苦手だから」「専門家に任せておけば安心だから」と考える方も多いかもしれません。しかし、事業計画を立て、会社を成長させたいと考える経営者にとって、「会計リテラシー」を身につけることは、自社の経営をコントロールするための強力な武器となります。 今回から始まる新連載では、経営に役立つ会計を「財務会計」「管理会計」「戦略会計」の3つに分け、それぞれの役割と実践的な活用法を解説していきます。まずは3つの会計の決定的な違いを整理しましょう。 ポイント① なぜ経営者が会計を知る必要があるのか——「アカウンタビリティ」の真意 そもそも、なぜ会計が必要なのでしょうか。会計の重要な目的のひとつに「アカウンタビリティ(説明責任)」があります。これは単に「聞かれたら報告すればいい」という受動的なものではありません。 ビジネスの世界において、他人の資本(お金)を預かって事業を行う以上、「損失を被る可能性がある投資家や債権者に対して、自らの仕事ぶりを説明し、合理的に納得させて安心させる」という能動的な責任が生じます。会計は、経営者がこの責任を果たすための「世界の共通言語」なのです。つまり、会社において重要な仕事を「任される人」であり続けるためには、会計を学ぶことが不可欠です。 ポイント② ルールに従い過去を記録する「財務会計(制度会計)」 財務会計は、株主・銀行・税務署などの外部の利害関係者に向けて、過去の業績を示す決算書を作成するための会計です。会社法や税法などの厳格な法制度に従うため「制度会計」とも呼ばれます。なお、税金を正しく計算するための「税務会計」もこの制度会計の一部に位置づけられます。 ただし、画一的なルールに従うがゆえの限界もあります。制度会計の数字だけを見ていても、経営の真の姿や資金繰りのリスクを見誤る可能性があります。だからこそ、経営の実態を映し出す管理会計の視点が不可欠なのです。 ポイント③ 自由にルールを作り、現在と未来を管理する「管理会計」 管理会計は、企業内部で活用するための会計です。外部へ見せるものではないため、法的な縛りはなく、経営の実態に合わせて自由にカスタマイズして使えるのが最大の強みです。 管理会計は独自に別の帳簿をつけるわけではなく、財務会計で蓄積されたデータをベースに、経営判断に役立つ形に加工・再集計して活用します。たとえば、財務会計では「売上高1,000万円」という数字しかわかりませんが、管理会計では同じデータを使って商品別・部門別・エリア別に分解して分析することができます。 財務会計が「現在の正確な位置(座標)」を示す羅針盤だとすれば、管理会計は「これから船をどちらへ進めるか」を決めるための未来志向のツールと言えます。 ポイント④ 時間概念を取り入れ、中長期の未来を見据える「戦略会計」 管理会計をさらに中長期的な視点へと発展させたのが「戦略会計」です。管理会計が主に1年以内の業績管理(予算管理や日常的なコスト管理)を扱うのに対し、戦略会計は3〜10年先を見据え、設備投資・新規事業参入・事業撤退・M&Aといった企業の基本構造を左右する意思決定をサポートします。 ここでは「時間(将来の現金の価値)」の概念を取り入れることが最大の特徴です。何年も先のキャッシュフローを現在価値に割り引いて考えることで、投資の採算を厳密に判定します。 まとめ 財務会計はルールに従って過去を記録し外部へ説明責任を果たすもの。管理会計や戦略会計は、未来の意思決定のために経営者が自由にカスタマイズして使う「経営の武器」です。 月次決算の活用法・資金繰り表の読み方・KPIを使った業績管理・戦略会計の実践など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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最終回 目指すべきは「キャッシュリッチ企業」 ~税理士を財務のパートナーとして活用する~
節税の本来の目的は「手元に資金を残すこと」であり、お金が出ていく過度な節税は資金繰りを悪化させるリスクがあること、そして目先の節税が銀行からの融資枠(借入余力)を奪ってしまうジレンマについてお伝えしてきました。 最終回となる今回は、これまでの内容を踏まえ、会社を強くするための「経営の好循環」の作り方と、税理士の正しい活用法について解説します。 ポイント① 節税は事業拡大のための「投資原資」を作る手段 「真の節税」とは、単に支払う税金を減らすことではありません。事業の収益性を高め、結果として会社の手元に残るお金(キャッシュ)を最大化することです。手元に残ったお金は、会社を守る防衛資金になるだけでなく、次の事業拡大に向けた「投資の原資」となります。 成長を続ける強い会社は、例外なく以下のような「経営の好循環」を持っています。 ① 利益を出す 本業でしっかり稼ぐ ② 適正に納税する 無駄な節税で利益や現金を減らさない ③ 融資を受ける 利益を出しているため銀行の評価が高く、好条件で多額の資金を調達できる ④ 事業に投資する 潤沢な資金を人材・設備・マーケティングに投資する ⑤ さらに大きな利益を生み出す ①に戻り、サイクルが回り続ける この好循環を回し続け、手元に潤沢な資金を持つ「キャッシュリッチ企業」を目指すことが、どんな不況や環境変化にも負けない会社を作るための有効なアプローチです。 ポイント② 税理士を「節税の道具」にしてはいけない 利益が出始めると、「とにかく税金を安くしてほしい」と税理士に過度な節税策ばかりを求める経営者が少なくありません。しかし、税理士を単なる「税金を減らすための道具」として使ってしまうのは、会社にとって非常に大きな機会損失です。 国家資格を持つ税理士であっても、すべての税務や経営課題に万能なわけではありません。過去の数字を正確に処理する「日々の会計・申告作業」が得意な税理士もいれば、個人の「相続税」に特化した税理士や、会社の未来を見据えた「資金繰りや銀行融資、経営計画の策定」を強みとする税理士などがいます。 もしあなたの会社が事業の成長と資金繰りの安定を望むのであれば、「これなら税金が減りますよ」と目先の節税テクニックばかりを提案してくる専門家ではなく、数年先の会社の状態を見据えてアドバイスをしてくれる専門家を選ぶ必要があります。 ポイント③ 「財務のパートナー」としての税理士活用法 会社を成長させるためには、過去の数字をまとめる「財務会計(税務申告のための会計)」だけでなく、自社のお金の動きを把握し未来の計画を立てる「管理会計(経営のための会計)」の視点が不可欠です。 今、手元にいくら現金があるのか。次の設備投資や採用のタイミングはいつが適切か。銀行からどのように見られており、いくらまでなら借りられるか——こうした「経営の意思決定」に関わるお金の悩みを気軽に相談できる相手は、社内にはなかなかいません。 だからこそ、経営計画書の作成や資金繰りのシミュレーションを一緒に行い、社長の壁打ち相手になれる「財務のパートナー」として税理士を活用していただきたいのです。 まとめ 当事務所のブログでは、「事業計画書の作り方」「決算書と経営分析」「節税と資金繰り」と、一貫して「数字に強い経営」をテーマに情報発信を行ってまいりました。これらの記事が、会社をより良くしたいと願う経営者の皆様にとって、少しでも経営のヒントや気づきになれば幸いです。 当事務所では、適正な納税による社会的信用の獲得と、銀行融資を最大限に活用した資金繰り支援を通じて、地域の企業の成長を全力でサポートしております。自社の財務や資金繰りについて「一度しっかり専門家に見てほしい」とお考えの際は、どうぞお気軽にご相談ください。 ※本記事は掲載時点の法令・税制に基づいて作成しています。その後の税制改正等により、記載内容が現状と異なる場合があります。個別の税務判断については、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。 【参考文献】本連載の執筆にあたり、以下の書籍を参考にさせていただきました。 ・『ひとり社長の賢い節税』(杉田健吾 著/明日香出版社) ・『顧問先の銀行融資支援スキル実装ハンドブック』(諸留誕 著/日本法令) ・『激レア 資金繰りテクニック50』(菅原由一/幻冬舎)
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第4回 個人と法人の決定的な違い ~法人化で節税効果を最大化する方法~
これから起業を考えている方や、現在個人事業主として活動している方が、効率的にお金を手元に残しながら事業を拡大していくためには、どうすればよいのでしょうか。今回は、「個人事業主」と「法人(会社)」の決定的な違いと、法人化による節税メリットについて解説します。 ポイント① 個人と法人では「経費」の考え方が大きく違う 個人事業主と法人では、経費として認められる範囲が大きく異なります。 個人事業主の場合、「事業用の支出」と「私生活用の支出」が混ざりやすいため、事業に直接関連している部分のみを「家事按分」として計算しなければ経費として認められません。一方で法人には、法律上「私生活」という概念がありません。法人が使ったお金は、事業のために使ったという明確な理由(事業関連性)を説明できれば、原則としてすべて経費になります。 つまり、法人になるだけで個人では経費として認められにくかった支出を経費化できる可能性が大きく広がり、利益を圧縮しやすくなります。第2回でご紹介した「出張旅費規程」なども、この法人ならではの強みを活かした仕組みです。 ポイント② 法人ならではの絶大なメリット「給与所得控除」 個人と法人の最も大きな違いのひとつが、社長自身への「給料」の扱いです。 個人事業主の場合、事業で稼いだ利益はすべて「個人の所得」となり、自分自身に給料を支払って経費にすることはできません。しかし法人であれば、会社から社長(自分)へ「役員報酬」として給料を支払うことができます。役員報酬は会社の経費(損金)になるだけでなく、受け取る個人側でも「給与所得控除」という強力な非課税枠が適用されます。 これにより、事業の利益を「会社の利益」と「個人の給与」に分散させることができ、個人事業主のままでいるよりも世帯全体で支払う税金や社会保険料の負担を大幅に減らすことが可能になります。 ポイント③ 赤字の際のメリット「繰越欠損金」と、無視できないデメリット「均等割」 法人化のメリットは、利益が出ている時だけではありません。事業が赤字になった場合にも、法人には「繰越欠損金」という強力な制度があります。 個人事業主(青色申告)の場合、赤字を翌年以降に繰り越せる期間は「3年間」ですが、法人であれば「10年間」も繰り越すことができます。創業期などの赤字を長期にわたってストックしておき、将来大きな利益が出た際に相殺することで、税金を大幅に節約できます。 【注意】赤字でも発生する「均等割」の負担 ただし、「赤字が繰り越せるから、とりあえず法人化しよう」と安易に考えるのは危険です。法人の場合、たとえ赤字であっても、法人住民税の「均等割」として毎年最低でも約7万円の税金を支払う義務があります。事業を継続する強い意志がなく、売上も安定していない状況でむやみに法人化すると、コストと手間がかかるだけでなく、この均等割の負担が重くのしかかってしまいます。 ポイント④ 法人化を検討すべき「正しいタイミング」とは 日本の所得税は所得が高くなるほど税率が上がる累進課税制度のため、利益が増えるほど法人税のほうが有利になります。法人化を検討する目安として、以下のタイミングがよく挙げられます。 年商の目安 800万円〜1,000万円を超えてきたとき 利益(所得)の目安 500万円〜800万円になってきたとき ただし、これらはあくまで目安です。今後の事業計画や投資の予定、社会保険の加入義務など、メリット・デメリットを正しく理解したうえで自社に最適な選択をすることが重要です。最適なタイミングを見極めるためにも、ぜひ専門家である税理士にご相談ください。 まとめ 法人という「器」を正しく使うことで、個人事業主のままでは得られない多くの節税メリットや資金繰りの選択肢を手に入れることができます。ただし、維持コストや社会保険の加入義務・均等割などのデメリットも正しく理解した上で、自社に最適な選択をすることが重要です。 目指すべきキャッシュリッチ企業の姿・税理士を財務のパートナーとして活用する方法など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第3回 節税と融資のジレンマ ~目先の節税が融資枠(借入余力)を奪う~
賢い節税テクニックをご紹介してきましたが、節税には経営者が陥りやすい「もう一つの大きな落とし穴」が存在します。それが「融資(資金調達)への悪影響」です。 目先の税金を減らすことに夢中になるあまり、いざ事業を拡大したい時や不測の事態で資金が必要になった時に「銀行からお金が借りられない」と頭を抱える経営者は少なくありません。今回は、節税と融資の間に潜むジレンマについて解説します。 ポイント① 銀行は決算書の「どこ」を見て融資額を決めるのか 銀行が「この会社にはいくらまでならお金を貸せるか」という上限額(借入余力)を判断する際、最も重視する指標のひとつが「簡易キャッシュフロー(税引後利益+減価償却費)」と、そこから導き出される「債務償還年数」です。 銀行は安全に融資を行う目安として、「借入金の残高が、年間で生み出すキャッシュフローの10倍以内(=10年で返済できる範囲内)」であることをひとつの基準としています。これを借入余力の計算式に直すと、以下のようになります。 借入余力 =(簡易キャッシュフロー × 10)- 現在の借入金残高 つまり、会社が「新たに借りられるお金の上限」は、利益の10倍から現在の借金を引いた額になるということです。 ポイント② 衝撃の事実——90万円の節税で、2,100万円の「新たな融資枠」が消える では、税金を減らすために利益を圧縮した場合、融資枠にどのような影響が出るのでしょうか。具体的な数字で検証してみましょう。 (※わかりやすくするため、実効税率を30%、減価償却費は考慮しないものとして計算します。また、すでに銀行から「3,000万円の借入」がある会社と想定します) 決算直前、あなたの会社に「1,000万円の税引前利益」が出そうだとします。 ケースA:節税せずそのまま申告 ケースB:300万円の経費で節税 税引前利益 1,000万円 700万円(1,000万円-経費300万円) 税金(30%) 300万円 210万円(★Aより90万円の節税) 税引後利益(簡易CF) 700万円 490万円 借入上限の目安(利益の10倍) 7,000万円 4,900万円 新たな借入余力(上限-既存借入3,000万円) 4,000万円 1,900万円 ケースBでは確かに税金を90万円減らすことに成功しました。しかし利益が減ったことにより、銀行から新たに借りられる枠(借入余力)は4,000万円から1,900万円へと大きく下がっています。「90万円の節税をした代償として、2,100万円分の新たな融資枠を失うリスクがある」ということを、ぜひ頭に入れておいてください。 ※なお、実際の借入余力は業種・減価償却費の額・担保や保証の有無などによっても変動するため、一概に「利益の10倍」とはなりません。上記はあくまで「節税が融資枠に与えるインパクト」を示すための概算です。 ポイント③ 税金を払って利益を出したほうが、資金繰りは圧倒的に安定する もちろん、実際の銀行の融資判断は決算書の数字だけで決まるわけではなく、事業の将来性なども総合的に判断されます。しかし「利益の額」が極めて大きなウエイトを占めているのは紛れもない事実です。 会社が持続的に成長するための「投資資金」や、不測の事態を乗り越えるための「防衛資金」は、銀行からの融資によって確保するのが一般的です。「税金を払いたくないから」という理由だけで無理な節税を行い利益を削り続けていると、いざという時に資金調達ができず会社の首を絞めることになります。 適正に利益を出し、堂々と税金を払い、銀行からの高い評価(多額の融資枠)を得て手元に潤沢な資金を持っておくこと——それこそが、どんな環境の変化にも負けない強い会社をつくる最大の秘訣です。 まとめ 「節税」と「融資(借入余力)」はトレードオフの関係にあります。過度な節税は、会社の成長エンジンである「資金調達力」を奪ってしまいます。決算対策を行う際は、目先の税額だけでなく「自社の借入余力にどう影響するか」までをシミュレーションする視点が不可欠です。 法人化のメリット・デメリット、目指すべきキャッシュリッチ企業の姿など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第2回 「お金が出ていかない」賢い節税の実践テクニック
節税の本来の目的は「手元に資金を残すこと」であり、保険加入や不要な備品購入といった「お金が出ていく節税」はかえって資金繰りを悪化させるリスクがあります。 では、無駄なお金を使わずに税金を減らし、手元に資金を残す方法はあるのでしょうか。今回は、法人の強みを活かした「お金が出ていかない賢い節税テクニック」の代表例と、「お金は一時的に出ていくが全額貯金として残る最強の例外」、そして「必要な設備投資の資金効率を最大化する手法」をご紹介します。 ポイント① 非課税で手当を受け取る「出張旅費規程」の活用 社長が自分自身にお金を払う場合、通常は「役員報酬(給料)」として支払いますが、給料には所得税・住民税・社会保険料がかかってしまいます。 そこで有効なのが「出張旅費規程」の活用です。出張旅費規程とは、会社のために出張をした際、交通費や宿泊費の実費とは別に「出張手当(日当)」を支給する社内ルールのことです。 この出張手当の最大の魅力は、「会社側では経費(損金)として計上でき利益を圧縮できる」と同時に、「受け取る個人側(社長)にとっては非課税となり、税金も社会保険料もかからずそのまま手元に残る」という点です。会社のお金を効率的に社長個人の手元に移すことができる、活用を検討する価値のある手法と言えます。ただし、後述の【重要】でお伝えする通り、導入に際しては必ず専門家にご相談ください。 ポイント② 役員報酬の最適化と「家族への所得分散」 日本の所得税は累進課税制度を採用しているため、個人の所得が高くなるほど適用される税率が上がります。そこで検討したいのが「家族への所得分散」です。 実際に会社の業務を手伝っている配偶者や親族がいる場合、社長1人に集中している役員報酬を、その業務実態に応じて家族に分散して支給します。こうすることで一人当たりの所得が下がり低い税率が適用されるため、世帯全体での税金・社会保険料の負担を抑え、手元に多くのお金を残すことができます。 ポイント③ 必要な投資の資金効率を上げる「少額減価償却資産の特例」 第1回で「税金を減らすための不要な備品購入はNG」とお伝えしましたが、本当に事業に必要な設備投資であれば話は別です。中小企業には、一定金額未満の資産(パソコン・ソフトウェア・工具など)を購入した場合、その全額をその年度の経費として即時に計上できる特例があります(年間合計300万円まで)。 通常、資産は耐用年数に応じて数年かけて減価償却しますが、この特例を使えば購入年度に一括で経費化でき、その分だけ利益を圧縮して税金を減らすことができます。「どうせ買うものを賢いタイミングで購入する」という、資金効率の高い節税手法です。 なお、令和8年度税制改正により、対象となる資産の取得価額の上限が「30万円未満」から「40万円未満」に引き上げられております(令和8年4月1日以後に取得する資産から適用)。近年の物価上昇や設備価格の高騰を踏まえた改正であり、対象となる資産の範囲が広がることで、中小企業にとってより使いやすい制度になります。購入を検討している設備がある場合は、計画的に導入することをお勧めします。 ポイント④ 全額経費になる最強の貯金「経営セーフティ共済」 第1回で「お金が出ていく節税は危険だ」とお伝えしましたが、一つだけ例外としておすすめできるものがあります。それが、国(中小機構)が運営する「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」です。 「貯蓄型の生命保険でも手元資金を作れるのでは?」と考える方もいるかもしれません。しかし保険は、解約のタイミングによって支払った保険料より戻ってくる金額が少なくなる「元本割れ」のリスクが伴います。また、解約返戻金を受け取った際には会社の益金(収益)として計上されるため、出口で役員退職金などの損金をぶつけない限り、結局その時点で税金がかかってしまいます。さらに2019年の税制改正以降、かつてのような節税効果は極めて限定的になっています。 一方で、経営セーフティ共済の最大の魅力は、掛金(月額最大20万円、年間240万円まで)を全額経費(損金)として計上できるにもかかわらず、40カ月以上掛け続ければ自己都合で解約しても掛金が100%全額戻ってくるという点です。元本割れのリスクなく、実質的な「全額経費になる貯金」として安全に資金をストックできます。決算月に1年分(最大240万円)を前払いすることも可能なため、突発的な利益が出た際の特効薬にもなります。 さらに、万が一取引先が倒産した際には、無担保・無保証人で掛金の10倍(最高8,000万円)まで借入ができるため、いざという時の資金繰りの防波堤としても機能します。 ポイント⑤ 経営セーフティ共済の解約と「役員退職金」の合わせ技 役員退職金は、適正な金額であれば全額を法人の損金(経費)に算入できるうえ、受け取る役員側にとっても「退職所得」として税負担が極めて軽くなる、法人節税の強力な手法のひとつです。 さらに効果を高めるのが、経営セーフティ共済の解約と組み合わせる手法です。共済を解約すると掛金が全額戻ってきますが、この解約返戻金は法人の「益金(収益)」として計上されます。そのまま申告すると大きな利益が発生し、多額の税金がかかってしまいます。 そこで、解約のタイミングを役員退職金の支給時期に合わせることで、解約返戻金(益金)と役員退職金(損金)が相殺され、大幅な節税効果が生まれます。長年積み立ててきた共済を「退職金の原資」として戦略的に活用できる、非常に合理的な手法です。 ただし、役員退職金は「不相当に高額」と税務署に判断された場合、超過部分が損金否認されるリスクがあります。適正額の計算(功績倍率法など)や支給時期の設計は、必ず事前に専門家へご相談ください。 ポイント⑥ 掛金が全額所得控除になる「小規模企業共済」 個人事業主や中小企業の経営者が加入できる退職金積立制度が「小規模企業共済」です。国(中小機構)が運営する公的な制度で、経営セーフティ共済と並ぶ「手元資金を残しながら節税できる」代表的な手法です。 掛金は月額1,000円〜70,000円の範囲で設定でき、年間最大84万円が全額所得控除の対象となります。法人の経費にはなりませんが、社長個人の所得税・住民税を直接減らす効果があります。 受け取り時は退職所得または公的年金等控除が適用されるため、将来の受取時の税負担も軽くなります。経営セーフティ共済と合わせて加入することで、法人・個人の両面から節税と老後の資金準備を同時に進められる点が最大の魅力です。 【重要】導入の際は、必ず専門家に相談を 今回ご紹介した「出張旅費規程」や「所得分散」は、手元に資金を残す効果的な手法ですが、自己判断での導入は非常に危険です。 これらは税務調査において厳しくチェックされやすいテーマです。社会通念上の常識を超えた手当の設定、出張の業務実態が証明できないケース、家族に業務の実態がないのに給与を支払うケースなどは、税務署から否認され重いペナルティを受ける可能性があります。また、役員退職金の「適正額の算定」や、少額減価償却資産の特例の「適用要件」なども、非常に専門的な判断が求められます。導入を検討される際は、必ず顧問税理士などの専門家に相談し、税務リスクをクリアした合法かつ安全な仕組みを設計してください。 まとめ 法人の仕組みや公的な共済制度を正しく使いこなせば、無駄なお金を使わずに会社と個人の手元資金を増やすことができます。ただし、どの手法も「正しい運用」があってこその節税です。当事務所でも、税務リスクをしっかり管理したうえで、資金を残すためのルール作りをサポートしております。 節税と融資の関係、法人化のメリットなど、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第1回 その節税、本当に正解?節税の本来の目的は「手元に資金を残すこと」
会社に利益が出ると、どうしても「税金を減らしたい」と考えがちです。しかし、誤った節税に走ると、かえって会社の首を絞めることになりかねません。 今回は、節税の本来の目的と、「お金が出ていく節税」の落とし穴について解説します。 ポイント① 利益が出ると税金を払いたくなくなる心理 事業が軌道に乗り、利益が出始めると、「こんなに税金を持っていかれるのか」と驚き、何とかして税金を減らしたいと考えるのは経営者として自然な感情です。 しかし、節税ばかりに気を取られると、会社の生存力を高め、成長を生み出すための「資金繰り(キャッシュフロー)」という、もっと重要な視点が抜け落ちてしまいます。ここで一度立ち止まって考えてみましょう。 ポイント② 節税の本来の目的は「手元に資金を残すこと」 節税の本来の目的は何でしょうか。それは税金を減らすこと自体ではなく、「手元に使える資金(キャッシュ)をできるだけ多く残すこと」です。 たとえば、1,000万円の利益が出たとします。そのまま申告すれば約300万円の税金がかかり、手元には700万円が残ります。この700万円は、次の事業拡大のための貴重な資金になります。 しかし、「300万円も税金を取られるくらいなら」と、不要な保険や車を1,000万円分購入して利益をゼロにしたらどうなるでしょうか。確かに税金はゼロになりますが、手元のお金もゼロになってしまいます。これでは、何のための節税かわかりません。 ポイント③ 「お金が出ていく節税」の落とし穴 世の中には、生命保険の加入や不要な車の購入など、さまざまな節税手法が溢れています。しかし、こうした「お金が出ていく節税」には十分な注意が必要です。具体的な数字で考えてみましょう。 たとえば、決算直前に1,000万円の利益が見込まれたとします。 税金を払う場合 約250万円(実効税率25%と仮定)の法人税等を払っても、手元には約750万円の現金が残ります。 保険等に加入する場合 1,000万円全額を損金にできる保険(※現在は極めて限定的)に加入すると税金はゼロになりますが、保険料として1,000万円が出ていくため、手元に残る現金はゼロです。 会社の経営を安定させ、不況や不測の事態を乗り越えるための最強の防具は「手元の現金」です。節税に気を取られて現金を枯渇させてしまえば、最悪の場合、利益は出ているのに支払いができず資金ショートを起こす「黒字倒産」の危機に直面してしまいます。 まとめ 「税金を払うくらいなら経費で使ってしまおう」という考え方は、会社から体力を奪います。節税ができても資金繰りが悪化してしまっては、まったく意味がありません。「税金を払ってでも手元に現金を残す」という視点を持つことが、強い会社を作る第一歩です。 お金が出ていかない賢い節税テクニック、節税と融資の関係など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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最終回 経営者のための実践・資金調達&銀行融資ガイド ~返済が苦しくなったら逃げるな——リスケ交渉と経営改善計画書の作り方~
全5回にわたりお届けしてきた「実践・資金調達&銀行融資ガイド」も、今回がいよいよ最終回です。これまでは「いかに融資を引き出し、事業を拡大していくか」という攻めの財務戦略をお伝えしてきました。 しかし経営において、どれだけ緻密な資金繰り表を作り、複数の金融機関と良好な関係を築いていても、予期せぬ外部環境の激変によって業績が悪化し、資金繰りが苦しくなることは起こり得ます。最終回は、会社の危機を乗り越えるための「資金繰りが悪化したときの対処法(リスケジュール)と早期相談の重要性」について解説します。 ポイント① 資金ショートの危機に陥ったときのNG行動3つ 売上が急減し、数か月先に「現金が底をつく」ことが予測されたとします。このピンチにおいて、経営者が陥りがちなNG行動があります。 NG① 高金利の借入に手を出す 銀行からの追加融資が断られると、焦りから審査の甘いノンバンク等の高金利な借入に手を出してしまうケースがあります。しかし一時しのぎに過ぎず、利息が雪だるま式に膨らみ、会社の寿命を縮めるだけです。 NG② 粉飾決算で取り繕う 赤字を黒字に見せかける「粉飾」に手を染めると、翌年以降も辻褄を合わせるためにさらに大きな嘘を重ねることになり、最終的には破綻という結末を迎えます。発覚すれば銀行からの信用は完全に失われます。 NG③ 銀行から逃げる(隠す) 銀行が最も嫌うのは、業績が悪化したことそのものよりも「経営状態が隠され、ブラックボックス化すること」です。手遅れになってから発覚するより、傷が浅いうちに真実を伝える方が、銀行ははるかに柔軟に対応してくれます。 資金繰りに窮したときに経営者がすべきことはただ一つ、「一刻も早く、メインバンクに現状をありのままに報告し、相談すること」です。 ポイント② 究極の資金繰り対策「リスケ(条件変更)」の効果 銀行へ早期相談に行き、何を求めるのか。それが「リスケジュール(略してリスケ:返済条件の変更)」です。リスケとは、毎月の約定返済額を一定期間(たとえば半年〜1年程度)大幅に減額してもらったり、元金返済をストップして「利息の支払いのみ」にしてもらう交渉のことです。 たとえば毎月100万円の元本を返済している企業が、リスケによって返済額を月0円(利息のみ)に減らすことができれば、毎月100万円の現金が会社に留保されることになります。これは実質的に「毎月100万円の新たな融資を受けた」のと同じキャッシュフローの改善効果をもたらし、倒産を防ぐ命綱となります。 ポイント③ 銀行がリスケに応じる条件「経営改善計画書」 銀行は「お金がないので返済を減らしてください」という口頭のお願いだけでリスケを認めてくれるわけではありません。担当者が社内で稟議を通すための明確な根拠が必要です。その根拠となるのが「経営改善計画書」です。リスケを申し込む際、経営者は以下の3つの要素を論理的にまとめた計画書を作成し、銀行に提出しなければなりません。 ① リスケに至った理由(真の要因分析) なぜ業績が悪化し資金が不足したのかを客観的に分析する ② 経営改善計画の具体的内容 経費削減・不採算部門の撤退・売上回復の施策など、具体的にどうやって利益を出していくのかを示す ③ 条件変更後の返済額と増額の予定 いつまでに業績が回復し、いつから通常の返済額に戻せるのか(正常化への道筋)を明記する この計画書が「実現可能で説得力のあるもの」であれば、銀行は「倒産させて全額回収できなくなるより、返済を猶予して企業を再生させたほうがよい」と判断し、リスケに応じてくれます。 ポイント④ 複数行取引における「残高プロラタの原則」 第2回の記事で「複数の金融機関と付き合うメリット」をお伝えしました。しかし有事のリスケ交渉においては、複数の銀行から借り入れていることがハードルになる場合があります。 リスケを行う際の重要な原則は、「すべての借入先金融機関に対して、同時に、公平な条件でリスケを要請すること」です。これを「残高プロラタ(借入残高の比率に応じた按分)」と呼びます。 たとえば「メインのA銀行にはリスケをお願いするが、付き合いの浅いB信用金庫には波風を立てたくないから満額返済を続ける」といった不公平な返済は、A銀行が認めません。「他行も同じ条件で痛みを分かち合う(足並みを揃える)」ことが、金融機関同士が協調してリスケ支援を行うための大前提となります。 残高プロラタの例 A銀行の借入残高3,000万円・B信用金庫の借入残高2,000万円の場合、リスケ後の返済額をA銀行60%・B信用金庫40%の比率で按分する まとめ——ピンチのときこそ専門家を頼る 起業し事業を拡大していく道のりは平坦ではありません。しかし業績悪化という嵐に見舞われたときでも、銀行の論理を知り適切なタイミングで「リスケ」というカードを切ることができれば、会社は生き延び再び成長軌道に戻ることができます。 資金繰りに窮し精神的にも追い詰められた状況で、単独で銀行を納得させる「経営改善計画書」を作成し、複数の銀行とプロラタ交渉を行うのは容易ではありません。そのような時こそ、財務・税務の専門家をパートナーとして活用することが、会社を守るための有効な選択肢となります。 全5回の連載をお読みいただき、誠にありがとうございました。 ※本記事は掲載時点の法令・税制に基づいて作成しています。その後の改正等により、記載内容が現状と異なる場合があります。個別の融資・税務判断については、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。 【参考文献】本連載の執筆にあたり、以下の書籍を参考にさせていただきました。 ・『税理士必携 顧問先の銀行融資支援スキル 実装ハンドブック』(諸留誕 著/日本法令) ・『中小企業の「銀行交渉と資金繰り」完全マニュアル』(安田順・池田聡 著/日本実業出版社) ・『増補改訂版 独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(田原広一 著/幻冬舎) ・『資金繰り表作成&活用マニュアル』(篠崎啓嗣・西川佳徳 著) ・『中小企業の補助金申請支援マニュアル』(小林勇治・宮崎一紀・浅野志郎・壽義英 著/同友館) ・『なぜ倒産 23社の破綻に学ぶ失敗の法則』(日経トップリーダー 著/日経BP) ・『なぜ倒産 令和・粉飾編 破綻18社に学ぶ失敗の法則』(日経トップリーダー 著/日経BP)
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