お知らせ NEWS
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第4回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~ROEを高める「財務レバレッジ」と、倒産を防ぐ「安全性分析」のジレンマ~
前回は、経営者目線の「ROA(総資産利益率)」と株主目線の「ROE(自己資本利益率)」について解説しました。投資家や株主は、単なる利益の「金額」ではなく、投下した資本に対する「パーセンテージ(効率)」を重視します。今回は、その「ROE」を劇的に引き上げる、ある種の「魔法」についてお話しします。しかし、その魔法には「会社の安全性」を犠牲にするという重い代償が伴います。 ポイント① 借金をして利益効率を高める「財務レバレッジ」の魔法 ROEは、次のように2つの要素に分解することができます。 ROE = ROA × 財務レバレッジ(総資産合計 ÷ 純資産) ここで登場する「財務レバレッジ」とは「てこ」のことです。借金(他人の資本)をてこにして少ない自己資金で大きな投資を行い、自己資本に対するリターン(ROE)を飛躍的に高める効果を「財務レバレッジ効果」と呼びます。 手持ちの自己資金が1億円あり、利回り10%が見込める賃貸マンションの投資案件があったとします。 A案:無借金で投資 B案:9億円借りて10億円投資 投資額 1億円(自己資金のみ) 10億円(自己資金1億円+借入9億円) 事業の利益(利回り10%) 1,000万円 1億円 支払利息(借入金利3%) なし 2,700万円(9億円×3%) 最終利益 1,000万円 7,300万円 ROE(自己資金1億円に対する利回り) 10% 73% 無借金のA案ではROE10%でしたが、借金をしたB案ではROEが73%にまで跳ね上がりました。事業そのものの利益率(ROA)は同じ10%でも、負債の依存率を高めて大きな投資を行えば、出資者にとっての投資利回り(ROE)は飛躍的に高まります。これが財務レバレッジの魔法です。 ポイント② 「魔法」が引き起こす逆回転——自己資本比率の悪化 「銀行の金利以上に利回りが稼げるなら、借金をして投資した方が得じゃないか!」と思うかもしれません。しかしこの魔法には決定的な弱点があります。それが借金が増えることによる「自己資本比率の悪化」という安全性の低下です。 A案の自己資本比率は100%(非常に安全)ですが、B案の自己資本比率はわずか10%(自己資金1億円÷総資産10億円)しかありません。もし経済環境が悪化して、不動産投資の利回りが10%から2%に落ち込んだらどうなるでしょうか。 A案(無借金) B案(借入9億円) 利回り低下後の利益(2%) 200万円 2,000万円 支払利息 なし 2,700万円 最終損益 200万円の黒字 ▲700万円の赤字 倒産リスク なし 資金ショートの危険 借金をして投資をするということは、事業がうまくいっている時はレバレッジが効いてリターンが高まりますが、事業が少しでも傾いた時にはそのレバレッジが「逆回転」し、一気に赤字転落・資金ショート(倒産)の危険性を高める諸刃の剣なのです。 ポイント③ 無借金経営=善とは限らない。アクセルとブレーキの最適バランスを探す 中小企業の経営において、「安全性を高める(倒産リスクを減らす)」ことと「ROEを高める(資本効率を上げる)」ことは、往々にしてトレードオフ(あちらを立てればこちらが立たず)のジレンマに陥ります。 自己資本比率を高めて安全性を追求しすぎると、投資効率(ROE)が悪化し、「資金を遊ばせていて成長しない会社」になってしまいます。 逆に、ROEの向上を求めて借金(財務レバレッジ)を増やせば、自己資本比率が低下し、不況時にたちまち倒産の危機に瀕することになります。 会社としては、無借金経営が常に望ましいわけではなく、会社の置かれた状況や環境によって、都度あるべき借入の割合を検討する必要があります。これは経営者と、その判断を数字で支える顧問税理士などの専門家が連携して取り組むべき重要な課題です。 経営分析の数字は、このアクセル(収益性)とブレーキ(安全性)の踏み具合を客観的なデータとして突きつけてくれます。自社の現在の自己資本比率とROEを見比べながら、「今のウチの会社は、もう少しアクセルを踏んで勝負に出るべきか、それともブレーキを踏んで安全性を高めるべきか」を考えてみてください。 まとめ ROEを高めるには、借入金を活用する「財務レバレッジ」という強力な方法があります。しかしそれは、不況時に倒産リスクを高める「自己資本比率の低下」と表裏一体です。会社の「稼ぐ力(収益性)」と「潰れない力(安全性)」の最適バランスを見つけることこそが、経営者の最も重要な役割のひとつです。 資本回転率・損益分岐点・CVP分析など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第3回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~会社が本当に儲かっているかを示す真の指標「ROA」と「ROE」~
P/Lの利益を「比率」で見ることでコスト体質の変化を見抜く方法をお伝えしてきました。今回は、P/L(利益)とB/S(資産・負債・純資産)の数字を組み合わせ、企業の「真の稼ぐ力」を測る指標について深掘りしていきます。 ポイント① 利益の「額」だけを追う罠——「前年超え」の落とし穴 日本企業の多くの経営者や部門責任者は、「部門損益(P/L)」だけを見ています。「前年度よりも売上を増やす、利益の金額を増やす」という「前年対比型」の目標には一生懸命に取り組みますが、「その利益を出すために、いくらの資産(お金)を会社から預かっているのか」を把握している人は驚くほど少ないのが現実です。 たとえば、「今期は営業利益が5,000万円出た!前年の3,000万円から大幅アップだ!」と喜んでいる会社があったとします。しかし、その利益を出すために銀行から多額の借金をして5億円の新工場を建て、大量の在庫を抱え込んでいたとしたらどうでしょうか。投資額が何倍にも膨れ上がっているのに利益が2,000万円しか増えていないのであれば、それは「投資効率が悪化している(商売が下手になっている)」ことを意味します。 ビジネスの基本は「リスクに見合ったリターンを得ること」です。「いくら稼いだか(利益の額)」だけでなく、「いくら投資して、その利益を稼ぎ出したか(投資に対する効率)」を見なければ、会社が本当に儲かっているのかを正しく評価することはできません。 ポイント② 誰の目線で「稼ぐ力」を測るか——ROAとROE 「投資とリターン」の関係を、誰の目線で見るかによって使う指標が変わります。 ROA(総資産利益率) 「経営者」の目線。経営者は借入金も含めた「すべての財産(総資産)」を投資として運用しています。その全財産を使って、どれだけ利益を稼いだかを示します。 ROE(自己資本利益率) 「株主」の目線。株主にとって会社の正味財産こそが自らの「投資金額」です。株主が投下した自己資本(純資産)に対して、どれだけリターン(当期純利益)を生み出したかを示します。 ここで、架空の中堅メーカー・C社の2つの事業部をROAの視点で比較してみましょう。 X事業部 Y事業部 営業利益 5,000万円 3,000万円 使っている総資産 10億円 3億円 ROA 5% 10% C社の社長はこれまで利益の「額」だけを見て、5,000万円を稼ぎ出すX事業部ばかりを高く評価し、エース級の人材と資金を投入していました。しかしROAを計算してみると事態は一変します。Y事業部の方が、少ない資産で効率よく利益を稼ぎ出している「優秀な事業部」であることがわかります。この事実に気づいた社長は、次期の中期経営計画において資金を投下する優先順位をY事業部へと切り替えるという、合理的な「次の一手」を打つことができました。 ポイント③ 株主・投資家は「額」ではなく「パーセンテージ」を要求する 多くの経営者が勘違いしていますが、投資家や株主が「売上を増やしてくれ」「利益の金額を増やしてくれ」と言うことはありません。彼らが経営者に常に求めるのは、投資に対する「パーセンテージ(利回り)」です。 社内の会議で「うちの部門は利益の額こそ少ないですが、一応黒字ですから会社に貢献していますよね?」と胸を張る管理職がいます。しかし、そのわずかな黒字を出すために莫大な資産を抱え込み、ROAが1〜2%程度しかないとしたら、資産の使い方として非常に効率が悪い状態と言わざるを得ません。 「ウチは利益が出ている」と安心する前に、「その利益を出すために、いくらの資産を使っているか」を計算する習慣を持ちましょう。利益の「額」ではなく「効率(%)」で自社を評価することが、本当に強い会社をつくる第一歩です。 まとめ ROAとROEは、P/L(利益)とB/S(資産・資本)を組み合わせた、企業の実力を測る究極の指標です。単に利益の額を追うだけでなく、「どれだけの資産を使って、その利益を稼いだか」という投資効率の視点を持つことで、経営判断の精度は格段に上がります。 財務レバレッジと安全性分析・資本回転率・CVP分析など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第2回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~P/Lは金額ではなく「比率」で見よ!利益構造の真実~
決算書の数字は「過去・他社・目標」の3つと比較して初めて「異常値」が見えてくることを前回お伝えしました。今回は、会社の成績表である損益計算書(P/L)の数字を比較する際の「極意」について解説します。 ポイント① 「売上アップ!」と喜ぶ社長の死角 建材卸売業を営むB社の社長は、決算書を見て大喜びしていました。「今期の売上は5億円だ!前期の3億円から大幅アップで過去最高だ!」しかし、経理担当者の表情は晴れません。「社長、たしかに売上は伸びましたが、営業利益は前期と同じ3,000万円のままです」 売上が3億円から5億円に2億円も増えたのに、本業の儲けである営業利益が1円も増えていない。これは、売上を増やすためにそれ以上のペースで経費(コスト)が膨らんでしまっている証拠です。 P/Lを金額(絶対額)だけで見ていると、「売上が増えて良かった」「利益が出ているから大丈夫」といった表面的な感想しか出てきません。金額だけを追う経営は、水面下で抱え始めている「コスト体質の悪化」という重大な病のサインを見落としてしまう危険性があります。 ポイント② P/Lは「金額」ではなく「比率」に置き換える 会社の本当の利益構造を知るためには、P/Lの各項目を金額ではなく、「売上高を100%としたときの比率」に置き換えて比較する必要があります。先ほどのB社の数字を比率に置き換えてみましょう。 前期(売上3億円) 当期(売上5億円) 売上高 3億円(100%) 5億円(100%) 売上原価 2.1億円(原価率70%) 3.5億円(原価率70%) 販売費及び一般管理費 6,000万円(販管費率20%) 1.2億円(販管費率24%) 営業利益 3,000万円(営業利益率10%) 3,000万円(営業利益率6%) 仕入価格である「原価率」は70%のまま変わっていませんが、給与や広告費・運賃などの「販管費率」が20%から24%へと4ポイントも悪化し、結果として営業利益率が10%から6%に急落している事実が浮き彫りになりました。 ポイント③ 利益率の悪化は「無理な商売」の警告サイン 比率の悪化(異常値)を見つけたら、「なぜそうなったのか」という原因を現場に確認します。調べてみると、B社では売上目標を達成するために通常は取引しないような遠方の顧客まで無理に営業を広げていました。その結果、売上は伸びたものの、長距離の「運送費」が急増し、さらに新規顧客を獲得するための過剰な「広告宣伝費」や「接待交際費」がかさんでいたのです。 利益率が低下しているということは、商売の効率が悪くなり、資金繰りに余裕がなくなっていることを意味します。薄利多売の戦略を意図的に取っているなら別ですが、気づかないうちに利益率が悪化しているのは非常に危険です。経営者は金額の増減に一喜一憂するのではなく、比率ベースで会社の体質を定点観測する習慣を持つことが大切です。 ポイント④ 利益率を改善するための「2つのアプローチ」 P/Lを比率で分析し利益率の悪化に気づいた場合、打つべき手は大きく2つしかありません。 ① 固定費を減らす 人件費・家賃・無駄な交際費といった固定費(売上の増減に関わらず一定にかかるコスト)そのものを削減することで利益率を改善します。B社であれば、遠方への強引な営業をやめ、過剰な広告費や交際費を見直すことがこれに当たります。 ② 付加価値(限界利益)を多く稼ぐ 売上から変動費(仕入原価など)を引いた「付加価値(限界利益)」を大きくすることです。「材料単価を引き下げて原価率を下げる」か、「商品・サービスの質を高め販売価格をアップさせる」という方法があります。安易な値引きに頼らず、顧客に価値を認めてもらい適切な価格で買ってもらう努力が必要です。 まとめ 損益計算書は、金額の羅列をただ眺めるのではなく、売上高を100とした「比率の推移」を過去と比較することで、利益構造の歪みにいち早く気づくことができます。異常に気づいたら「固定費の削減」か「付加価値の向上」のどちらに手を打つべきかを考えましょう。 ROAとROE・安全性分析・CVP分析など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第1回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~決算書をただ眺めるのはNG。「3つの比較」で異常値を見つける~
決算書は会社の「健康状態を表すカルテ」であり、経営分析は「現在地を確認するGPS」です。しかし、数字をただ眺めているだけでは、会社の本当の姿は見えてきません。今回からは、具体的にどうやって自社の異常を見つけ、未来に向けた「次の一手」を打つのかという、より実践的な経営分析のステップに入ります。 ポイント① 数字は「結論」ではなく、ただの「事実」にすぎない 「社長、今期の売上高は過去最高の5億円を達成しました!利益も1,000万円出ています!」 経理担当者からこう報告されたら、皆さんはどう応えますか。「よくやった!」と手放しで喜ぶでしょうか。しかし、数字だけを見て喜ぶのは危険です。 分析において最も大切な大前提は、「数字は結論ではない」ということです。たとえば、売上が過去最高でも、実はライバル企業はもっと高い伸び率を記録しており、市場シェアを奪われているかもしれません。あるいは、利益が1,000万円出ていても、在庫が異常に積み上がっており、来期には資金ショートを起こす「黒字倒産」の予兆が隠れているかもしれません。 つまり、決算書の数字は結論ではなく、なぜそういう数字になっているのかという原因や内訳を調べるためのスタートラインにすぎないのです。 ポイント② 異常を見つけるための基本動作「3つの比較」 ただ並んでいるだけの数字から、どうやって「異常値」を見つけ出せばよいのでしょうか。そのための基本動作が「3つの比較」です。数字というのは、他の数字と比較して初めてさまざまなことが見えてきます。 ① 過去との比較 前年同月や過去3期間分の決算書を並べて比べてみます。すると、「売上は伸びているが、実は利益率は3年連続で低下している」「交際費が急激に膨らんでいる」といった、単年度の決算書を見ているだけでは気づかない「体質の変化」が見えてきます。 ② 目標との比較 期首に立てた経営計画や年度予算と、実際の実績との比較です。どこが目標未達になっているか、あるいはどこが達成できているかを確認し、未達の場合はその原因を究明して改善策を打ちます。 ③ 他社との比較 ライバル会社や同業者平均と比べて、自社がどこで勝っていてどこで負けているかを数字で見ます。「他社の財務データなんてどうやって手に入れるの?」と疑問に思われるかもしれませんが、インターネットを使えば無料で引き出すことができます。 上場企業をベンチマークにする(EDINETの活用):同じ業界の上場企業の有価証券報告書は、金融庁の「EDINET(エディネット)」で誰でも無料で閲覧できます。業界トップ企業の人件費率・原価率を自社と比べることで、経営の改善余地が見えてきます。 公的データの活用:中小企業の業種別財務データとして実務的に使いやすいものとして、以下の2つがあります。 日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(https://www.jfc.go.jp/n/findings/shihyou_kekka_m_index.html):業種ごとに収益性・生産性などの指標値が集計されています。 東京都中小企業診断士協会 財務診断研究会(https://www.zaimu-shindan-kenkyukai.jp/中小企業の財務指標/):中小企業実態基本調査のデータを業種別に整理したExcelファイルをダウンロードできます。小売業・製造業・建設業・卸売業など業種別に確認できます。 いずれも無料で利用でき、自社の立ち位置を客観視するのに役立ちます。 ポイント③ 数字の裏にある「原因」を探り、正しく「評価」する 「3つの比較」で異常値を見つけ、その原因や内訳をつかんだら、最後に行うのが「評価」です。その数字の変化が、会社の将来という観点で見た時に良いことなのか、悪いことなのかを判断し、理由を付けて説明できて初めて「分析」と呼べます。 この「評価」を誤ると、経営は致命傷を負います。たとえば、以下のようなケースを考えてみましょう。 ある地域密着型の工務店が、資金繰りの悪化を受けて徹底的なコスト削減に乗り出しました。その一環として、長年顧客から信頼を集めてきた熟練職人を削減し、人件費を大幅に圧縮しました。直後の数ヶ月間は人件費が削減され、利益率が改善したように見えました。しかし、施工品質の低下により顧客からのクレームが増加し、長年積み上げてきた口コミや紹介による受注が激減。最終的には売上そのものが大幅に落ち込んでしまいました。 「人件費を削って利益率が改善した」という数字に対し、「利益の源泉である施工品質と信頼を破壊しているから、長期的には致命傷になる」という正しい評価を下せなかったことが、この会社の悲劇でした。 まとめ 経営分析は、「数字(異常値)を見つける」→「事実(原因)を調べる」→「自社の強みや将来に照らし合わせて評価する」というステップで進みます。数字はあくまでスタートラインです。その裏にある「なぜ?」を追い続けることが、経営者としての本当の仕事です。 P/Lの比率分析・ROAとROE・安全性分析など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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最終回 経営者のための会計入門 ~3つの会計を一体で活かす——自社の弱点がわかる会計チェックリスト~
全6回にわたり、財務会計・管理会計・戦略会計の役割と実践について解説してきました。最後に、これらの会計が実際の経営でどのように一体となって機能するのかを整理し、自社の現状を振り返るためのチェックリストをご用意しました。 ポイント① 3つの会計を「一体」で回す経営の仕組み 財務会計・管理会計・戦略会計は、それぞれが独立したものではなく、相互に連動して機能します。 財務会計 過去の実績を正確に記録し、外部への説明責任を果たす 管理会計 財務会計のデータを加工・活用し、現在の資金とKPIを管理する 戦略会計 管理会計の分析をベースに、中長期の投資・撤退を決断する 月次決算で現状を素早く把握し(財務)、資金と行動をコントロールし(管理)、中長期の投資と撤退を決断する(戦略)——この3つを一体で回す仕組みを作ることこそが、経営者の本来の役割であり、アカウンタビリティ(説明責任)を果たすということです。 ポイント② 自社の「会計力」チェックリスト 貴社では、以下の項目のうちいくつ当てはまるでしょうか? 決算は税理士任せで、年1回、税金を払う時にしか数字を見ていない → 過去を記録する「財務会計」の基本活用が不足 月次決算は出ているが、翌月末になってから数字の報告を受けている → 軌道修正の要である「財務会計のスピード」が不足 PLは黒字だが、いつも口座の現金残高にヒヤヒヤしている → 未来の現金を予測する「管理会計(資金繰り)」が不足 売上目標はあるが、それを達成するための具体的な行動指標(KPI)がない → 業績をコントロールする「管理会計(業績管理・BSC)」が不足 新規事業・設備投資の採算や不採算事業の撤退基準を、明確な数字で評価できていない → 中長期の未来を決断する「戦略会計」が不足 チェックがついた項目は、自社の経営管理における「伸びしろ」です。 ポイント③ 未来を共に創るパートナーとしての税理士 会計は、過去の税金を計算するためだけの面倒な作業ではありません。月次決算・資金繰り・KPI管理・戦略的投資判断——これらを一体で回す仕組みを持つことで、会社はどんな環境の変化にも動じない強さを身につけることができます。 私たち税理士事務所は、単なる「過去の数字の集計係」ではありません。経営者がこれらの仕組みを構築し、未来に向けた経営判断を下すためのサポートを行う「経営のパートナー」でありたいと考えています。自社の会計管理に課題を感じられた方、さらに一段上の経営を目指したい方は、ぜひ一度、当事務所へご相談ください。 ※本記事は掲載時点の法令・会計基準に基づいて作成しています。その後の改正等により、記載内容が現状と異なる場合があります。個別の会計・税務判断については、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。 【参考文献】本連載の執筆にあたり、以下の書籍を参考にさせていただきました。 ・『[決定版]ほんとうにわかる管理会計&戦略会計』(高田直芳 著/PHP研究所) ・『世界のプロが学ぶ会計の教科書』(吉成英紀 著/日本経済新聞出版) ・『この1冊ですべてわかる 会計の基本』(岩谷誠治 著/日本実業出版社) ・『この1冊ですべてわかる 管理会計の基本』(千賀秀信 著/日本実業出版社) ・『管理会計 第七版』(櫻井通晴 著/同文舘出版) ・『財務会計講義 第25版』(桜井久勝 著/中央経済社)
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第5回 経営者のための会計入門 ~戦略会計の実践——未来の「投資」と「撤退」を決断する~
これまでの管理会計が「1年以内」の業績管理だとすれば、「戦略会計」は数年〜10年先を見据え、企業の基本構造を左右する「未来の意思決定」のための会計です。会計の中でも一歩踏み込んだテーマですが、中長期の経営判断を誤らないために、ぜひ押さえておいてください。 ポイント① 「時間価値」の概念を取り入れる——投資の判断 戦略会計の最大の特徴は、会計に「時間」の概念を持ち込むことです。たとえば、新しい機械を1,000万円で導入すべきか否かを判断する場面を考えてみましょう。 会計の世界では「今の100万円」と「数年後の100万円」は価値が異なります。なぜなら、今の100万円を事業に投資すれば運用益を生み出せるからです。そのため、将来得られると予測されるキャッシュフローをそのまま足し合わせるのではなく、金利や期待利回り(資本コスト)を考慮して「現在の価値(割引現在価値:DCF法)」に引き直して計算しなければなりません。 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いた合計額から初期投資額を差し引いたものを「正味現在価値(NPV)」と呼びます。このNPVがプラスであれば投資を実行し、マイナスであれば見送るという厳密な採算判定を行うのが戦略会計です。 ポイント② 最も苦渋を伴う「撤退の判断」 投資以上に難しく、かつ重要なのが「事業からの撤退・縮小の判断」です。赤字事業を「長年の愛着があるから」「いつか回復するはずだ」と漫然と続けることは、企業全体のキャッシュを奪い続けます。 戦略会計では、売上高から変動費(材料費・外注費など売上に比例して増減する費用)を引いた「限界利益」に着目します。この限界利益がマイナスに転じた地点を「事業閉鎖点」と呼びます。限界利益がマイナスということは、商品を作れば作るほど赤字が増える状態であり、直ちに事業を中止しなければなりません。 感情を切り離し、数字の裏付けを持って投資と撤退を決断するのが戦略会計の役割です。 ポイント③ 管理会計と戦略会計の「スケールの違い」を意識する 管理会計と戦略会計の最大の違いは、扱う時間軸とスケールです。 管理会計 戦略会計 時間軸 1年以内(短期) 3〜10年先(中長期) 主なテーマ 予算管理・資金繰り・KPI管理 設備投資・新規事業・事業撤退・M&A 特徴 日常的な経営管理 時間価値・現在価値の概念を活用 両者を使い分けることで、日々の経営管理と中長期の意思決定の両方をカバーできます。 まとめ 戦略会計は、感覚や経験則だけに頼らず、数字の裏付けを持って中長期の経営判断を下すためのツールです。NPVによる投資判断と、限界利益・事業閉鎖点による撤退判断の2つを押さえるだけで、戦略会計の基本は十分に実践できます。 3つの会計を一体で活かす方法・自社の会計力チェックリストなど、引き続き今後の記事で取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第4回 経営者のための会計入門 ~管理会計の実践②——「4つの視点」で業績を上げるKPI管理~
資金(キャッシュ)の安全が確保できたら、次は業績を伸ばすための管理会計です。今回は、売上や利益といった「結果の数字」だけを追う経営から脱却し、業績を持続的にコントロールするための「KPI管理」について解説します。 ポイント① 「結果の数字」だけを追う経営の落とし穴 売上や利益といった財務の数字は、あくまで過去の行動の「結果(遅行指標)」に過ぎません。結果の数字だけを目標に掲げて現場に圧力をかけると、短期的な売上を作るために過度な値引きに走ったり、目先の利益を出すために社員の教育訓練費や設備のメンテナンス費を削ったりと、長期的には組織が疲弊しサービスの質が低下してしまいます。 業績を持続的にコントロールするためには、結果の数字を見るだけでなく、その結果を生み出すための「行動指標(KPI:重要業績評価指標=先行指標)」を設定し管理することが必要です。 ポイント② 「バランスト・スコアカード(BSC)」の4つの視点 財務指標だけでなく先行指標を含めて複合的に業績を管理する優れたフレームワークが「バランスト・スコアカード(BSC)」です。業績を以下の「4つの視点」からバランスよく評価します。 ① 学習と成長の視点 従業員のスキルアップ・ITの活用・モチベーション向上を図る ② 内部プロセスの視点 業務効率・サービスの品質・納期の短縮などを改善する ③ 顧客の視点 業務改善により顧客の満足度やリピート率を高める ④ 財務の視点 その結果として売上・利益・キャッシュフローが向上する 「従業員が成長する(学習と成長)→業務が改善される(内部プロセス)→顧客が満足する(顧客)→利益が出る(財務)」という因果関係のストーリーを描くことが重要です。 ポイント③ 中小企業でのBSC活用——シンプルに始めることが大切 BSCは大企業向けの難しいフレームワークに見えるかもしれませんが、中小企業では「各視点に1〜2個のKPIを設定する」だけでも十分な効果があります。 たとえば、「新規顧客の訪問件数(学習と成長)」「クレーム件数(内部プロセス)」「リピート率(顧客)」「営業利益率(財務)」というシンプルな4指標を毎月追うだけで、結果の数字だけを見ていた経営から大きく前進できます。それぞれの段階で具体的な数値目標を設定し、社員の行動を未来の成果へと導くことこそが、強い組織を作る管理会計の極意です。 まとめ 業績を持続的に伸ばすためには、財務指標(遅行指標)と行動指標(先行指標)をセットで管理する習慣が不可欠です。BSCの4つの視点を意識しながら、自社に合ったシンプルなKPIから始めてみてください。 戦略会計の実践・3つの会計の総括など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第3回 経営者のための会計入門 ~管理会計の実践①——「黒字倒産」を防ぐ資金繰り表の読み方~
「売上も順調に伸びているし、利益もしっかり出ている。それなのになぜ現金がないのか?」——これは多くの中小企業経営者が抱える悩みです。今回は、管理会計の実践第一弾として、企業の血液とも言える「資金繰り(キャッシュフロー)」の管理について解説します。 ポイント① 利益とキャッシュはなぜズレるのか 会計上の「利益」と手元の「キャッシュ(現金)」の動きは一致しません。財務会計の損益計算書(PL)は「発生主義」というルールに基づいて計算されます。たとえば、商品を引き渡した時点で「売上(利益)」が計上されますが、実際の代金が銀行に振り込まれるのは数ヶ月先ということがよくあります。 このタイムラグの間に、仕入代金・外注費・人件費などの支払いが先行して到来すれば、帳簿上は黒字でも手元の資金がショートし、最悪の場合は「黒字倒産」に陥ります。極端に言えば、利益は会計ルールの見積もりが混ざった「意見」に過ぎませんが、キャッシュの増減は誰が計算しても同じ「絶対的な事実」なのです。 ポイント② 減価償却費という「非資金費用」の存在 利益とキャッシュのズレを生むもうひとつの大きな要因が「減価償却費」です。設備投資をした際、支払った現金は過去に出ていっているにもかかわらず、会計上は数年に分けて費用(減価償却費)として計上されます。 つまり、減価償却費は「PL上の利益を減らすが、実際には現金の流出を伴わない費用(非資金費用)」です。こうした会計特有のズレを理解しなければ、手元の資金を正しく把握することはできません。 ポイント③ 資金繰り表でキャッシュの動きを可視化する 黒字倒産を防ぐための最重要ツールが「資金繰り表」です。これは過去のPLの分析ではなく、「来月・再来月・半年後に、現金がいくら入ってきて、いくら出ていくのか」を月別に予測し管理するための表です。 月次決算の数字をもとに資金繰り表を毎月更新することで、資金ショートの危険を数ヶ月前に察知し、余裕を持って対策を打つことが可能になります。企業の存続を支える命綱は、利益ではなくキャッシュです。 まとめ PLの黒字に安心せず、「キャッシュの動きを別途管理する習慣」を持つことが、黒字倒産を防ぐ最大の防衛策です。資金繰り表は財務会計のデータを活用して作成できるため、特別な準備は必要ありません。まずは3ヶ月先までのキャッシュの動きを予測することから始めてみてください。 KPI管理・戦略会計の実践など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第2回 経営者のための会計入門 ~財務会計を経営に活かす——月次決算の着地点は「スピード」~
年1回の決算書を税務申告のためだけに使っている経営者は少なくありません。しかし、会計が経営の羅針盤であるならば、それを1年に1回しか見ないというのは、目隠しをして航海しているのと同じです。1年分の数字をまとめて見て「今年は赤字だった」「資金が足りない」と気づいても、軌道修正できるタイミングを逃してしまうリスクがあります。 今回は、財務会計のデータを経営に活かすための第一歩として、「月次決算」の目的と実践について解説します。 ポイント① 月次決算の本当の目的は「異常値の早期発見」 月次決算の最大の目的は、単に毎月の数字を正しく集計することではありません。真の目的は、「実績と計画のズレ(異常値)を早期に発見し、次の一手を打つこと」にあります。 経営はPDCA(計画・実行・評価・改善)のサイクルを回すことですが、月次決算はその「C(評価)」の要となります。月次で数字を確認することで、問題が小さいうちに手を打てる体制が整います。 ポイント② 月次決算の着地点は「正確性よりスピード」 月次決算において重要なのは、「正確性よりもスピード」です。1円単位の正確さを求めて翌月末まで数字が出ないよりも、多少の見積もりを含んででも「翌月の10日」には大まかな業績を把握し、異常値があればすぐに対策を打てる状態にすることの方がはるかに重要です。 経営の異常値を早期に発見し次の一手を打つためには、多少の正確性を犠牲にしてでも早く数字を締める習慣が必要なのです。 ポイント③ 「どんぶり勘定」からの脱却——部門別・製品別の可視化 スピーディーな月次決算であっても、全社の原価を売上高の比率などで大雑把に割り振るような「どんぶり勘定」では意味が半減します。会社全体の利益はわかっても、「どの製品・どの部門が儲かっているのか、あるいは足を引っ張っているのか」という実態がブラックボックス化してしまうからです。 部門別・製品別の実態を迅速に可視化し、異常値を特定できる月次決算があって初めて、資金繰り管理や業績管理といった管理会計の歯車が回り始めます。 まとめ 月次決算は「毎月数字を集計する作業」ではなく、経営のPDCAを回すための「評価」の仕組みです。スピードと部門別の可視化を意識した月次決算を習慣化することで、会社の現状把握と意思決定のスピードが格段に上がります。 資金繰り表の読み方・KPI管理・戦略会計の実践など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第1回 経営者のための会計入門 ~財務会計・管理会計・戦略会計、3つの違いとは?~
自社の会計や決算を「税理士に申告を任せているだけ」になっていませんか?「数字は苦手だから」「専門家に任せておけば安心だから」と考える方も多いかもしれません。しかし、事業計画を立て、会社を成長させたいと考える経営者にとって、「会計リテラシー」を身につけることは、自社の経営をコントロールするための強力な武器となります。 今回から始まる新連載では、経営に役立つ会計を「財務会計」「管理会計」「戦略会計」の3つに分け、それぞれの役割と実践的な活用法を解説していきます。まずは3つの会計の決定的な違いを整理しましょう。 ポイント① なぜ経営者が会計を知る必要があるのか——「アカウンタビリティ」の真意 そもそも、なぜ会計が必要なのでしょうか。会計の重要な目的のひとつに「アカウンタビリティ(説明責任)」があります。これは単に「聞かれたら報告すればいい」という受動的なものではありません。 ビジネスの世界において、他人の資本(お金)を預かって事業を行う以上、「損失を被る可能性がある投資家や債権者に対して、自らの仕事ぶりを説明し、合理的に納得させて安心させる」という能動的な責任が生じます。会計は、経営者がこの責任を果たすための「世界の共通言語」なのです。つまり、会社において重要な仕事を「任される人」であり続けるためには、会計を学ぶことが不可欠です。 ポイント② ルールに従い過去を記録する「財務会計(制度会計)」 財務会計は、株主・銀行・税務署などの外部の利害関係者に向けて、過去の業績を示す決算書を作成するための会計です。会社法や税法などの厳格な法制度に従うため「制度会計」とも呼ばれます。なお、税金を正しく計算するための「税務会計」もこの制度会計の一部に位置づけられます。 ただし、画一的なルールに従うがゆえの限界もあります。制度会計の数字だけを見ていても、経営の真の姿や資金繰りのリスクを見誤る可能性があります。だからこそ、経営の実態を映し出す管理会計の視点が不可欠なのです。 ポイント③ 自由にルールを作り、現在と未来を管理する「管理会計」 管理会計は、企業内部で活用するための会計です。外部へ見せるものではないため、法的な縛りはなく、経営の実態に合わせて自由にカスタマイズして使えるのが最大の強みです。 管理会計は独自に別の帳簿をつけるわけではなく、財務会計で蓄積されたデータをベースに、経営判断に役立つ形に加工・再集計して活用します。たとえば、財務会計では「売上高1,000万円」という数字しかわかりませんが、管理会計では同じデータを使って商品別・部門別・エリア別に分解して分析することができます。 財務会計が「現在の正確な位置(座標)」を示す羅針盤だとすれば、管理会計は「これから船をどちらへ進めるか」を決めるための未来志向のツールと言えます。 ポイント④ 時間概念を取り入れ、中長期の未来を見据える「戦略会計」 管理会計をさらに中長期的な視点へと発展させたのが「戦略会計」です。管理会計が主に1年以内の業績管理(予算管理や日常的なコスト管理)を扱うのに対し、戦略会計は3〜10年先を見据え、設備投資・新規事業参入・事業撤退・M&Aといった企業の基本構造を左右する意思決定をサポートします。 ここでは「時間(将来の現金の価値)」の概念を取り入れることが最大の特徴です。何年も先のキャッシュフローを現在価値に割り引いて考えることで、投資の採算を厳密に判定します。 まとめ 財務会計はルールに従って過去を記録し外部へ説明責任を果たすもの。管理会計や戦略会計は、未来の意思決定のために経営者が自由にカスタマイズして使う「経営の武器」です。 月次決算の活用法・資金繰り表の読み方・KPIを使った業績管理・戦略会計の実践など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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最終回 目指すべきは「キャッシュリッチ企業」 ~税理士を財務のパートナーとして活用する~
節税の本来の目的は「手元に資金を残すこと」であり、お金が出ていく過度な節税は資金繰りを悪化させるリスクがあること、そして目先の節税が銀行からの融資枠(借入余力)を奪ってしまうジレンマについてお伝えしてきました。 最終回となる今回は、これまでの内容を踏まえ、会社を強くするための「経営の好循環」の作り方と、税理士の正しい活用法について解説します。 ポイント① 節税は事業拡大のための「投資原資」を作る手段 「真の節税」とは、単に支払う税金を減らすことではありません。事業の収益性を高め、結果として会社の手元に残るお金(キャッシュ)を最大化することです。手元に残ったお金は、会社を守る防衛資金になるだけでなく、次の事業拡大に向けた「投資の原資」となります。 成長を続ける強い会社は、例外なく以下のような「経営の好循環」を持っています。 ① 利益を出す 本業でしっかり稼ぐ ② 適正に納税する 無駄な節税で利益や現金を減らさない ③ 融資を受ける 利益を出しているため銀行の評価が高く、好条件で多額の資金を調達できる ④ 事業に投資する 潤沢な資金を人材・設備・マーケティングに投資する ⑤ さらに大きな利益を生み出す ①に戻り、サイクルが回り続ける この好循環を回し続け、手元に潤沢な資金を持つ「キャッシュリッチ企業」を目指すことが、どんな不況や環境変化にも負けない会社を作るための有効なアプローチです。 ポイント② 税理士を「節税の道具」にしてはいけない 利益が出始めると、「とにかく税金を安くしてほしい」と税理士に過度な節税策ばかりを求める経営者が少なくありません。しかし、税理士を単なる「税金を減らすための道具」として使ってしまうのは、会社にとって非常に大きな機会損失です。 国家資格を持つ税理士であっても、すべての税務や経営課題に万能なわけではありません。過去の数字を正確に処理する「日々の会計・申告作業」が得意な税理士もいれば、個人の「相続税」に特化した税理士や、会社の未来を見据えた「資金繰りや銀行融資、経営計画の策定」を強みとする税理士などがいます。 もしあなたの会社が事業の成長と資金繰りの安定を望むのであれば、「これなら税金が減りますよ」と目先の節税テクニックばかりを提案してくる専門家ではなく、数年先の会社の状態を見据えてアドバイスをしてくれる専門家を選ぶ必要があります。 ポイント③ 「財務のパートナー」としての税理士活用法 会社を成長させるためには、過去の数字をまとめる「財務会計(税務申告のための会計)」だけでなく、自社のお金の動きを把握し未来の計画を立てる「管理会計(経営のための会計)」の視点が不可欠です。 今、手元にいくら現金があるのか。次の設備投資や採用のタイミングはいつが適切か。銀行からどのように見られており、いくらまでなら借りられるか——こうした「経営の意思決定」に関わるお金の悩みを気軽に相談できる相手は、社内にはなかなかいません。 だからこそ、経営計画書の作成や資金繰りのシミュレーションを一緒に行い、社長の壁打ち相手になれる「財務のパートナー」として税理士を活用していただきたいのです。 まとめ 当事務所のブログでは、「事業計画書の作り方」「決算書と経営分析」「節税と資金繰り」と、一貫して「数字に強い経営」をテーマに情報発信を行ってまいりました。これらの記事が、会社をより良くしたいと願う経営者の皆様にとって、少しでも経営のヒントや気づきになれば幸いです。 当事務所では、適正な納税による社会的信用の獲得と、銀行融資を最大限に活用した資金繰り支援を通じて、地域の企業の成長を全力でサポートしております。自社の財務や資金繰りについて「一度しっかり専門家に見てほしい」とお考えの際は、どうぞお気軽にご相談ください。 ※本記事は掲載時点の法令・税制に基づいて作成しています。その後の税制改正等により、記載内容が現状と異なる場合があります。個別の税務判断については、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。 【参考文献】本連載の執筆にあたり、以下の書籍を参考にさせていただきました。 ・『ひとり社長の賢い節税』(杉田健吾 著/明日香出版社) ・『顧問先の銀行融資支援スキル実装ハンドブック』(諸留誕 著/日本法令) ・『激レア 資金繰りテクニック50』(菅原由一/幻冬舎)
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第4回 個人と法人の決定的な違い ~法人化で節税効果を最大化する方法~
これから起業を考えている方や、現在個人事業主として活動している方が、効率的にお金を手元に残しながら事業を拡大していくためには、どうすればよいのでしょうか。今回は、「個人事業主」と「法人(会社)」の決定的な違いと、法人化による節税メリットについて解説します。 ポイント① 個人と法人では「経費」の考え方が大きく違う 個人事業主と法人では、経費として認められる範囲が大きく異なります。 個人事業主の場合、「事業用の支出」と「私生活用の支出」が混ざりやすいため、事業に直接関連している部分のみを「家事按分」として計算しなければ経費として認められません。一方で法人には、法律上「私生活」という概念がありません。法人が使ったお金は、事業のために使ったという明確な理由(事業関連性)を説明できれば、原則としてすべて経費になります。 つまり、法人になるだけで個人では経費として認められにくかった支出を経費化できる可能性が大きく広がり、利益を圧縮しやすくなります。第2回でご紹介した「出張旅費規程」なども、この法人ならではの強みを活かした仕組みです。 ポイント② 法人ならではの絶大なメリット「給与所得控除」 個人と法人の最も大きな違いのひとつが、社長自身への「給料」の扱いです。 個人事業主の場合、事業で稼いだ利益はすべて「個人の所得」となり、自分自身に給料を支払って経費にすることはできません。しかし法人であれば、会社から社長(自分)へ「役員報酬」として給料を支払うことができます。役員報酬は会社の経費(損金)になるだけでなく、受け取る個人側でも「給与所得控除」という強力な非課税枠が適用されます。 これにより、事業の利益を「会社の利益」と「個人の給与」に分散させることができ、個人事業主のままでいるよりも世帯全体で支払う税金や社会保険料の負担を大幅に減らすことが可能になります。 ポイント③ 赤字の際のメリット「繰越欠損金」と、無視できないデメリット「均等割」 法人化のメリットは、利益が出ている時だけではありません。事業が赤字になった場合にも、法人には「繰越欠損金」という強力な制度があります。 個人事業主(青色申告)の場合、赤字を翌年以降に繰り越せる期間は「3年間」ですが、法人であれば「10年間」も繰り越すことができます。創業期などの赤字を長期にわたってストックしておき、将来大きな利益が出た際に相殺することで、税金を大幅に節約できます。 【注意】赤字でも発生する「均等割」の負担 ただし、「赤字が繰り越せるから、とりあえず法人化しよう」と安易に考えるのは危険です。法人の場合、たとえ赤字であっても、法人住民税の「均等割」として毎年最低でも約7万円の税金を支払う義務があります。事業を継続する強い意志がなく、売上も安定していない状況でむやみに法人化すると、コストと手間がかかるだけでなく、この均等割の負担が重くのしかかってしまいます。 ポイント④ 法人化を検討すべき「正しいタイミング」とは 日本の所得税は所得が高くなるほど税率が上がる累進課税制度のため、利益が増えるほど法人税のほうが有利になります。法人化を検討する目安として、以下のタイミングがよく挙げられます。 年商の目安 800万円〜1,000万円を超えてきたとき 利益(所得)の目安 500万円〜800万円になってきたとき ただし、これらはあくまで目安です。今後の事業計画や投資の予定、社会保険の加入義務など、メリット・デメリットを正しく理解したうえで自社に最適な選択をすることが重要です。最適なタイミングを見極めるためにも、ぜひ専門家である税理士にご相談ください。 まとめ 法人という「器」を正しく使うことで、個人事業主のままでは得られない多くの節税メリットや資金繰りの選択肢を手に入れることができます。ただし、維持コストや社会保険の加入義務・均等割などのデメリットも正しく理解した上で、自社に最適な選択をすることが重要です。 目指すべきキャッシュリッチ企業の姿・税理士を財務のパートナーとして活用する方法など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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