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第12回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~「自製か外注か」の意思決定と「埋没原価」の罠~
前回は、大口の割引注文を受けるべきかどうかについて、固定費を除外して考える「差額収支分析」を使って判断する方法をお伝えしました。今回はその応用編として、「部品やサービスを自社で作るべきか、それとも外部業者に委託(外注)すべきか」という意思決定について解説します。ここにも、経営者の判断を狂わせる「埋没原価(サンクコスト)」という恐ろしい罠が潜んでいます。 ポイント① 外注費の方が安い! すぐに切り替えるべき? 中堅の食品加工メーカー(H社)の製造会議での出来事です。H社では、自社製品に使用する「専用充填ノズル」を自社工場で製造(自製)しています。経理部が計算した、専用充填ノズル1個あたりの自製コストは以下の通りでした。 変動費(材料費・パートの賃金など) 2,000円 固定費(工場の家賃・機械の減価償却費の割り当て分) 1,500円 総コスト(自製単価) 3,500円 そんな中、購買部の担当者が外部の部品メーカーから魅力的な提案を持ち込んできました。「社長、同じ品質の専用充填ノズルを外部業者なら『1個3,200円』で納品してくれるそうです!」 これを聞いた社長は色めき立ちました。「ウチで作ると3,500円かかるのに、外注すれば3,200円で済むのか。1個あたり300円のコストダウンになるぞ。よし、来月から自社製造をやめて、すべて外注に切り替えよう!」 さて、社長のこの判断は正しいでしょうか。 ポイント② 過去の投資に引きずられるな——「埋没原価」とは 結論から言うと、このまま外注に切り替えると、H社はコストダウンどころか逆に大きく損をしてしまいます。 社長は「自製総コスト3,500円」と「外注費3,200円」を単純に比較してしまいました。しかし、意思決定の際には総コストの中に含まれる「固定費」の存在に注意しなければなりません。 専用充填ノズルを外注に切り替えて自社製造をやめたとしても、工場全体の家賃や、すでに購入してしまった機械の減価償却費といった固定費(1個あたり1,500円分)が、明日から急にゼロになるわけではありません。自社で作ろうが外注しようが、会社として支払い続けなければならないのです。 このように、「A案とB案、どちらの選択肢を選んでも金額が変わらない(すでに発生が確定しており後戻りできない)コスト」のことを、管理会計の世界では「埋没原価(サンクコスト)」と呼びます。意思決定において、この埋没原価を判断材料に入れてしまうと、必ず判断を誤ります。 ポイント③ 差額収支分析で正しく判断する 前回の「差額収支分析」を使って、外注に切り替えた場合の「キャッシュの増減(差額)」だけを正しくシミュレーションしてみましょう。 A案:外注に切り替える B案:自製を続ける 差額(A-B) 外注費の発生 -3,200円 0円 -3,200円 変動費の削減(材料費など) 0円 -2,000円 +2,000円 固定費の変化(埋没原価) 変わらず 変わらず 0円 キャッシュへの影響 -1,200円(外注の方が損) 外注に切り替えることで節約できるのは変動費の2,000円だけです。そのために3,200円の外注費を払うのですから、差し引きすると「1個あたり1,200円も会社のキャッシュが余計に出ていく」という全く逆の事実が浮かび上がります。表面的な総コストの数字に騙されず、埋没原価を除外して「差額」だけを見ることで、「現在の状況では自社で作り続けた方が得である」という正しい判断を下すことができます。 ポイント④ 「回避できる固定費」がある場合は要注意 ただし、例外もあります。もし専用充填ノズルを自製するため「だけ」に、専用の製造機械を月額50万円でリース契約していたとしたらどうでしょうか。外注に切り替えるのと同時にこのリース契約を即座に解約できるのであれば、この月額50万円は埋没原価ではなく「外注化によって削減できるコスト(回避可能原価)」として、差額収支分析のプラス要因に含めて計算しなければなりません。 固定費だからといってすべてが埋没原価になるわけではなく、「その意思決定によって本当に増減するキャッシュはどれか」を見極めることが重要です。 ポイント⑤ 戦略的アウトソーシングと「コア・コンピタンス」 ここまでは数字(コスト)の面からお話ししましたが、経営者の意思決定は数字だけで終わってはいけません。 仮に、数字のシミュレーションで「外注の方が圧倒的に安い」という結果が出たとしても、その部品が自社の競争力の源泉である「コア・コンピタンス(他社には真似できない中核的な強み)」であるならば、安易にアウトソーシングしてはいけません。自社の強みを外部に依存してしまうと、社内に技術やノウハウが蓄積されなくなり、将来的に致命的な痛手を負うリスクがあるからです。 逆に、他社と差別化にならない汎用的な部品や作業であれば、コストダウンのために積極的にアウトソーシングを活用すべきです。そして、外注化によって浮いた社内のリソースを自社の強みである製品開発など、より付加価値の高い活動に集中させる——これが単なるコスト削減を超えた「戦略的アウトソーシング」の真の姿です。 まとめ 「自製か外注か」を迷ったときは、自製コストの中に意思決定とは無関係な「埋没原価」が含まれていないかを必ずチェックし、未来のキャッシュの動き(差額)だけで損得を計算しましょう。そして、コストの損得だけでなく、自社の「コア・コンピタンス」を守り育てるという長期的な戦略視点を持つことが、強い企業を作るための条件です。 予算管理と差異分析・セールスミックスの意思決定・事業撤退の判断基準など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第11回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~大口の割引注文は受けるべきか?「差額収支分析」と「機会利得」~
CVP分析では「限界利益」の重要性や目標利益から売上高を逆算する方法をお伝えしてきました。今回はこれらの知識を応用して、経営者が日々直面する「A案とB案、どちらを選ぶべきか?」という具体的な意思決定の領域に入ります。 多くの経営者が一度は頭を悩ませる「大口の割引注文を受けるべきか否か」というリアルな問題を、「差額収支分析」という強力なツールを使って論理的に判断する方法を解説します。 ポイント① 赤字の注文? 現場と経理の対立 ある中堅金属部品メーカー(F社)の営業部長が、興奮気味に社長に報告してきました。 「社長、大手製造業者のS社から、ウチの主力製品である『精密金属部品』を2,000個作ってほしいと大口の注文が入りました!ただ、通常1個20,000円のところを今回は新規取引の特別価格として『2割引の16,000円』で納品してほしいとのことです。さらに、S社の工場への特別配送費として10万円が別途かかります」 これを聞いた経理部長が難色を示しました。「社長、その注文は受けるべきではありません。すべての経費を割り掛けると、1個あたりの総コストはだいたい18,000円になります。それを16,000円で売るなんて、売れば売るほど赤字になるだけです。しかも追加の配送費までかかるなんて論外です」 さて、社長であるあなたは、この2割引の注文を受けるべきでしょうか、それとも断るべきでしょうか。 ポイント② 意思決定の武器「差額収支分析」の考え方 「1個あたりの総コストが18,000円だから、16,000円で売ったら赤字になる」という経理部長の主張は一見正しそうに聞こえます。しかし、管理会計の意思決定においては、この考え方は間違っています。 なぜなら、既存の総コストの中には、売上が増えようが減ろうが金額が変わらない「固定費(工場の家賃や従業員の基本給など)」がたっぷりと含まれているからです。この注文を受けようが受けまいが、会社全体として支払うべき固定費の総額は変わりません。変わらないコストを意思決定の判断材料に入れてしまうと、判断を誤ります。 そこで登場するのが「差額収支分析」です。ある意思決定によって「新たにどれだけ売上(キャッシュ)が増え、新たにどれだけコスト(キャッシュ)が出ていくか」という差額(増減)だけを抜き出して比較する手法です。この選択によってもたらされる利益の増加額を「機会利得」と呼びます。 ポイント③ 限界利益を使ってシミュレーションする F社の精密金属部品のコスト構造を変動費と固定費に分解した上で、差額収支分析を行ってみましょう。 通常販売価格 20,000円 変動費(材料費・加工費など) 6,000円 通常時の限界利益 14,000円(20,000円-6,000円) 今回の特別販売価格 16,000円(2割引) 特別注文の限界利益 10,000円(16,000円-6,000円) 次に、「受注する(A案)」と「受注しない(B案)」の2案を差額収支で比較してみましょう。 A案:受注する B案:受注しない 差額(A-B) 売上の増加 16,000円×2,000個=32,000,000円 0円 +32,000,000円 変動費の増加 6,000円×2,000個=12,000,000円 0円 -12,000,000円 追加固定費(特別配送費) 100,000円 0円 -100,000円 利益への影響(機会利得) +19,900,000円 経理部長は「総コストが18,000円だから赤字だ」と主張していましたが、差額収支分析を行ってみると、この注文を受けることで「会社全体の利益が1,990万円も増加する」という全く逆の結論が導き出されました。工場に生産能力の余裕がある場合、既存の固定費は通常営業の限界利益ですでに回収されていると考えます。追加の注文は「限界利益がプラスになり、追加の個別固定費を賄える限り、受けた方が会社は儲かる」のです。 ポイント④ 数字だけでなく「定性的要因(リスク)」も考慮する 「1,990万円も利益が増えるなら、絶対にこの注文を受けるべきだ!」と即答するのは少し早計です。管理会計の数字はGOサインを出していますが、数字に表れない「定性的要因(リスク)」もしっかりと考慮しなければなりません。 「S社に16,000円で納品した」という情報が市場に漏れ、既存の優良顧客からも値下げ圧力がかかり、会社全体の価格破壊(値崩れ)が起きる危険性はないか 納品直後にS社が倒産し、売掛金がすべて焦げ付いてしまう貸倒損失のリスクはないか この特別注文で工場をフル稼働させた結果、正規価格(20,000円)での優良顧客からの急な注文を断らざるを得なくなる機会損失が発生することはないか 差額収支分析が提示する「+1,990万円の機会利得」という明確な数字と、こうした「将来のリスク」を天秤にかけ、最終的な経営判断を下すこと——これこそが、数字を使いこなす経営者の真骨頂です。 まとめ 大口の割引注文を受けるかどうかの判断は、既存の「総コスト」を基準にしてはいけません。意思決定によって生じる「売上の増加分」と「変動費+追加固定費の増加分」だけを比較する「差額収支分析」を用いて機会利得を計算しましょう。そして最後は、数字には表れないビジネス上のリスクも踏まえて総合的に決断することが重要です。 自製か外注かの意思決定・予算管理と差異分析など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第10回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~「利益は結果」ではない!目標利益から必要な売上高を逆算する~
CVP分析では、限界利益を使って「損益分岐点売上高」を求め、会社の不況への耐久力を測る方法をお伝えしました。今回は、CVP分析をさらに前進させ、経営者が描く「これだけは稼ぎたい」という目標利益から、必要な売上高を逆算する方法について解説します。 ポイント① 利益は「結果」ではなく、トップダウンで「最初に決めるもの」 多くの会社では「来期は売上〇%アップを目指そう!」という前年対比の売上目標が先行し、利益は「売上から経費を引いて最後に残った結果」として扱われがちです。 しかし、本来の管理会計における利益計画は逆でなければなりません。「来期は新しい設備投資にこれだけ必要だ」「借入金の返済にこれだけ必要だ」といった経営上の要請から、まず「最低限達成すべき目標利益」がトップダウンで決まります。そして、その目標利益を達成するためにはいくらの売上高が必要で、そのためにどれだけの費用が許容されるのかを逆算して求めるのです。利益は結果ではなく、経営者の意志として最初に決めるべきものです。 ポイント② 目標とする「利益額」から売上高を逆算する 「目標利益」を達成するための売上高を求める公式は、損益分岐点の公式を少し応用するだけです。固定費を全額回収した上でさらに利益を残したい場合は、回収すべき対象(分子)に目標利益を上乗せするだけです。 目標達成点売上高 =(固定費 + 目標営業利益)÷ 限界利益率 前回のE社(販売単価10,000円・変動費6,000円・限界利益率40%・固定費400万円)で、社長が「今期は絶対に100万円の営業利益を出したい!」と目標を立てた場合を計算してみましょう。 固定費 4,000,000円 目標営業利益 1,000,000円 限界利益率 40%(0.4) 目標達成点売上高 12,500,000円((4,000,000円+1,000,000円)÷0.4) 売上高1,250万円を達成すれば、目標利益100万円を稼ぎ出せることが逆算できます。検証すると、1,250万円の40%である500万円が限界利益となり、固定費400万円を差し引くとぴったり100万円の営業利益が残ります。 ポイント③ 目標とする「利益率」から売上高を逆算する 「金額ではなく、『売上高営業利益率10%』というパーセンテージを目標にしたい」という経営者もいるでしょう。これもCVPの公式を応用すれば逆算できます。 目標達成点売上高 = 固定費 ÷(限界利益率 - 目標とする売上高営業利益率) 固定費 4,000,000円 限界利益率 0.4 目標売上高営業利益率 0.1(10%) 目標達成点売上高 約13,333,333円(4,000,000円÷(0.4-0.1)) 売上高が約1,333万円になれば、営業利益率は10%に到達します。(1,333万円の40%の約533万円が限界利益。固定費400万円を引くと約133万円の営業利益となり、133万円÷1,333万円で見事10%になります) ポイント④ 究極の目標「ROA」から売上目標が導き出される 「売上高営業利益率10%」という目標はそもそもどのようにして決められたのでしょうか。ここが前半の経営分析とCVP分析が見事にドッキングする瞬間です。 第3回・第5回で学んだROAのデュポン・システムを思い出してください。 ROA = 売上高営業利益率 × 総資本回転率 E社の社長は「当社の事業の総合的な投資効率として、ROA12%は絶対に死守しなければならない」という経営の根本目標を持っていたとします。そして、現在の総資本回転率が「1.2回」であるとわかっています。 目標ROA 12%(0.12) 総資本回転率 1.2回 目標売上高営業利益率 10%(0.12÷1.2) 「ROA12%の達成」という経営トップの意志から「売上高営業利益率10%」という目標が導き出され、それがCVP分析の公式に当てはめられることで「売上高1,333万円の達成」という現場の具体的な販売目標へと、一本の線で見事につながりました。これが数字に裏打ちされた経営計画の真髄です。 ポイント⑤ 逆算から「次の一手」の経営戦略が生まれる こうして逆算された目標売上高(1,333万円)を見て、社長は現場の生産能力や市場の動向と照らし合わせます。「今の営業体制で、あと333万円も売上を伸ばせるだろうか?もし市場が飽和していて売上増が厳しいなら、限界利益率を上げる(値上げや仕入コストの削減)か、固定費を減らすしか、利益率10%を達成する道はないな」 このように、CVP分析を使って目標から逆算することで、「売上を伸ばすか、コストを下げるか、あるいはビジネスモデル自体を見直すか」という経営判断を、具体的な数字の裏付けをもって行えるようになります。 まとめ 「利益は結果として出るもの」ではなく、「経営の意志として最初に決めるもの」です。必要な利益額や利益率から、CVP分析を使って目標売上高を逆算する習慣を持ちましょう。これこそが、数字に裏打ちされた論理的な経営計画の第一歩です。 大口割引注文の採否判断・自製か外注かの意思決定など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第9回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~「損益分岐点売上高」を計算し、赤字転落への耐久力を測る~
前回はCVP分析の土台として、コストを「変動費」と「固定費」に分け、売上高から変動費を引いた「限界利益」の重要性をお伝えしました。今回はこの限界利益という武器を使って、経営者が絶対に知っておかなければならない数字、「損益分岐点売上高」の計算方法と、自社の不況に対する耐久力を測る「安全余裕率」について解説します。 ポイント① 公式はたった1つ。「損益分岐点売上高」の求め方 売上高と総コスト(変動費+固定費)がぴったり一致し、利益がちょうどゼロになる売上高のことを「損益分岐点売上高」と呼びます。これを求める公式は非常にシンプルです。 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率 「限界利益率」とは、売上高に対して限界利益が何%あるかを示す比率です(限界利益 ÷ 売上高)。限界利益率が40%の商品であれば、「売上高の40%の金額が固定費の回収パワーとして働く」ということです。会社が毎月支払わなければならない固定費の総額を、この「回収パワー(限界利益率)」で割り算することで、固定費を全額回収するために必要な売上高が逆算できます。 ポイント② 実際に計算して、利益構造を検証してみよう 架空の中小メーカー・E社(単一商品を扱う製造業)のデータを使って実際に計算してみましょう。 商品の販売単価(売上高) 10,000円 1個あたりの材料費など(変動費) 6,000円 1個あたりの限界利益 4,000円(10,000円-6,000円) 限界利益率 40%(4,000円÷10,000円) 毎月の固定費(家賃・人件費など) 4,000,000円 損益分岐点売上高 10,000,000円(4,000,000円÷0.4) E社は月に「1,000万円」の売上を達成した瞬間に黒字へと浮上します。検証してみると、売上高1,000万円のとき変動費は600万円(60%)、限界利益は400万円となり、固定費400万円をピッタリ全額支払えます。限界利益400万円-固定費400万円=営業利益0円。見事に損益分岐点であることが証明できました。 ポイント③ ウチの会社は不況に強いか?「安全余裕率」で測る 損益分岐点売上高が計算できたら、それを現在の実際の売上高と比べてみましょう。ここから会社の安全性(不況への耐久力)を測る「安全余裕率(経営安全率)」が導き出せます。 安全余裕率 =(現在の売上高 - 損益分岐点売上高)÷ 現在の売上高 × 100 E社の現在の売上高が「1,250万円」だったとします。 現在の売上高 1,250万円 損益分岐点売上高 1,000万円 安全余裕率 20%((1,250万円-1,000万円)÷1,250万円×100) この「20%」は「今の売上が20%落ちても赤字にならない」という、赤字転落までの余裕度を表しています。安全余裕率が5%しかない会社は、ほんの少しの売上減であっという間に赤字に転落します。一方で20〜30%ある会社であれば、社長は焦ることなく次の一手を打つための十分な時間を稼ぐことができるのです。 ポイント④ 「固定費型」と「変動費型」のビジネスモデルを知る 安全余裕率を高める(損益分岐点を下げる)ためには、「固定費を減らす」か「限界利益率を上げる」しかありません。ビジネスモデルによってコスト構造は大きく異なります。 固定費型(資本集約型) 変動費型(労働集約型) 代表業種 製造業・ホテル業など 卸売業・外注メインのIT業など コスト構造 固定費が重く損益分岐点が高い 固定費が少なく損益分岐点が低い 不況時のリスク 売上減少で一気に赤字転落しやすい 赤字になりにくく安全余裕率が高い 好況時のリターン 損益分岐点超えると利益が爆発的に増える 売上増加と同時に変動費も増えるため利益は伸びにくい リスク特性 ハイリスク・ハイリターン ローリスク・ローリターン 「ウチは固定費型だから、売上が少しでも落ちると命取りになる。常に強気の営業攻勢が必要だ」「今は経済環境が不透明だから、固定費を減らして業務を外注化し、変動費型にシフトして安全余裕率を高めよう」——CVP分析は、こうした経営の舵取りに極めて重要な示唆を与えてくれます。 まとめ 「いくら売れば黒字になるのか」「売上が何%落ちたら赤字に転落するのか」——この2つの問いに即答できる経営者の会社は、危機に直面しても強いです。毎月の決算書が出たら、「固定費 ÷ 限界利益率」で損益分岐点売上高を計算し、自社の安全余裕率を定点観測する習慣をつけてみてください。 目標利益から必要売上高を逆算する方法・大口割引注文の採否判断など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第8回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~赤字と黒字の境界線を見極める!CVP分析と「限界利益」の正体~
「売上がいくらになれば黒字になるのか?」「値引きをしてでも大口注文を受けるべきか?」——経営者が日々直面するこうした悩みを、数字を使って論理的に解決するための強力なツールが「CVP分析」です。今回はその土台となるコストの分類と、真の儲けを示す「限界利益」について解説します。 ポイント① 決算書のP/Lでは「未来の利益」が予測できない CVP分析の「CVP」とは、Cost(コスト・費用)、Volume(販売数量や売上高など)、Profit(利益)の頭文字をとったものです。この3つの関係を分析することで、「売上がこれだけ増えれば、利益はこれだけ増えるはずだ」という未来のシミュレーションが可能になります。 しかし、税務署や銀行に提出する一般的な決算書(制度会計のP/L)をそのまま使っても、このCVP分析は正しく行うことができません。なぜなら、決算書のP/Lは費用を「売上原価」と「販売費及び一般管理費」という「目的」に応じて分けているだけだからです。売上原価の中には「材料費(売上に比例して増える)」もあれば「工場の家賃や機械の減価償却費(売上がゼロでも発生する)」も混ざっています。売上の増減によってコストがどう動くかという「性質」で分けられていないため、未来の予測に使うことができないのです。 ポイント② コストを「変動費」と「固定費」に分ける(固変分解) CVP分析を行うための絶対条件として、会社で発生するすべてのコストを「変動費」と「固定費」の2つに分類し直す作業が必要になります。これを「固変分解」と呼びます。 変動費 売上高や販売数量の増減に比例して増えたり減ったりするコストです。商品の仕入原価・直接材料費・外注費・販売手数料などが代表例です。売上がゼロなら変動費もゼロになります。 固定費 売上高の増減とはまったく関係なく、毎月一定額が発生するコストです。正社員の人件費・オフィスの家賃・機械設備の減価償却費・リース料などが該当します。売上がゼロであっても必ず発生します。 「一つひとつ変動費と固定費に分けるなんて難しそう」と身構える必要はありません。中小企業の実務においては、勘定科目の性格を見て「材料費は変動費、人件費や家賃は固定費」といった具合に一意的に決めてしまう「勘定科目法(中小企業庁方式など)」で十分役に立ちます。 ポイント③ 会社の本当の儲けを示す「限界利益」と「固定費の回収」 コストを変動費と固定費に分けたら、経営管理において最も重要な利益概念の登場です。それが「限界利益」です(管理会計の世界では「貢献利益」や「変動利益」と呼ばれることもあります)。 限界利益 = 売上高 - 変動費 具体的な例で考えてみましょう。D社は新規事業としてキッチンカーでクレープを販売することにしました。 販売価格(売上高) 1個 500円 材料費・包材費(変動費) 1個 200円 1個あたりの限界利益 300円(500円-200円) 車両レンタル・出店料(固定費) 1日 15,000円 1個売れるたびに300円の限界利益が生まれますが、これはそのまま純粋な儲け(営業利益)になるわけではありません。売上があろうとなかろうと1日に必ず発生する「固定費15,000円」を全額回収して初めて黒字になるからです。 つまり、限界利益とは「重たい固定費を回収し、さらに利益を生み出すための原資」なのです。クレープがちょうど「50個」売れたとき、限界利益の合計が15,000円(300円×50個)となり、固定費を全額回収できます。ここが赤字と黒字の境界線(損益分岐点)です。そして51個目からは、限界利益300円がそのまま丸々営業利益として手元に残っていきます。 ポイント④ 限界利益は会社が生み出した「付加価値」である 限界利益は、見方を変えれば「付加価値」そのものです。外部から買ってきた材料(変動費)に、自社のノウハウやサービスという価値を上乗せして販売した結果が限界利益です。会社はこの稼ぎ出した限界利益(付加価値)の中から、従業員に給料(固定費)を払い、家賃(固定費)を払い、最後に残ったものが営業利益となります。 売上高に対する限界利益の割合を「限界利益率」と呼びます。先ほどのクレープであれば300円÷500円=60%です。 利益を出したいと考えたとき、むやみに「売上を増やせ!」と号令をかけるだけでは不十分です。「販売価格を上げる」「材料費(変動費)を下げる」といった努力によって、この限界利益(付加価値)そのものを大きく稼ぐ視点を持たなければ、いくら売上が増えても忙しいだけで会社にお金は残らないのです。 まとめ 決算書上の「営業利益」という結果だけを見ていても、経営の次の一手は打てません。自社のコストを変動費と固定費に分け、「限界利益(売上高-変動費)」を把握すること。そして「自社の商品・サービスは、固定費の回収にどれだけ貢献しているか」という視点を持つことが、強い経営を作るための第一歩となります。 損益分岐点の求め方・目標利益から必要売上高を逆算する方法など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第7回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~「結果」だけでなく「原因」を管理する。未来を創る「BSC」~
ROA・ROE・資本回転率・EBITDAなど、P/LやB/Sを使った数字の分析手法をお伝えしてきました。これらはいずれも、会社の実力や異常値を客観的に測る不可欠な指標です。しかし、実はこれら「財務の数字」だけをいくら厳しく追いかけても、会社の未来を良くすることはできません。 今回は、決算書の数字が持つ「限界」を知り、未来の業績をコントロールするための強力な経営ツール「BSC(バランスト・スコアカード)」について解説します。 ポイント① 財務指標は「過去の結果(遅行指標)」にすぎない 「来期は売上を10%上げろ!」「営業利益率を改善しろ!」——経営会議でよく聞かれる社長の号令です。しかし、現場の社員に向かってこのように叫んでも、業績はそう簡単には上がりません。 なぜなら、売上高・利益・ROA・EBITDAといった財務指標は、すべて「過去に行われた経営活動の最終的な結果」を表すものだからです。経営管理の世界では、こうした結果の数字を「遅行指標(遅れて現れる指標)」と呼びます。 スポーツに例えれば、決算書は「スコアボード」です。スコアボードの得点だけを睨みつけて「もっと点を取れ!」と怒鳴っても試合には勝てません。得点を取るためには「素振りの回数を増やす」「エラーをなくす」といった具体的な「現場のプレー(原因)」を改善する必要があります。財務という「結果」を良くするためには、その原因となる「現場の具体的な行動」を管理しなければならないのです。 ポイント② 未来を創る「BSC(バランスト・スコアカード)」の4つの視点 財務の結果を導き出す「原因」を管理するために1990年代にアメリカで開発され、今や世界中の企業で導入されているのが「BSC(バランスト・スコアカード)」です。BSCでは、会社を「財務」だけでなく、財務を良くするための「原因」となる3つの視点を加え、合計4つの視点でバランスよく管理します。 ① 学習と成長の視点 従業員のスキルアップ・ITシステムの導入・モチベーションの向上など、会社の基礎体力を高めイノベーションを生み出すための視点。すべての出発点となる最も根源的な原因。 ② 内部プロセスの視点 業務の効率化・不良品やミスの削減・納期の短縮など、現場のオペレーションをどれだけ優れたものにするかという視点。 ③ 顧客の視点 内部プロセスを改善した結果として得られる、顧客満足度の向上・クレームの減少・リピート率のアップ・新規顧客の獲得といった視点。 ④ 財務の視点 上記3つの結果として最終的に現れる、売上高の増加・コスト削減・ROAの向上・キャッシュフローの改善といった財務成果(結果指標)。 ポイント③ 「原因と結果」のストーリーで未来をデザインする BSCが優れている最大のポイントは、4つの視点が「原因と結果(因果関係)」のストーリーとして一本の線で繋がっていることです。たとえば、経営分析によって「利益率が低下している」という異常値(結果)を見つけたとします。この改善策をBSCのストーリーに落とし込むと以下のようになります。 ① 学習と成長 従業員にITツールの研修を受けさせ、スキルを向上させる ↓ ② 内部プロセス 発注業務・在庫管理がシステム化され、業務効率が上がり発注ミスが減る ↓ ③ 顧客 ミスがなくなり納期が短縮されることで、顧客の信頼度が高まりリピート率がアップ ↓ ④ 財務 売上が安定し、残業代・在庫ロスが減ることで、営業利益率が向上する 経営者は「利益を上げろ」という結果(財務)だけを現場に求めるのではなく、「来月までにこのIT研修を全員受講しよう(学習と成長)」「今期の不良品率を〇%以下に下げよう(内部プロセス)」といった、現場の社員が自らの努力でコントロールできる具体的な「原因(先行指標)」を目標として設定してあげる必要があります。 ポイント④ 失敗する企業の罠——「単なるKPIの羅列」になっていないか 日本の中小企業でもBSCを導入しようとして失敗するケースが多々あります。その最大の原因は「4つの視点のストーリーが繋がっていないこと」です。経営者が各部門の要望を聞きすぎた結果、以下のような関連性のない目標をバラバラに詰め込んでしまうのです。 財務の目標:「とにかく売上10%アップ」 顧客の目標:「新規顧客の獲得」 内部プロセスの目標:「残業代の削減(コストダウン)」 学習と成長の目標:「資格取得者の増加」 これでは「新規顧客を獲得するために忙しいのに、残業は減らせと言われ、さらに資格の勉強までしろというのか」と現場は混乱し疲弊してしまいます。 BSCは「あれもこれもやるためのチェックリスト」ではありません。経営者が自社の強みと弱みを見極め、「これをやれば、必ず財務の成果に繋がるはずだ」という研ぎ澄まされた一本のストーリー(戦略の仮説)を提示するためのツールなのです。 まとめ 決算書の財務指標は、経営の「現在地を確認する精度の高いGPS」です。しかし、未来の目的地へたどり着くためには、BSCのような「原因と結果のストーリー」を描き、現場を動かす運転技術が必要です。過去の数字を正しく分析して現在地を知り、未来への論理的なストーリーを描く——この両輪が揃ってこそ、環境の変化に負けない強い経営が実現します。 CVP分析・損益分岐点など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第6回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~帳簿上の利益に騙されない!キャッシュを稼ぐ力を測る「EBITDA」~
「今期の営業利益は1,000万円の黒字です!」——経理担当者からそう報告を受けたものの、「しかし、通帳にはそんなにお金は残っていないぞ。一体どこに消えたんだ?」という疑問が頭を離れない経営者は少なくありません。 今回は、決算書の「利益」という数字に隠されたもう一つの罠を解き明かし、会社が本業で「実際に現金をいくら稼ぎ出しているのか」を正しく測る実践的な指標についてお話しします。 ポイント① 黒字なのに現金がない? 利益とキャッシュのズレ 損益計算書(P/L)の利益と、実際の手元の現金(キャッシュ)の動きは必ずしも一致しません。そのズレを引き起こす最大の要因が「減価償却費」という費用の存在です。 ある金属加工業(Z社)が、生産能力を上げるために5,000万円の最新鋭の加工機械を現金で購入したとします。この5,000万円は購入した年に一括で費用計上できません。「この機械は今後10年間にわたって利益を生み出すのだから、毎年500万円ずつ費用として計上しなさい」というのが会計のルールです。これが減価償却です。 するとどうなるでしょうか。 購入した1年目:通帳から5,000万円の現金がドカンと出ていったのに、P/L上の費用(減価償却費)は500万円しか計上されません。→「帳簿上は黒字なのに、手元の現金はすっからかん」 2年目以降:現金の支払いは一切ないのに、毎年500万円の減価償却費が帳簿上の費用として引かれ続けます。→「帳簿上は赤字(または薄利)なのに、なぜか手元には現金が残っている」 ポイント② 真のキャッシュ創出力を測る「EBITDA」とは 多額の設備投資を行っている会社では、減価償却費の影響によってP/Lの営業利益が実態よりも大きく押し下げられます。そこで、帳簿上の利益ではなく「会社が本業で実際に現金をどれだけ稼ぎ出したか」をP/Lから簡易的に計算する指標が「EBITDA(イービットディーエー)」です。 EBITDA = 営業利益 + 減価償却費 本業の儲けである「営業利益」に、実際には現金が出ていっていない費用である「減価償却費」を足し戻すだけです。Z社の2年目の決算を例に見てみましょう。 営業利益 ▲100万円(赤字) 減価償却費(足し戻し) +500万円 EBITDA(真のキャッシュ創出力) 400万円のプラス P/Lだけを見ると「本業が赤字で苦しい会社」に見えますが、EBITDAを計算してみると「本業でしっかりと400万円の現金を稼ぎ出している会社」へと評価がガラリと変わります。M&A(企業買収)の現場や銀行が企業の返済能力を審査する際、表面的な営業利益だけではなく、必ずこのEBITDAを計算して「本当の実力」を見抜いています。 ポイント③ 借入金の「返済原資」はEBITDAから生まれる 中小企業の経営者にとって、EBITDAを把握することは死活問題です。なぜなら、銀行から借りた借入金の元本返済は、このEBITDA(に近いキャッシュ)の中から行わなければならないからです。 多くの経営者が勘違いしていますが、借入金の「支払利息」はP/Lの費用になりますが、「元本の返済」は費用にはなりません。つまり、税引後利益と減価償却費を足し合わせたものが企業が1年間に生み出した真のキャッシュであり、借入金元本の「返済原資」となるのです。 Z社が機械購入のために銀行から毎年500万円の元本返済を約束して借入を行っていたとします。 Z社のEBITDA(キャッシュを稼ぐ力) 400万円 銀行への年間元本返済額 500万円 不足額 ▲100万円(返済不能) 本業で稼いだキャッシュをすべて返済に充てても100万円足りず、いずれ必ず資金ショートを起こしてしまいます。「ウチは減価償却費が大きいから赤字になっているだけで、実態は大丈夫だ」と強がる社長がいますが、それはEBITDAが借入金の年間返済額をしっかりと上回っている場合にのみ言えることです。 自社のEBITDAを計算し、それが年間の借入金返済額をカバーできているかをチェックすること——これが、経営分析から得られる最も重要でリアルな「次の一手」の判断材料となります。 まとめ P/Lの「営業利益」は会社の業績を測る大切な指標ですが、減価償却費という非資金項目の影響を強く受けています。帳簿上の利益に一喜一憂するのではなく、「営業利益+減価償却費=EBITDA」を計算する習慣を持ちましょう。自社が本業でいくらの現金を稼ぎ出しているのか、そのキャッシュは借入金の返済に耐えうる規模なのかを把握することが、安全で強い会社を作る基盤となります。 BSCを活用した業績管理・CVP分析・損益分岐点など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第5回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~「総資本回転率」の魔法。薄利多売でも利益効率を高める方法~
前回は、借入金を活用してROEを飛躍的に高める「財務レバレッジ」の魔法と、それに伴う倒産リスクのジレンマについて解説しました。今回は、借金という危険な劇薬に頼らずに、会社の総合的な稼ぐ力である「ROA(総資産利益率)」を劇的に高める、もう一つの健全な魔法についてお話しします。 ポイント① ROAを2つの要素に分解する「デュポン・システム」 ROA(総資産利益率)は、アメリカの化学メーカーであるデュポン社が開発した「デュポン・システム」と呼ばれる分析手法を用いると、さらに2つの要素に分解することができます。 ROA = 売上高利益率 ×総資本回転率 売上高利益率 売上に対してどれだけの利益が残るか(収益性) 総資本回転率 投下した総資産の「何倍」の売上を稼ぎ出したか(資産の運用効率) 多くの経営者は「利益を増やそう」と考えたとき、「売上高利益率(コストダウンや値上げ)」ばかりに目を向けがちです。しかし、「総資本回転率(手持ちの資産をどれだけ高速で回転させて売上を作ったか)」という視点を持つことで、経営の打ち手は大きく広がります。 ポイント② 薄利多売でも儲かるカラクリ——「利益率」と「回転率」の掛け算 「ウチは業界柄、どうしても利益率が低くて……」と嘆く経営者がいらっしゃいますが、悲観する必要はありません。ビジネスモデルによって、ROAの高め方には「利益率で稼ぐ」か「回転率で稼ぐ」かの2つの道があるからです。 完全受注生産の「高級オーダーメイド家具店(X社)」と、駅前で「立ち食いそば店(Y社)」を多店舗展開する会社を比較してみましょう。 X社:高級オーダーメイド家具店 Y社:立ち食いそば店 ビジネスモデル 高利益率・低回転 低利益率・高回転 売上高利益率 10% 2% 総資本回転率 1回 5回 ROA 10%(10%×1回) 10%(2%×5回) 立ち食いそば店(Y社)の売上高利益率は、高級家具店(X社)のわずか5分の1しかありません。しかし、食材を素早く仕入れて次々にお客様に提供して売り切る(回転率を極限まで高める)ことで、総資産の5倍もの売上を稼ぎ出しています。結果として、どちらのROAも同じ10%になるのです。利益率が低いなら、回転率を上げればいい——これが「総資本回転率の魔法」です。 ポイント③ 「コストダウン命!」が陥る矛盾 「利益率を高めながら、同時に回転率も高められれば最高だ」と誰もが考えます。しかし、現実の商売においてこの両立は非常に困難です。 たとえば、利益率を改善しようと「コストダウン命!」と号令をかけ、仕入先を安価で低品質な業者に切り替えたり、利益を確保するために販売価格を値上げしたりしたとします。すると一時的に「売上高利益率」は上昇するかもしれません。しかし、商品の魅力が落ちたり割高感が出たりすることで、確実にお客様の足は遠のき、商品が売れ残って在庫が滞留し、「総資本回転率」が急激に低下してしまいます。 逆に、仕入価格と販売価格の間にわずか「1円」でも利幅があるならば、薄利であってもそれを一生懸命に売り続けることが、総資本回転率を高め、会社全体の利益を最大化することに繋がるケースも多々あります。 ポイント④ 会社を身軽にする——稼がない「死蔵品」を見直そう 総資本回転率は「売上高 ÷ 総資産」ですから、分子の「売上高」を増やすか、分母の「総資産」を減らすかのどちらかです。しかし、売上を急に何倍にも増やすのは至難の業です。 そこで経営者が真っ先に取り組むべき最も現実的な打ち手は、「分母である総資産を小さくする(会社を身軽にする)」ことです。貸借対照表(B/S)の資産の部をじっくりと見直してみてください。売上を生み出していない「稼がない資産」が眠っていないでしょうか。 長期間倉庫の奥でホコリをかぶっている「不良在庫(デッドストック)」 昔買ったものの、今は全く稼働していない「遊休設備」 期日を過ぎても回収できていない「不良売掛金」 こうした「死蔵品」を抱え込んでいると、分母である総資産が無駄に膨れ上がり、総資本回転率を著しく押し下げます。思い切って不良在庫を値引きしてでも処分して現金化し、使っていない設備は売却する。そして得られた現金で借入金を返済すれば、会社の総資産(分母)は確実に小さくなります。利益の「額」は一切変わらなくても、会社をスリムにすることで総資本回転率が向上し、ROAが劇的に改善するのです。 まとめ 「ROA = 売上高利益率 × 総資本回転率」です。自社のビジネスモデルが「利益率で勝負するタイプ」なのか「回転率で勝負するタイプ」なのかを見極めましょう。そして、むやみなコストダウンが回転率を低下させる矛盾に注意しつつ、B/Sに眠る「稼がない資産」を処分して会社を身軽にする視点を持ってみてください。 EBITDAによるキャッシュを稼ぐ力の測り方・BSCを活用した業績管理・CVP分析など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第4回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~ROEを高める「財務レバレッジ」と、倒産を防ぐ「安全性分析」のジレンマ~
前回は、経営者目線の「ROA(総資産利益率)」と株主目線の「ROE(自己資本利益率)」について解説しました。投資家や株主は、単なる利益の「金額」ではなく、投下した資本に対する「パーセンテージ(効率)」を重視します。今回は、その「ROE」を劇的に引き上げる、ある種の「魔法」についてお話しします。しかし、その魔法には「会社の安全性」を犠牲にするという重い代償が伴います。 ポイント① 借金をして利益効率を高める「財務レバレッジ」の魔法 ROEは、次のように2つの要素に分解することができます。 ROE = ROA × 財務レバレッジ(総資産合計 ÷ 純資産) ここで登場する「財務レバレッジ」とは「てこ」のことです。借金(他人の資本)をてこにして少ない自己資金で大きな投資を行い、自己資本に対するリターン(ROE)を飛躍的に高める効果を「財務レバレッジ効果」と呼びます。 手持ちの自己資金が1億円あり、利回り10%が見込める賃貸マンションの投資案件があったとします。 A案:無借金で投資 B案:9億円借りて10億円投資 投資額 1億円(自己資金のみ) 10億円(自己資金1億円+借入9億円) 事業の利益(利回り10%) 1,000万円 1億円 支払利息(借入金利3%) なし 2,700万円(9億円×3%) 最終利益 1,000万円 7,300万円 ROE(自己資金1億円に対する利回り) 10% 73% 無借金のA案ではROE10%でしたが、借金をしたB案ではROEが73%にまで跳ね上がりました。事業そのものの利益率(ROA)は同じ10%でも、負債の依存率を高めて大きな投資を行えば、出資者にとっての投資利回り(ROE)は飛躍的に高まります。これが財務レバレッジの魔法です。 ポイント② 「魔法」が引き起こす逆回転——自己資本比率の悪化 「銀行の金利以上に利回りが稼げるなら、借金をして投資した方が得じゃないか!」と思うかもしれません。しかしこの魔法には決定的な弱点があります。それが借金が増えることによる「自己資本比率の悪化」という安全性の低下です。 A案の自己資本比率は100%(非常に安全)ですが、B案の自己資本比率はわずか10%(自己資金1億円÷総資産10億円)しかありません。もし経済環境が悪化して、不動産投資の利回りが10%から2%に落ち込んだらどうなるでしょうか。 A案(無借金) B案(借入9億円) 利回り低下後の利益(2%) 200万円 2,000万円 支払利息 なし 2,700万円 最終損益 200万円の黒字 ▲700万円の赤字 倒産リスク なし 資金ショートの危険 借金をして投資をするということは、事業がうまくいっている時はレバレッジが効いてリターンが高まりますが、事業が少しでも傾いた時にはそのレバレッジが「逆回転」し、一気に赤字転落・資金ショート(倒産)の危険性を高める諸刃の剣なのです。 ポイント③ 無借金経営=善とは限らない。アクセルとブレーキの最適バランスを探す 中小企業の経営において、「安全性を高める(倒産リスクを減らす)」ことと「ROEを高める(資本効率を上げる)」ことは、往々にしてトレードオフ(あちらを立てればこちらが立たず)のジレンマに陥ります。 自己資本比率を高めて安全性を追求しすぎると、投資効率(ROE)が悪化し、「資金を遊ばせていて成長しない会社」になってしまいます。 逆に、ROEの向上を求めて借金(財務レバレッジ)を増やせば、自己資本比率が低下し、不況時にたちまち倒産の危機に瀕することになります。 会社としては、無借金経営が常に望ましいわけではなく、会社の置かれた状況や環境によって、都度あるべき借入の割合を検討する必要があります。これは経営者と、その判断を数字で支える顧問税理士などの専門家が連携して取り組むべき重要な課題です。 経営分析の数字は、このアクセル(収益性)とブレーキ(安全性)の踏み具合を客観的なデータとして突きつけてくれます。自社の現在の自己資本比率とROEを見比べながら、「今のウチの会社は、もう少しアクセルを踏んで勝負に出るべきか、それともブレーキを踏んで安全性を高めるべきか」を考えてみてください。 まとめ ROEを高めるには、借入金を活用する「財務レバレッジ」という強力な方法があります。しかしそれは、不況時に倒産リスクを高める「自己資本比率の低下」と表裏一体です。会社の「稼ぐ力(収益性)」と「潰れない力(安全性)」の最適バランスを見つけることこそが、経営者の最も重要な役割のひとつです。 資本回転率・損益分岐点・CVP分析など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第3回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~会社が本当に儲かっているかを示す真の指標「ROA」と「ROE」~
P/Lの利益を「比率」で見ることでコスト体質の変化を見抜く方法をお伝えしてきました。今回は、P/L(利益)とB/S(資産・負債・純資産)の数字を組み合わせ、企業の「真の稼ぐ力」を測る指標について深掘りしていきます。 ポイント① 利益の「額」だけを追う罠——「前年超え」の落とし穴 日本企業の多くの経営者や部門責任者は、「部門損益(P/L)」だけを見ています。「前年度よりも売上を増やす、利益の金額を増やす」という「前年対比型」の目標には一生懸命に取り組みますが、「その利益を出すために、いくらの資産(お金)を会社から預かっているのか」を把握している人は驚くほど少ないのが現実です。 たとえば、「今期は営業利益が5,000万円出た!前年の3,000万円から大幅アップだ!」と喜んでいる会社があったとします。しかし、その利益を出すために銀行から多額の借金をして5億円の新工場を建て、大量の在庫を抱え込んでいたとしたらどうでしょうか。投資額が何倍にも膨れ上がっているのに利益が2,000万円しか増えていないのであれば、それは「投資効率が悪化している(商売が下手になっている)」ことを意味します。 ビジネスの基本は「リスクに見合ったリターンを得ること」です。「いくら稼いだか(利益の額)」だけでなく、「いくら投資して、その利益を稼ぎ出したか(投資に対する効率)」を見なければ、会社が本当に儲かっているのかを正しく評価することはできません。 ポイント② 誰の目線で「稼ぐ力」を測るか——ROAとROE 「投資とリターン」の関係を、誰の目線で見るかによって使う指標が変わります。 ROA(総資産利益率) 「経営者」の目線。経営者は借入金も含めた「すべての財産(総資産)」を投資として運用しています。その全財産を使って、どれだけ利益を稼いだかを示します。 ROE(自己資本利益率) 「株主」の目線。株主にとって会社の正味財産こそが自らの「投資金額」です。株主が投下した自己資本(純資産)に対して、どれだけリターン(当期純利益)を生み出したかを示します。 ここで、架空の中堅メーカー・C社の2つの事業部をROAの視点で比較してみましょう。 X事業部 Y事業部 営業利益 5,000万円 3,000万円 使っている総資産 10億円 3億円 ROA 5% 10% C社の社長はこれまで利益の「額」だけを見て、5,000万円を稼ぎ出すX事業部ばかりを高く評価し、エース級の人材と資金を投入していました。しかしROAを計算してみると事態は一変します。Y事業部の方が、少ない資産で効率よく利益を稼ぎ出している「優秀な事業部」であることがわかります。この事実に気づいた社長は、次期の中期経営計画において資金を投下する優先順位をY事業部へと切り替えるという、合理的な「次の一手」を打つことができました。 ポイント③ 株主・投資家は「額」ではなく「パーセンテージ」を要求する 多くの経営者が勘違いしていますが、投資家や株主が「売上を増やしてくれ」「利益の金額を増やしてくれ」と言うことはありません。彼らが経営者に常に求めるのは、投資に対する「パーセンテージ(利回り)」です。 社内の会議で「うちの部門は利益の額こそ少ないですが、一応黒字ですから会社に貢献していますよね?」と胸を張る管理職がいます。しかし、そのわずかな黒字を出すために莫大な資産を抱え込み、ROAが1〜2%程度しかないとしたら、資産の使い方として非常に効率が悪い状態と言わざるを得ません。 「ウチは利益が出ている」と安心する前に、「その利益を出すために、いくらの資産を使っているか」を計算する習慣を持ちましょう。利益の「額」ではなく「効率(%)」で自社を評価することが、本当に強い会社をつくる第一歩です。 まとめ ROAとROEは、P/L(利益)とB/S(資産・資本)を組み合わせた、企業の実力を測る究極の指標です。単に利益の額を追うだけでなく、「どれだけの資産を使って、その利益を稼いだか」という投資効率の視点を持つことで、経営判断の精度は格段に上がります。 財務レバレッジと安全性分析・資本回転率・CVP分析など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第2回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~P/Lは金額ではなく「比率」で見よ!利益構造の真実~
決算書の数字は「過去・他社・目標」の3つと比較して初めて「異常値」が見えてくることを前回お伝えしました。今回は、会社の成績表である損益計算書(P/L)の数字を比較する際の「極意」について解説します。 ポイント① 「売上アップ!」と喜ぶ社長の死角 建材卸売業を営むB社の社長は、決算書を見て大喜びしていました。「今期の売上は5億円だ!前期の3億円から大幅アップで過去最高だ!」しかし、経理担当者の表情は晴れません。「社長、たしかに売上は伸びましたが、営業利益は前期と同じ3,000万円のままです」 売上が3億円から5億円に2億円も増えたのに、本業の儲けである営業利益が1円も増えていない。これは、売上を増やすためにそれ以上のペースで経費(コスト)が膨らんでしまっている証拠です。 P/Lを金額(絶対額)だけで見ていると、「売上が増えて良かった」「利益が出ているから大丈夫」といった表面的な感想しか出てきません。金額だけを追う経営は、水面下で抱え始めている「コスト体質の悪化」という重大な病のサインを見落としてしまう危険性があります。 ポイント② P/Lは「金額」ではなく「比率」に置き換える 会社の本当の利益構造を知るためには、P/Lの各項目を金額ではなく、「売上高を100%としたときの比率」に置き換えて比較する必要があります。先ほどのB社の数字を比率に置き換えてみましょう。 前期(売上3億円) 当期(売上5億円) 売上高 3億円(100%) 5億円(100%) 売上原価 2.1億円(原価率70%) 3.5億円(原価率70%) 販売費及び一般管理費 6,000万円(販管費率20%) 1.2億円(販管費率24%) 営業利益 3,000万円(営業利益率10%) 3,000万円(営業利益率6%) 仕入価格である「原価率」は70%のまま変わっていませんが、給与や広告費・運賃などの「販管費率」が20%から24%へと4ポイントも悪化し、結果として営業利益率が10%から6%に急落している事実が浮き彫りになりました。 ポイント③ 利益率の悪化は「無理な商売」の警告サイン 比率の悪化(異常値)を見つけたら、「なぜそうなったのか」という原因を現場に確認します。調べてみると、B社では売上目標を達成するために通常は取引しないような遠方の顧客まで無理に営業を広げていました。その結果、売上は伸びたものの、長距離の「運送費」が急増し、さらに新規顧客を獲得するための過剰な「広告宣伝費」や「接待交際費」がかさんでいたのです。 利益率が低下しているということは、商売の効率が悪くなり、資金繰りに余裕がなくなっていることを意味します。薄利多売の戦略を意図的に取っているなら別ですが、気づかないうちに利益率が悪化しているのは非常に危険です。経営者は金額の増減に一喜一憂するのではなく、比率ベースで会社の体質を定点観測する習慣を持つことが大切です。 ポイント④ 利益率を改善するための「2つのアプローチ」 P/Lを比率で分析し利益率の悪化に気づいた場合、打つべき手は大きく2つしかありません。 ① 固定費を減らす 人件費・家賃・無駄な交際費といった固定費(売上の増減に関わらず一定にかかるコスト)そのものを削減することで利益率を改善します。B社であれば、遠方への強引な営業をやめ、過剰な広告費や交際費を見直すことがこれに当たります。 ② 付加価値(限界利益)を多く稼ぐ 売上から変動費(仕入原価など)を引いた「付加価値(限界利益)」を大きくすることです。「材料単価を引き下げて原価率を下げる」か、「商品・サービスの質を高め販売価格をアップさせる」という方法があります。安易な値引きに頼らず、顧客に価値を認めてもらい適切な価格で買ってもらう努力が必要です。 まとめ 損益計算書は、金額の羅列をただ眺めるのではなく、売上高を100とした「比率の推移」を過去と比較することで、利益構造の歪みにいち早く気づくことができます。異常に気づいたら「固定費の削減」か「付加価値の向上」のどちらに手を打つべきかを考えましょう。 ROAとROE・安全性分析・CVP分析など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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第1回 経営者のための経営分析実践[応用編] ~決算書をただ眺めるのはNG。「3つの比較」で異常値を見つける~
決算書は会社の「健康状態を表すカルテ」であり、経営分析は「現在地を確認するGPS」です。しかし、数字をただ眺めているだけでは、会社の本当の姿は見えてきません。今回からは、具体的にどうやって自社の異常を見つけ、未来に向けた「次の一手」を打つのかという、より実践的な経営分析のステップに入ります。 ポイント① 数字は「結論」ではなく、ただの「事実」にすぎない 「社長、今期の売上高は過去最高の5億円を達成しました!利益も1,000万円出ています!」 経理担当者からこう報告されたら、皆さんはどう応えますか。「よくやった!」と手放しで喜ぶでしょうか。しかし、数字だけを見て喜ぶのは危険です。 分析において最も大切な大前提は、「数字は結論ではない」ということです。たとえば、売上が過去最高でも、実はライバル企業はもっと高い伸び率を記録しており、市場シェアを奪われているかもしれません。あるいは、利益が1,000万円出ていても、在庫が異常に積み上がっており、来期には資金ショートを起こす「黒字倒産」の予兆が隠れているかもしれません。 つまり、決算書の数字は結論ではなく、なぜそういう数字になっているのかという原因や内訳を調べるためのスタートラインにすぎないのです。 ポイント② 異常を見つけるための基本動作「3つの比較」 ただ並んでいるだけの数字から、どうやって「異常値」を見つけ出せばよいのでしょうか。そのための基本動作が「3つの比較」です。数字というのは、他の数字と比較して初めてさまざまなことが見えてきます。 ① 過去との比較 前年同月や過去3期間分の決算書を並べて比べてみます。すると、「売上は伸びているが、実は利益率は3年連続で低下している」「交際費が急激に膨らんでいる」といった、単年度の決算書を見ているだけでは気づかない「体質の変化」が見えてきます。 ② 目標との比較 期首に立てた経営計画や年度予算と、実際の実績との比較です。どこが目標未達になっているか、あるいはどこが達成できているかを確認し、未達の場合はその原因を究明して改善策を打ちます。 ③ 他社との比較 ライバル会社や同業者平均と比べて、自社がどこで勝っていてどこで負けているかを数字で見ます。「他社の財務データなんてどうやって手に入れるの?」と疑問に思われるかもしれませんが、インターネットを使えば無料で引き出すことができます。 上場企業をベンチマークにする(EDINETの活用):同じ業界の上場企業の有価証券報告書は、金融庁の「EDINET(エディネット)」で誰でも無料で閲覧できます。業界トップ企業の人件費率・原価率を自社と比べることで、経営の改善余地が見えてきます。 公的データの活用:中小企業の業種別財務データとして実務的に使いやすいものとして、以下の2つがあります。 日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(https://www.jfc.go.jp/n/findings/shihyou_kekka_m_index.html):業種ごとに収益性・生産性などの指標値が集計されています。 東京都中小企業診断士協会 財務診断研究会(https://www.zaimu-shindan-kenkyukai.jp/中小企業の財務指標/):中小企業実態基本調査のデータを業種別に整理したExcelファイルをダウンロードできます。小売業・製造業・建設業・卸売業など業種別に確認できます。 いずれも無料で利用でき、自社の立ち位置を客観視するのに役立ちます。 ポイント③ 数字の裏にある「原因」を探り、正しく「評価」する 「3つの比較」で異常値を見つけ、その原因や内訳をつかんだら、最後に行うのが「評価」です。その数字の変化が、会社の将来という観点で見た時に良いことなのか、悪いことなのかを判断し、理由を付けて説明できて初めて「分析」と呼べます。 この「評価」を誤ると、経営は致命傷を負います。たとえば、以下のようなケースを考えてみましょう。 ある地域密着型の工務店が、資金繰りの悪化を受けて徹底的なコスト削減に乗り出しました。その一環として、長年顧客から信頼を集めてきた熟練職人を削減し、人件費を大幅に圧縮しました。直後の数ヶ月間は人件費が削減され、利益率が改善したように見えました。しかし、施工品質の低下により顧客からのクレームが増加し、長年積み上げてきた口コミや紹介による受注が激減。最終的には売上そのものが大幅に落ち込んでしまいました。 「人件費を削って利益率が改善した」という数字に対し、「利益の源泉である施工品質と信頼を破壊しているから、長期的には致命傷になる」という正しい評価を下せなかったことが、この会社の悲劇でした。 まとめ 経営分析は、「数字(異常値)を見つける」→「事実(原因)を調べる」→「自社の強みや将来に照らし合わせて評価する」というステップで進みます。数字はあくまでスタートラインです。その裏にある「なぜ?」を追い続けることが、経営者としての本当の仕事です。 P/Lの比率分析・ROAとROE・安全性分析など、引き続き実践的なテーマを今後の記事で順次取り上げていく予定です。引き続きご覧いただけますと幸いです。
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